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第3話《新人騎士ですが、ある日激レアのプレイヤー種族 "双眼異色族" に出会いました》
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飲食店などが立ち並ぶ場所から住居が密集している区画に入り屋根伝いに目的地へと移動する。
最初渡った時は踏んだ衝撃で屋根が壊れてしまわないかと恐る恐る歩いていたが、
何回も通るうちにすっかり慣れてしまっていた。
そして周辺より少し高いとあるレンガ作りの民家の屋根へ降り立ち、
そこから飛び降りるように屋根のへり部分をを掴み、
周りを見ると壁がへこんでいる箇所がありそこに手を当て窓を開け中に侵入する。
中は埃が立ち込める小部屋であり、部屋隅に存在するダクトに入る、
ダクト内は軽装備の俺がギリギリほふく前進できる位の大きさなので、
ガタイのいい人物や重装備の人物は入れないだろう。
ダクトの終着点に向かうにつれ鉄と油の臭い、そしてカンカンという金属同士が衝突する音がリズムを作るように等間隔聞こえてきた。
「おやっさんただいま」
ダクトから室内へ着地するとおやっさんと呼ばれた茶髪の男は手に持った鎚を置いて振り返る、
ここは彼の《工房》だ。
「こんの不良息子が!夜遅くまで出歩きおって、どうせいかがわしい店にでも行ってたんじゃろ?」
帰って来て一言目がそれかい……
「なわけ年齢時点で入店拒否だわ、厄介事に絡まれたんだよ」
「厄介事?」
「例の初心者ドリンク強奪してた奴追ってたら、
そいつを狙ってた別のプレイヤーに会ってな、
俺の感だと相当な実力者だってな、
追いかけたかったけど見当たらなかったし」
「お前さん《索敵》スキルでも追跡できないとなると、相当遊んでおるプレイヤーじゃな」
「んで気になったからそいつの情報収集も兼ねて夜遊びしてたって訳」
「言い訳だけは作ったようじゃな不良息子、
わしはそんな風に育てた覚えはないぞ?」
「俺は育てられた覚えはねえよ……
でもまあ、おっちゃんの装備のおかげで今もこの世界で生きていけてるから、
感謝はしてる」
ふと机の上に置いてある銀色の丸い球体を手に取る。
「おっちゃんこれ何?」
「《爆弾》じゃよ」
「ふーん爆弾……《爆弾》!?」
俺は素早くに元の位置に戻す。
「馬鹿どもが新しく作ったらしい、
自慢したいのか試作品を送り付けてきおった、そいつは6連式らしい」
鍛治職人同士が集まって発足した《鍛冶連合》
この世界で一般普及している装備は約4割以上さんが手掛けている。
最近では《鍛冶》スキルを持ったプレイヤーの育成も始めているらしい。
「へー遂に5の壁乗り越えたんだ、
これで敵を怯ませる時間が延長して、攻略が楽になるんじゃない?」
「だが所詮は欠陥品じゃな、
初期ストレージの1/3食うようなブツ誰が使うんじゃ」
俺は変に起爆させないように恐る恐る触れ《鑑定》を発動する。
《バクmk26》 カテゴリ:投擲武器 重量:60
《効果》
(使用後一定時間で爆発
6回の連続ダメージ(固定値100))
「あれ?前回より固定ダメージ落ちてない?」
前作は確か170程だった筈だ。
「あのバカが何も捨てずに回数を稼げる訳ないじゃろ」
あのバカというのはこいつの製作者、
プレイヤーネーム 《キリヴェリア》さんだ、
おっちゃんの元弟子だったので良く知っているらしい、
そして《鍛冶連合》の長をしている。
何度か彼から新装備のテストを依頼された事もある。
「そうだ、おっちゃんこれ」
俺は眼帯が入った小箱を渡す。
「なんじゃ?ワシにプレゼントか…?
……おい小僧、近頃はこう言ったものを送るのが流行ってるのか??」
「いやそれ俺の装備だから、前言っただろそろそろ新しい《装飾品》枠の《装備》が欲しいって」
「また《自動回復》……
しかし《黒晶》シリーズか、素材としてはなかなかじゃな、
案が何個かあるが暫くかかるぞ?」
「気長に待つよ」
「……そういえばお前さんそろそろローブの耐久危ういんじゃないか?」
さすがだ、俺の戦闘頻度とダメージの受け方をよく分かっている。
「今日ここに来たのは修理が目的」
俺はローブを脱ぎおっちゃんに渡し《修理》をお願いする。
《修理》することで《装備耐久値》と《装備破損値》を回復する事ができる。
《装備》は《装備耐久値》と《装備破損値》という物が設定されている、
どちらも攻撃をしたり受けたりする事で徐々に減りグラフィックが壊れていくように表示される、
《装備耐久値》は0になっても《装備》に設定されているステータスが大幅に下がるだけだが、
《装備破損値》が0になった場合はその《装備》は壊れ《修理》も出来なくなる。
ほかの違いとしては《装備耐久値》専用アイテム《鍛冶師の粉》を使用することによって少量だが回復できるが《装備破損値》は《鍛冶職人》が持つ専用の工房でしか回復できないので《装備破損値》だけは絶対に把握しておかなければならない。
黒いインナーのみでは寒いので、
炉の中存在する炎に近寄り体を温める
「また広がったか?」
おっちゃんは今まで隠れたがローブを脱いだことによって顕になった俺の"黒く変色した"右腕を見ながらそう言った。
「こいつとはもう仲良くやってるから大丈夫、最近は侵食も遅くなってるみたいだし……
心配しなくても俺はそう簡単には死ぬつもりはない、
どうせなら最期までこっちでの人生を楽しみたいしな」
右腕には常時不快感が襲っているがもう慣れたものだ、
侵食し始めた頃は不快感のせいで右腕の感覚がなく、
脳から伝達しアバターに反映されるまで遅延が発生していたが、
元々適性が低く全ての動作にコンマ何秒かの遅延あった、
なら最初からそれを踏まえ動いていればいいだけだ。
おっちゃんはローブのほつれた箇所を糸と針で塗って行き最後に鎚で叩く。
(ほんとに何回みても謎だよなあ
針や糸で治すまではわかるけど鎚で叩くって、要らなくないか?
まあほとんどのゲームは布でも木でも金属でも鎚で叩けくか修理を選択すれば修復できちゃうゲームばかりだからなあ……
今考えればそっちの方が謎か)
「あと何回行ける?」
「現状の《鍛冶》だとあと2回までじゃな」
この世界の修理には《鍛冶》スキルのレベルと持っている《槌》のグレードが関係する。
《鍛冶》と《槌》のグレードが高ければ100%で修復される、
低ければ失敗する確率が高まり、
失敗すると装備は消失する危険が発生する。
レア度が高い装備程修理できる初期確率は低くなる傾向がある、
修理確率を上げるアイテムが存在するが希少だ。
通常高レア装備や愛着がある装備は《鍛冶》と
グレードが高い鍛治職人に依頼するのがベストだ。
俺はストレージからドロップアイテムや野盗から奪……貰ったアイテムを放出する。
なにかコマンドを選択したおっちゃんが持ってる鎚が、
ばらまいた素材をどんどん吸いこんでいく、
何度も見た光景だがシュールである。
「ローブの修理おわったぞい」
渡されたローブをすぐに鑑定する。
《旅人のローブ》 カテゴリ:防具 重量:7 修復回数:8
DEF 8(+10)
AGI 4(+5)
★《頑丈》
(HPが最大HPの半分以上ある場合、一撃でHPが0になる攻撃を受けても無効化する
CT60)
★《下克上》
(相手とのステータス差が広ければ広いほど、《攻撃スキル》の威力が上がる 上限150%まで)
☆???
《異世界から迷い込んだ旅人、旅人の前には無数の可能性がある、何を選び何を捨てるかはその旅人しか知らない》
(ボーナス値が少し上がったな)
《装備》を《修理》する度に《装備》のパラメーターがアップする、
高レアリティ装備程付与されるボーナス値は高い。
サービス開始当初、耐久値が1でも減れば修理出来ることを利用しレア装備を修復したプレイヤーがいたが。
結果はボーナス値は、元の装備のステータスが合計で50以上あるのに関わらず本来なら2桁いくはずのボーナスは1桁しか付かず、
さらにスキルが1つも解放されないと言う出来事があった。
その装備はステータスが低く、修理確率も低くなった割に合わない装備として使われなくなったらしい。
運営はこのようなプレイヤーが出ることを事前に予想しこのようなシステムにしたのだろう。
その後検証勢が調査し、
ボーナスステータスは、ギリギリで修復すれば付与される値は増えるがこの世界では連戦や長期間ダンジョン探索することも珍しくない。
戦闘の途中で壊れてしまったら元も子もないので、2/3程度減った所で修復した方がいいという結論が出た。
(……熟練度の方はまだまだだな)
《装備》を使い続ければ使い続けるほど《熟練度》というものが溜まり、
一定値溜まると装備している間新スキルが発動できる《使い込み》システムが実装されている、
やろうと思えば始めたばかりに入手でも最前線のボスで輝く事があるかもしれない、
《修理》ボーナスと同じでレアリティが高いほど強力なスキルが開放されるので有用だ。
開放されるスキル数はは装備によって2つや3つ、4つと解放数は異なる、
レア度によって差はないと思われる。
そして最後に装備の1番下の項目、持ち主の項目に目を向ける。
プレイヤー名:《リヴィア》
もう何度もその項目を眺めたのだろうか……
俺はウインドウをそっと閉じた
「おっちゃん……俺はもう落ちる、また来るありがとうな」
「ああまたな」
ぶっきらぼうに答えるおっちゃんを横目に《ログアウト》を選択しながら意識を夢へと手放した
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ラルフットの森》
少し前までは森の奥に新エリア解放のボスが存在し、
エリアクリアのため《ダンジョン》には大勢の冒険者が攻略のために集まっていた、
だがボスが撃破された今ではマップを埋めたりレベル上げにくる少数の冒険者しか居ない。
推奨レベルは約30程度のため立ち回りさえしっかりしていれば比較的安全なエリアだ、
欠点があるとすれば初心者がまず初めに攻略するエリアである《ナーガレの森》と隣接しているため、
度々迷い込む新米が現れる、
エリアが変わる時名前の表示は現れるが推奨レベルは表示されないため、
そのまま進み低レベルでは手に負えないモンスターにやられてしまうことが多い。
そんな冒険者を助け街まで案内することが
《青龍騎士団》所属の俺の今日の仕事だ。
ガチャガチャと音を立てる鎧を着ながら
森の中を巡回する、
最初頃は重量が重く行動が阻害されしかも金具などが当たる音が五月蝿かったが、
今ではもう慣れた……
暫く歩いていると索敵に引っかかる何かがあった。
(モンスターか?)
森の中を駆け抜け、倒木を飛び越えその場所にたどり着く。
そこには初心者らしきローブを着た冒険者が猿をモチーフにしたモンスター《トゥ厶コフ》と交戦していた。
《トゥ厶コフ》は6体、
俺は確認しながら走りながら剣を《投擲》する。
武器にはそれぞれカテゴリが存在する
大まかに分けると《剣》《斧》《槍》《弓》《銃》だ、
《剣》の中でもさらに《片手剣》《両手剣》《大剣》《刺剣》《曲剣》《刀》などが存在するが今は省く。
俺が投げた剣は相手が複数だった事が幸いとなったのか投げた剣で2匹を串刺しにする、
それによって数匹がこちらに気づき威嚇ように飛び跳ねる。
無手の俺は素早くアイテムウインドウを開き《弓》を装備する。
「伏せろ!!」
冒険者に指示すると直ぐに伏せるのが見えたので俺は4本の銀の矢を同時に番え、放った。
放たれた矢は全て《トゥ厶コフ》の胸元へと吸い込まれていきHPを消失させる。
《70exp
・トゥムコフの毛皮 x3》
ウインドウが表示される。
(レアドロのしっぽは無しか……)
俺はすぐさま冒険者に駆け寄る。
「もう顔を上げても良いですよ、大丈夫ですか?」
「はいっ!大丈夫です、助けていただきありがとうございます!」
ピョンと立ち上がり服に付着した砂を払ったあとぺこりと頭を下げる冒険者、
顔はローブのフードを被っているせいで見えないが女性の声だった。
「俺は《聖竜騎士団》のリク、君は?」
「えっと、リヴィアです !」
とフードを取るとふわりとした雪のようで白い髪が舞う、
月の光に照らされ思わず目が奪われてしまいそうになったがそれよりも彼女の眼に目が奪われてしまった。
燃えるように強く光る赤い右眼、
そして左眼は優しくそしてどこか寂しく光る青色。
《双眼異色族》
この世界では珍しい種族、スタート時の種族選択画面で特殊演出が表示され選択できる特別な種族1つらしい、
確率は明記されていないがかなり低い。
人間は全てのステータスが標準、
エルフならINTとDEXが高くATKが低くなる、
獣人ならATKとAGEが高水準だがLUKが低い、
など種族によってステータスの伸びが変わるのだが。
《双眼異色種》はステータス全ての成長が良いと噂されている種族だ
近接、遠距離ともに高い適性を持っている。
存在自体はPVで登場し、ゲーム開発者のインタビューでも存在語られていた。
PV詐欺が無いのもこのゲームのいい所だ。
そしておそらくだが現状どのエリアでも《双眼異色種》はプレイヤーとしてもNPCとしても存在していない、
そのはずだった。
だが実際には今まで見たことがなかった幻の存在が目の前にいた。
「リクさんってお強いんですね!」
さっき俺が投げ彼女の少し横の地面に刺さった《銀の剣》を
抜こうとしながら彼女は言った。
武具にはそれぞれ装備するのに必要なステータスが設置されており《銀の剣》を装備するために要求されるSTRは40、
ということは彼女はそれ以下なのだろう。
ステータスをSTR特化で振っていたらレベル20前後
特化でなくても30まで来れば装備できるはずだ。
《銀の剣》を受け取り再装備する、
《剣》などの武器は投げれば《投擲》武器として変化するが、
本来の使用用途をするためには再装備しないといけないのが手間だ。
「えっと、どうしたんですか?」
失礼とは思うが俺は彼女を観察する、
初期装備のローブに、初期装備のボロボロのズボン……
どう見ても始めたばかりの初心者が迷い込んだようにしか見えない。
「えっとリヴィアさん、今のレベルを教えて貰ってもいいかな?」
「レベル?レベルってなんですか?」
「えっとステータス画面から見れるはずだけど……」
「ステータス画面?……見れる?レベル見たいです!いでよレベル!レベル、見たい!」
彼女は変なポーズをしながら虚空に向かいレベルを見たいと連呼してた。
そんな様子を見て彼女が初心者だと確信する、
それもゲームをあまりやった事はなく、
前提知識もないのにチュートリアルを飛ばすタイプの人だと……
「まず初期状態ならステータスウインドウは手を握って開けば表示されるはずです」
俺は彼女にステータス画面の開き方をレクチャーする。
「……ウインドウいでよ!!!」
と大声で叫んだ。
実際は叫ばなくても何も言わず手を握って開けば表示されるのだが、面白いので黙っておく。
「わっ目の前になにか出てきましたっ!!」
「中央に自分の名前、そしてその横にレベル、数字が表示されてると思うからそれを教えてくれないかな?」
「えっとレベル7です!!」
「7か……どうやってここまで来たか覚えてます?ナーガレとの境界線からここまで結構離れているんですがどうやってここまで来たから覚えてますか?」
ここはナーガとラルフットの境界線からかなり離れている、距離的には歩いて13時間程だろうか?
ラルフットは端から端まで歩いた場合3日はかかる……
まあそれはさておき彼女のレベルでは《隠密》スキルを取っていたとしても、エネミーエンカウントは免れないだろう、
それなのに彼女はここにいる不自然な話だ。
「??えっと気がついたら森にいて抜けられないかと迷っていたらさっきのお猿さんたちに襲われたんです……」
その言葉を聞いて考える。
(通常、ゲームを始めた最初のリスポーン地は始まりの街の広場はず……
しかしそういえば過去にも広場から離れていたり、地面に半分埋まっていたりと、位置バグが少し報告されていたからその類か?
だとすれば森の中とは災難にも程があるな……
下手したら何も体験できずにこの世界から消滅していた可能性がある、危ない所だった……)
「あの~?」
「どうしました?」
「私これからどうしたらいいでしょうか?」
彼女は不安そうにこちらを見つめる。
「まず街に戻りましょう、話が本当ならば初期状態だろうから《帰還》は使えないでしょうし、歩いて行きますけど大丈夫?」
「はい!お願いします!」
俺達はそのまま街へ向けて歩き始める。
(マップ位置だとここから街まで18時間、
となると3時間程か彼女を街へ送り届ける届ける時間はありそうだ)
道中彼女の事をそれとなく聞いてみたが
どうやらシステム的知識をほぼ知らなかった。
ここがギャウリディアというゲーム内の仮想現実だと言うことは理解していたが
俺の予想通りステータス関係や
ステ振りやスキル習得、アイテムの使い方、装備の仕方などチュートリアルで習うはずのものの知識が存在していなかった。
チュートリアルは他VRMMOタイトル経験者処置としてスキップが存在し、
そのため選択ミスによって間違えてスキップする場合もあるから驚きはしなかった、
その場合の対処法としてテキストでの説明が設定画面から見ることが出来たり、
最初の街にチュートリアルをもう一度体験出来る場所があったりする。
まず彼女には最初にステータスボーナスの割り振りをするために《職業》を決めてもらう。
最低でもレベル20までに自分が《戦闘職》《生産職》《その他》の内のどのスタイルでこの世界で過ごすか決めなければならない。
絶対という訳ではなく、
高レベルの《戦闘職》のプレイヤーが《生産職》に転職する事もあったが、
必要なスキルを揃えきれなくなったりなど不都合な事は多くなる。
「この世界を見て旅する《冒険者》、
その《冒険者》を助けたり住民の生活を支える《生産職》、
そしてそれ以外の職種。
リヴィアさんはこの世界でどんな事して過ごしたい?」
リヴィアさんの指が空中で上下に何度も何度も動く、
彼女は今100以上の種類に渡る《職業》の中から、
自分がなりたい物を一生懸命考え、選んでいるのだろう。
……まあ適当に選んでもレベル20までなら雑にステータスを振っておいても後で取り返しが効く。
「リクさんはなんでこの世界に来たんですか?」
不意にそう聞かれ考える。
「……憧れ、かなあ」
「憧れ?ですか?」
「昔から剣と魔法の世界、ドラゴンとか見たことがない想像上の、ファンタジーの世界が好きでね、
いつかこの本の様な世界で冒険して世界をこの目で見てみたいって思って気がつけば買ってこの世界にいたんだ」
「ですよね!ですよね!!???」
俺の話を聞いて彼女が少し興奮した様子で前のめりにグイっと近づいてくる。
「やっぱりこういうファンタジーの世界って憧れますよね、自分の世界と、文化も生活も、食事も違う
その中で楽しそうに生きる人々、
強いモンスターを倒し仲間と成長する絆の物語、
ド派手な魔法を使ったりかっこいい剣技を使ったり……
やっぱり憧れますよね!!」
興奮気味に話す彼女に少し親近感覚える
「君もファンタジーの世界に憧れを持ってるんだ」
「はい!!」
それからしばらくファンタジー世界のいい所とか悪い所、食べてみたい食べ物など雑談をしながら言葉を交わし歩いていた。
気がつけば日は沈み、当たりは真っ暗になっていく。
(境界線まではあと3時間くらいだが、そこから街までは2時間かかる、
夜がに無理やり行動すれば凶悪なモンスターと遭遇する能性が高まる、
そろそろ彼女も歩き疲れているだろうし休憩するか?)
数歩後ろを歩く彼女の方を向くとみると目線が会い笑顔になる、
しかしその表情には疲労が見え隠れしていた。
「……リヴィアさん、今日はここで野宿しようか」
「野宿ですか?」
「暗闇は敵の発見を遅れさせるし危険性がある、
視界を確保出来なければ満足に戦うこともできない。
最悪の場合《闇に潜むモノ》と出会う可能性がある」
《闇に潜むモノ》は深夜にしか現れない正体不明のモンスターだ、
人型の靄がかかった様な見た目をしており、
主に奇襲を得意とする。
実力は上位プレイヤー100人の平均値とされているがそれはソロの場合だ、
パーティならば更に強化される。
遭遇すれば《撃破》できて瀕死、逃走できても怪我は免れないほど強力なモンスターだ。
そんな危ない存在が徘徊しているかもしれない森を無理に通る必要なはない、
幸い火を炊けば遭遇する事はないらしいので俺は周辺に落ちている枝を集め《火瓶》を取り出し火を起こす。
《火便》は魔法やスキルを使わなくても、火が起こせる優れものだ、
市販されているので簡単に手に入る、
用途は火を起こしたり、モンスターに対して使ったりだ、
火を起こすことによって、着火したプレイヤーよりレベルの低いモンスターは寄り付かなくなる、
《ボス》や《徘徊ネームド》には意味がなく
ダンジョン内では効果がないため、野宿する場合に火属性の魔法を覚えていない場合には重宝する。
それ以外に体が毛皮に覆われている《獣系》モンスターに対して時《火瓶》を投げつけることで、
毛皮が焼けダメージが通りやすくなったりする。
他にも《水瓶》がありこっちは水を周辺にばらまける、
飲水としては、飲めはし少し空腹は満たされるが何故かダメージを受けるので、飲むプレイヤーは少ない。
地面に座りアイテムストレージから食料、パンとバターを実態化させ彼女に渡す。
「貰ってもいいんですか?」
「お腹が減ると《空腹》のデバフを受けて体が思ったように動かないようになるから、食べた方がいいよ。
そこらの生えてる草や木の実なんかを食べてもいいけど、大抵の場合食中毒起こすからやめといた方がいいよ」
食感もパサパサとしあまり美味しくもないパンだが
これでもひとつ100ルーニーはする、
この世界では1日3食、宿屋を利用するだけで買うと3000は軽く超える、
それを安く思うから高く思うかは個人の自由だが、この世界に来たばかりの冒険者は高く思うはずだ、
なぜなら初心者がラルフットで1日頑張りモンスターからドロップアイテムを集め《売却》したとしても700ルーニー稼げるかどうかだ、
3食食べれば無くなってしまい野宿する羽目になる。
さらに装備の《強化》、《修理》などがあるから、収入は赤字を大きく記録するので、
街の掲示板などに記載された《依頼》を受けながら生活することがほとんどだろう。
ボスやリポップ型の《徘徊ネームド》を倒せばそれなりに懐は潤うが命懸けという障害が立ち塞がる。
幸い俺は《軍団》に所属しているので、
そこら辺は経費として負担してくれているから楽なのだが、
小、中、ギルドやクランの家計は火の車だろうな。
俺はストレージから《月光草》《凛凱蝶の鱗粉》を取り出して《調合》を始める。
その光景が珍しいのかリヴィアはじっと調合の様子を眺めている
まず《月光草》をすり潰し、《凛凱蝶の鱗粉》を入れ、
しばらく混ぜ合わせた後に《純水》は入った《瓶》に入れれば完成だ。
瓶を持ち上げると緑色の粉が月と星の光を受け瓶の中で光り輝いている。
《鑑定》
《月光蝶の秘薬》 グレード5 重量:5
・最大HPの40%を回復
《月光草》は体力の30%を20秒かけて回復させるNPCの店で買える最上位回復アイテムだ
そして《凛凱蝶の鱗粉》はアイテムの効力を跳ね上げてくれる効果がある。
それらを使いできた《月光蝶の秘薬》 は怪我や病で日々需要が高まる回復アイテム業界の最前線に位置すると言っても過言ではない、
これ以上の回復アイテムはまだ作成されていないか、作られていてもそう易々と使えるものではないだろう、
これも《凛凱蝶の鱗粉》が入手難易度の高い素材なので俺も数は持っていない。
「うわぁ……綺麗ですねっ!」
俺が持つ瓶を下から覗き込んできたリヴィアに対してその瓶を差し出す。
「良かったら貰って」
俺はさらに瓶に入った回復薬を数本と《月光草》10個渡す。
「こんなにいいんですか?」
「ああ、受け取ってくれたら嬉しい」
彼女が冒険者をするのであればまた何処かで会うことになるので今後の先行投資も兼ねている。
俺はそれから渡した回復アイテムについて説明した、
副作用と言っても単純な事なのだが。
「まず《月光草》こいつは20秒をかけて自分のHPを3割回復するアイテム、
使用は方法は口に含み、咀嚼し、飲み込む。
少し苦いけど全部飲み込めば効果が発動される、
場合によっては戦闘前に予め口に含んでおいて、
ピンチになったら飲み込むって事もできます、
戦闘中に回復アイテムを実態化させ、口に放り込む事はかなりの隙になり、
咀嚼している間は《防御力低下》と《衝撃抵抗力低下》が発生するので危険です、
仲間がいればカバーし合えば回復タイミングは作れますが、
ソロは回復タイミングによっては命取りになる事を忘れないでください」
ギャウリディアでの代表的な回復アイテムは
《草系》と《飲料系》そして《特殊系》に分けられる。
前者は本当に草のような見た目で素材そのままです、みたいなもので苦いものが多い、
《飲料系》は《瓶》等に入った液体だ。
《特殊》種類が多いの割愛する、
まあその他に《持続回復》と《即時回復》にも分けられるが今は置いておこう。
「《草系》利点としては、徐々にHPが回復するから多少のダメージなら気にしないで戦える、
重量も軽い多めに入れてもインベントリを圧迫することもない、
それと持ち運べる数も平均で30とかなり多いからなるべく持っておいて損は無いかな」
その隣の《回復薬》を指差す。
「次に《飲料系》、利点は《草系》と違い、
苦くもないし飲めばHPが直ぐに回復する、
その代わり持てる数は少ない、これは5本。
これも予め瓶を咥えて置くことができるけど物によっては瓶が重いので顔と顎に負担がかかるからあまりやらない方がいい」
悪い点は《草系》と比べて回復量が低い、
直ぐに回復出来るという点を見れば緊急時には軍配が上がる。
「でも苦いのを飲むくらいなら、《飲料系》を一杯持っていった方がいいんじゃないですか?
そのアイテムによって上限は変わるんですよね?」
「確かに10種類の《飲料系》回復アイテムを持っていたらそれぞれの合計で40本以上持てる。
《草系》を使い苦いのを口にして嫌な気持ちで探索したり戦闘するくらいなら《飲料系》を使った方がいいと考えるのは普通だね。
でも考えてみて、この小瓶でも100ml程入っている、
それを1日何本も何本の飲んだらどうなる?」
そう聞くとリヴィアの顔が少し青ざめた気がした、多分想像したのだろう。
当然だがこの世界のプレイヤーアバターの胃袋は無限でない、食べれば食べるだけお腹は膨れるし体重や体型にも影響する。
「回復アイテムってどれだけ持ってればいいんですか?」
「明確な基準はないよ、自分の戦闘スタイルに合わせて決めた方がいい。
ガンガン戦うタイプなら多めに持っていた方がいいし、
回復魔法を使う予定なら少なくてもいい、
だけど持たないという選択肢は無いかな」
「なるほど」
「……あと説明しなきゃいけないのは《スタミナ》かな」
「スタミナですか?」
「自分のHPバーの下にもうひとつ白いバーがあるのが見えるかな?」
「これですね!歩いてた時減ったり増えたり繰り返してたので何かなぁって思ってたんです」
「それがスタミナの表記、このゲームに置いて1番重要と言っても過言じゃない」
このゲームでは移動、回避行動や魔法など
普通に生活していてもスタミナの消費が伴う、
普通に歩く程度なら消費量と回復量が均衡しているが、
少し激しい動作をすれば目に分かるほど減っていく。
徐々に減って行き0になってしまえば強制的に《スタン》状態になり、
意識が朦朧として体を動かせなくなる。
ほぼ街にいる《生産職》などならば少し横になったりし休めば回復するが。
冒険者は常に危険と隣合わせの為、
戦闘中などにスタミナが無くなった場合受けるダメージが確定クリティカルなるため
スタミナ切れイコール死となる。
《盾》と呼ばれるVITやDEFを極振りにして体力と防御力を高めているプレイヤーでも、
短時間での連続ガードでスタミナが削れられスタミナ切れに陥り、
自分より格下モンスター集団にやられてしまったという話も聞いたことがある。
使用するスキルの威力が高ければ高いほど、スタミナの消費は増大する。
スタミナの回復方法は、消費量が回復量に上回らないように動くか、立ち止まって休む、
それしか現状存在していない。
ソロや少人数パーティでは立ち止まることさえ許されないボス戦などではスタミナ管理が勝敗を分けると言っても過言ではない。
そもそも少人数でボスに挑むこと自体滅多にないが……
ふと彼女の方を向くと何故か飛び跳ねていた。
「ほっ!はいっ!ほんとっ!ですね!スタミナが減っていきます!」
聞いて理解するのではなく実際にやって体験するのも大切だ、
わかってくれたなら良しとしよう……
「ならスタミナに全部振っちゃえば完璧ですね!」
笑顔でそう言うが答えはNOだ。
「それだと他のステータスが弱すぎて小さなミスひとつでHPが0になっちゃうね、
防具や武器を装備すればある程度ステータスは上げられるけどそれを装備するための条件ステータスが設定されているから、
何をするとしてもスタミナ以外も振っておかないといけないかな、
自分が武器を使って戦うのか、魔法を使うのか、
必要ないステータスを削って必要なステータスを上げるのが基本かな」
「リクさんはどんなステータスの振り方しているんですか?」
「大切な個人情報だからあまり言えないけど、
AGIに多めに振ってるかな、
ガードするよりも回避を主体にした立ち回りをしているから、
動き回ることも多いからスタミナを増やすためにCONにも振ってるよ、
………リヴィアさんは何かやって見たい職業みたいなの決まってます?」
「私は剣で華麗に敵をバッタバッタと倒してみたいです
綺麗でかっこいいすごい技を使ったり!
後は魔法を使ったり……」
「魔法剣士型か……それなら結構平均的に上げないとダメかな、
骨を切らせて肉を断つなら、STR.VIT.CONを上げ、
敵の攻撃を避けてのカウンタータイプならAGlに振らないと行けない。
魔法を使うならINTも必要だし、
詠唱の時間が気になるならTECを上げれば数秒だけど短縮できる、
《3大デバフ》と呼ばれる毒、麻痺、呪いにかからなくするならRESが必要だ」
「うーん……多すぎて分からないです……」
数ヶ月前の自分を見てるようで何か微笑ましく思える、
俺は最初の《職業替え》の時は悩みに悩んだ、四六時中考えていた程だ。
他タイトルで遊んでいた時の戦闘スタイルは中衛で遠距離武器を使いダメージを稼ぎながらバフ、デバフ、
ピンチ時のタゲ操作などやってる時が楽しかったから、
最終的には今の《弓》をメインにしたスタイルにしている。
それからしばらく職業の事について話あっていると。
「あのぉリクさん」
不安そうな顔で彼女は俺の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「私に付き合ってくれるのは、大変ありがたいのですがお時間は大丈夫ですか?」
「時間?まだ大丈夫だけどどうして?」
「もし学生さんとか、社会人だったら明日朝から大変じゃないですか!」
俺は彼女の言いたい事を理解した、よく勘違いしてしまう間違いだ
「……その心配はないと思うよ、
ギャディアで1日過ごしても現実世界では6時間くらいしか経ってないから、
今は向こうは17時位かな」
「そうなんですか?」
よくは知らないがダイブ型VRゲームの中では脳を活性化させることによって時間の流れの感じ方が変わる。
脳の認識を加速化させ短時間での学習効率などの向上させることができるらしい、
発売当初、少し問題視……話題にもなっていたが、
今ではその技術をゲーム以外の用途でも使用出来ないかと言う声が上がっている程だ。
「まだしばらくは大丈夫だよ、
君を街に送り届けないと、
早く寝た方がいいよ、こっちでも睡眠は大切だからね」
「わかりました、おやすみなさいリクさん!」
彼女は寝息を立てるが俺は次の日の朝まで当たりを見張っていた。
そして次の日のお昼頃俺たち時は最初の町へ辿り着いた。
「本当にありがとうございます!!」
赤べこのように何度も何度も頭を下げる少女。
「いや、気にしなくていいよ、リヴィアさんと話せて楽しかった」
その時視界の端に電話マークのアイコンが現れ点滅する。
「そうだこれ」
俺はリヴィアさんにフレンド申請を送る。
「もし相談でもなんでも何かあったらチャットでも連絡して、
メインクエストを進めたら【都市シュベルハイツァ】に俺が所属している《青龍騎士団》の本部があるから時間あったら連絡してくれると嬉しい」
「わかりました、何から何までありがとうございます!
また絶対会いましょうね!!」
手を大きく振るリヴィアさんと離れ、
未だ点滅している電話アイコンをタップすると目の前にひとつのウインドウが表示され1人の男が映し出される。
「どうした?」
『リクにしては出るのが遅かったが任務中だったか?』
「いや今終わった所だ、んで用事は?」
『先程3番隊が《ボス部屋》を発見した、
今すぐ皆を召集する来れるか《副団長》?』
「ボス部屋か了解……
そういえば頼まれていた例の件だが完全にクロだなあとは現場を抑えれば完璧だ、だから襲撃の日時を相談したい」
『わかった後で話そう』
通信を切る。
「さてボス部屋か久しぶりに楽しめそうかな」
俺は小さく呟いた。
最初渡った時は踏んだ衝撃で屋根が壊れてしまわないかと恐る恐る歩いていたが、
何回も通るうちにすっかり慣れてしまっていた。
そして周辺より少し高いとあるレンガ作りの民家の屋根へ降り立ち、
そこから飛び降りるように屋根のへり部分をを掴み、
周りを見ると壁がへこんでいる箇所がありそこに手を当て窓を開け中に侵入する。
中は埃が立ち込める小部屋であり、部屋隅に存在するダクトに入る、
ダクト内は軽装備の俺がギリギリほふく前進できる位の大きさなので、
ガタイのいい人物や重装備の人物は入れないだろう。
ダクトの終着点に向かうにつれ鉄と油の臭い、そしてカンカンという金属同士が衝突する音がリズムを作るように等間隔聞こえてきた。
「おやっさんただいま」
ダクトから室内へ着地するとおやっさんと呼ばれた茶髪の男は手に持った鎚を置いて振り返る、
ここは彼の《工房》だ。
「こんの不良息子が!夜遅くまで出歩きおって、どうせいかがわしい店にでも行ってたんじゃろ?」
帰って来て一言目がそれかい……
「なわけ年齢時点で入店拒否だわ、厄介事に絡まれたんだよ」
「厄介事?」
「例の初心者ドリンク強奪してた奴追ってたら、
そいつを狙ってた別のプレイヤーに会ってな、
俺の感だと相当な実力者だってな、
追いかけたかったけど見当たらなかったし」
「お前さん《索敵》スキルでも追跡できないとなると、相当遊んでおるプレイヤーじゃな」
「んで気になったからそいつの情報収集も兼ねて夜遊びしてたって訳」
「言い訳だけは作ったようじゃな不良息子、
わしはそんな風に育てた覚えはないぞ?」
「俺は育てられた覚えはねえよ……
でもまあ、おっちゃんの装備のおかげで今もこの世界で生きていけてるから、
感謝はしてる」
ふと机の上に置いてある銀色の丸い球体を手に取る。
「おっちゃんこれ何?」
「《爆弾》じゃよ」
「ふーん爆弾……《爆弾》!?」
俺は素早くに元の位置に戻す。
「馬鹿どもが新しく作ったらしい、
自慢したいのか試作品を送り付けてきおった、そいつは6連式らしい」
鍛治職人同士が集まって発足した《鍛冶連合》
この世界で一般普及している装備は約4割以上さんが手掛けている。
最近では《鍛冶》スキルを持ったプレイヤーの育成も始めているらしい。
「へー遂に5の壁乗り越えたんだ、
これで敵を怯ませる時間が延長して、攻略が楽になるんじゃない?」
「だが所詮は欠陥品じゃな、
初期ストレージの1/3食うようなブツ誰が使うんじゃ」
俺は変に起爆させないように恐る恐る触れ《鑑定》を発動する。
《バクmk26》 カテゴリ:投擲武器 重量:60
《効果》
(使用後一定時間で爆発
6回の連続ダメージ(固定値100))
「あれ?前回より固定ダメージ落ちてない?」
前作は確か170程だった筈だ。
「あのバカが何も捨てずに回数を稼げる訳ないじゃろ」
あのバカというのはこいつの製作者、
プレイヤーネーム 《キリヴェリア》さんだ、
おっちゃんの元弟子だったので良く知っているらしい、
そして《鍛冶連合》の長をしている。
何度か彼から新装備のテストを依頼された事もある。
「そうだ、おっちゃんこれ」
俺は眼帯が入った小箱を渡す。
「なんじゃ?ワシにプレゼントか…?
……おい小僧、近頃はこう言ったものを送るのが流行ってるのか??」
「いやそれ俺の装備だから、前言っただろそろそろ新しい《装飾品》枠の《装備》が欲しいって」
「また《自動回復》……
しかし《黒晶》シリーズか、素材としてはなかなかじゃな、
案が何個かあるが暫くかかるぞ?」
「気長に待つよ」
「……そういえばお前さんそろそろローブの耐久危ういんじゃないか?」
さすがだ、俺の戦闘頻度とダメージの受け方をよく分かっている。
「今日ここに来たのは修理が目的」
俺はローブを脱ぎおっちゃんに渡し《修理》をお願いする。
《修理》することで《装備耐久値》と《装備破損値》を回復する事ができる。
《装備》は《装備耐久値》と《装備破損値》という物が設定されている、
どちらも攻撃をしたり受けたりする事で徐々に減りグラフィックが壊れていくように表示される、
《装備耐久値》は0になっても《装備》に設定されているステータスが大幅に下がるだけだが、
《装備破損値》が0になった場合はその《装備》は壊れ《修理》も出来なくなる。
ほかの違いとしては《装備耐久値》専用アイテム《鍛冶師の粉》を使用することによって少量だが回復できるが《装備破損値》は《鍛冶職人》が持つ専用の工房でしか回復できないので《装備破損値》だけは絶対に把握しておかなければならない。
黒いインナーのみでは寒いので、
炉の中存在する炎に近寄り体を温める
「また広がったか?」
おっちゃんは今まで隠れたがローブを脱いだことによって顕になった俺の"黒く変色した"右腕を見ながらそう言った。
「こいつとはもう仲良くやってるから大丈夫、最近は侵食も遅くなってるみたいだし……
心配しなくても俺はそう簡単には死ぬつもりはない、
どうせなら最期までこっちでの人生を楽しみたいしな」
右腕には常時不快感が襲っているがもう慣れたものだ、
侵食し始めた頃は不快感のせいで右腕の感覚がなく、
脳から伝達しアバターに反映されるまで遅延が発生していたが、
元々適性が低く全ての動作にコンマ何秒かの遅延あった、
なら最初からそれを踏まえ動いていればいいだけだ。
おっちゃんはローブのほつれた箇所を糸と針で塗って行き最後に鎚で叩く。
(ほんとに何回みても謎だよなあ
針や糸で治すまではわかるけど鎚で叩くって、要らなくないか?
まあほとんどのゲームは布でも木でも金属でも鎚で叩けくか修理を選択すれば修復できちゃうゲームばかりだからなあ……
今考えればそっちの方が謎か)
「あと何回行ける?」
「現状の《鍛冶》だとあと2回までじゃな」
この世界の修理には《鍛冶》スキルのレベルと持っている《槌》のグレードが関係する。
《鍛冶》と《槌》のグレードが高ければ100%で修復される、
低ければ失敗する確率が高まり、
失敗すると装備は消失する危険が発生する。
レア度が高い装備程修理できる初期確率は低くなる傾向がある、
修理確率を上げるアイテムが存在するが希少だ。
通常高レア装備や愛着がある装備は《鍛冶》と
グレードが高い鍛治職人に依頼するのがベストだ。
俺はストレージからドロップアイテムや野盗から奪……貰ったアイテムを放出する。
なにかコマンドを選択したおっちゃんが持ってる鎚が、
ばらまいた素材をどんどん吸いこんでいく、
何度も見た光景だがシュールである。
「ローブの修理おわったぞい」
渡されたローブをすぐに鑑定する。
《旅人のローブ》 カテゴリ:防具 重量:7 修復回数:8
DEF 8(+10)
AGI 4(+5)
★《頑丈》
(HPが最大HPの半分以上ある場合、一撃でHPが0になる攻撃を受けても無効化する
CT60)
★《下克上》
(相手とのステータス差が広ければ広いほど、《攻撃スキル》の威力が上がる 上限150%まで)
☆???
《異世界から迷い込んだ旅人、旅人の前には無数の可能性がある、何を選び何を捨てるかはその旅人しか知らない》
(ボーナス値が少し上がったな)
《装備》を《修理》する度に《装備》のパラメーターがアップする、
高レアリティ装備程付与されるボーナス値は高い。
サービス開始当初、耐久値が1でも減れば修理出来ることを利用しレア装備を修復したプレイヤーがいたが。
結果はボーナス値は、元の装備のステータスが合計で50以上あるのに関わらず本来なら2桁いくはずのボーナスは1桁しか付かず、
さらにスキルが1つも解放されないと言う出来事があった。
その装備はステータスが低く、修理確率も低くなった割に合わない装備として使われなくなったらしい。
運営はこのようなプレイヤーが出ることを事前に予想しこのようなシステムにしたのだろう。
その後検証勢が調査し、
ボーナスステータスは、ギリギリで修復すれば付与される値は増えるがこの世界では連戦や長期間ダンジョン探索することも珍しくない。
戦闘の途中で壊れてしまったら元も子もないので、2/3程度減った所で修復した方がいいという結論が出た。
(……熟練度の方はまだまだだな)
《装備》を使い続ければ使い続けるほど《熟練度》というものが溜まり、
一定値溜まると装備している間新スキルが発動できる《使い込み》システムが実装されている、
やろうと思えば始めたばかりに入手でも最前線のボスで輝く事があるかもしれない、
《修理》ボーナスと同じでレアリティが高いほど強力なスキルが開放されるので有用だ。
開放されるスキル数はは装備によって2つや3つ、4つと解放数は異なる、
レア度によって差はないと思われる。
そして最後に装備の1番下の項目、持ち主の項目に目を向ける。
プレイヤー名:《リヴィア》
もう何度もその項目を眺めたのだろうか……
俺はウインドウをそっと閉じた
「おっちゃん……俺はもう落ちる、また来るありがとうな」
「ああまたな」
ぶっきらぼうに答えるおっちゃんを横目に《ログアウト》を選択しながら意識を夢へと手放した
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ラルフットの森》
少し前までは森の奥に新エリア解放のボスが存在し、
エリアクリアのため《ダンジョン》には大勢の冒険者が攻略のために集まっていた、
だがボスが撃破された今ではマップを埋めたりレベル上げにくる少数の冒険者しか居ない。
推奨レベルは約30程度のため立ち回りさえしっかりしていれば比較的安全なエリアだ、
欠点があるとすれば初心者がまず初めに攻略するエリアである《ナーガレの森》と隣接しているため、
度々迷い込む新米が現れる、
エリアが変わる時名前の表示は現れるが推奨レベルは表示されないため、
そのまま進み低レベルでは手に負えないモンスターにやられてしまうことが多い。
そんな冒険者を助け街まで案内することが
《青龍騎士団》所属の俺の今日の仕事だ。
ガチャガチャと音を立てる鎧を着ながら
森の中を巡回する、
最初頃は重量が重く行動が阻害されしかも金具などが当たる音が五月蝿かったが、
今ではもう慣れた……
暫く歩いていると索敵に引っかかる何かがあった。
(モンスターか?)
森の中を駆け抜け、倒木を飛び越えその場所にたどり着く。
そこには初心者らしきローブを着た冒険者が猿をモチーフにしたモンスター《トゥ厶コフ》と交戦していた。
《トゥ厶コフ》は6体、
俺は確認しながら走りながら剣を《投擲》する。
武器にはそれぞれカテゴリが存在する
大まかに分けると《剣》《斧》《槍》《弓》《銃》だ、
《剣》の中でもさらに《片手剣》《両手剣》《大剣》《刺剣》《曲剣》《刀》などが存在するが今は省く。
俺が投げた剣は相手が複数だった事が幸いとなったのか投げた剣で2匹を串刺しにする、
それによって数匹がこちらに気づき威嚇ように飛び跳ねる。
無手の俺は素早くアイテムウインドウを開き《弓》を装備する。
「伏せろ!!」
冒険者に指示すると直ぐに伏せるのが見えたので俺は4本の銀の矢を同時に番え、放った。
放たれた矢は全て《トゥ厶コフ》の胸元へと吸い込まれていきHPを消失させる。
《70exp
・トゥムコフの毛皮 x3》
ウインドウが表示される。
(レアドロのしっぽは無しか……)
俺はすぐさま冒険者に駆け寄る。
「もう顔を上げても良いですよ、大丈夫ですか?」
「はいっ!大丈夫です、助けていただきありがとうございます!」
ピョンと立ち上がり服に付着した砂を払ったあとぺこりと頭を下げる冒険者、
顔はローブのフードを被っているせいで見えないが女性の声だった。
「俺は《聖竜騎士団》のリク、君は?」
「えっと、リヴィアです !」
とフードを取るとふわりとした雪のようで白い髪が舞う、
月の光に照らされ思わず目が奪われてしまいそうになったがそれよりも彼女の眼に目が奪われてしまった。
燃えるように強く光る赤い右眼、
そして左眼は優しくそしてどこか寂しく光る青色。
《双眼異色族》
この世界では珍しい種族、スタート時の種族選択画面で特殊演出が表示され選択できる特別な種族1つらしい、
確率は明記されていないがかなり低い。
人間は全てのステータスが標準、
エルフならINTとDEXが高くATKが低くなる、
獣人ならATKとAGEが高水準だがLUKが低い、
など種族によってステータスの伸びが変わるのだが。
《双眼異色種》はステータス全ての成長が良いと噂されている種族だ
近接、遠距離ともに高い適性を持っている。
存在自体はPVで登場し、ゲーム開発者のインタビューでも存在語られていた。
PV詐欺が無いのもこのゲームのいい所だ。
そしておそらくだが現状どのエリアでも《双眼異色種》はプレイヤーとしてもNPCとしても存在していない、
そのはずだった。
だが実際には今まで見たことがなかった幻の存在が目の前にいた。
「リクさんってお強いんですね!」
さっき俺が投げ彼女の少し横の地面に刺さった《銀の剣》を
抜こうとしながら彼女は言った。
武具にはそれぞれ装備するのに必要なステータスが設置されており《銀の剣》を装備するために要求されるSTRは40、
ということは彼女はそれ以下なのだろう。
ステータスをSTR特化で振っていたらレベル20前後
特化でなくても30まで来れば装備できるはずだ。
《銀の剣》を受け取り再装備する、
《剣》などの武器は投げれば《投擲》武器として変化するが、
本来の使用用途をするためには再装備しないといけないのが手間だ。
「えっと、どうしたんですか?」
失礼とは思うが俺は彼女を観察する、
初期装備のローブに、初期装備のボロボロのズボン……
どう見ても始めたばかりの初心者が迷い込んだようにしか見えない。
「えっとリヴィアさん、今のレベルを教えて貰ってもいいかな?」
「レベル?レベルってなんですか?」
「えっとステータス画面から見れるはずだけど……」
「ステータス画面?……見れる?レベル見たいです!いでよレベル!レベル、見たい!」
彼女は変なポーズをしながら虚空に向かいレベルを見たいと連呼してた。
そんな様子を見て彼女が初心者だと確信する、
それもゲームをあまりやった事はなく、
前提知識もないのにチュートリアルを飛ばすタイプの人だと……
「まず初期状態ならステータスウインドウは手を握って開けば表示されるはずです」
俺は彼女にステータス画面の開き方をレクチャーする。
「……ウインドウいでよ!!!」
と大声で叫んだ。
実際は叫ばなくても何も言わず手を握って開けば表示されるのだが、面白いので黙っておく。
「わっ目の前になにか出てきましたっ!!」
「中央に自分の名前、そしてその横にレベル、数字が表示されてると思うからそれを教えてくれないかな?」
「えっとレベル7です!!」
「7か……どうやってここまで来たか覚えてます?ナーガレとの境界線からここまで結構離れているんですがどうやってここまで来たから覚えてますか?」
ここはナーガとラルフットの境界線からかなり離れている、距離的には歩いて13時間程だろうか?
ラルフットは端から端まで歩いた場合3日はかかる……
まあそれはさておき彼女のレベルでは《隠密》スキルを取っていたとしても、エネミーエンカウントは免れないだろう、
それなのに彼女はここにいる不自然な話だ。
「??えっと気がついたら森にいて抜けられないかと迷っていたらさっきのお猿さんたちに襲われたんです……」
その言葉を聞いて考える。
(通常、ゲームを始めた最初のリスポーン地は始まりの街の広場はず……
しかしそういえば過去にも広場から離れていたり、地面に半分埋まっていたりと、位置バグが少し報告されていたからその類か?
だとすれば森の中とは災難にも程があるな……
下手したら何も体験できずにこの世界から消滅していた可能性がある、危ない所だった……)
「あの~?」
「どうしました?」
「私これからどうしたらいいでしょうか?」
彼女は不安そうにこちらを見つめる。
「まず街に戻りましょう、話が本当ならば初期状態だろうから《帰還》は使えないでしょうし、歩いて行きますけど大丈夫?」
「はい!お願いします!」
俺達はそのまま街へ向けて歩き始める。
(マップ位置だとここから街まで18時間、
となると3時間程か彼女を街へ送り届ける届ける時間はありそうだ)
道中彼女の事をそれとなく聞いてみたが
どうやらシステム的知識をほぼ知らなかった。
ここがギャウリディアというゲーム内の仮想現実だと言うことは理解していたが
俺の予想通りステータス関係や
ステ振りやスキル習得、アイテムの使い方、装備の仕方などチュートリアルで習うはずのものの知識が存在していなかった。
チュートリアルは他VRMMOタイトル経験者処置としてスキップが存在し、
そのため選択ミスによって間違えてスキップする場合もあるから驚きはしなかった、
その場合の対処法としてテキストでの説明が設定画面から見ることが出来たり、
最初の街にチュートリアルをもう一度体験出来る場所があったりする。
まず彼女には最初にステータスボーナスの割り振りをするために《職業》を決めてもらう。
最低でもレベル20までに自分が《戦闘職》《生産職》《その他》の内のどのスタイルでこの世界で過ごすか決めなければならない。
絶対という訳ではなく、
高レベルの《戦闘職》のプレイヤーが《生産職》に転職する事もあったが、
必要なスキルを揃えきれなくなったりなど不都合な事は多くなる。
「この世界を見て旅する《冒険者》、
その《冒険者》を助けたり住民の生活を支える《生産職》、
そしてそれ以外の職種。
リヴィアさんはこの世界でどんな事して過ごしたい?」
リヴィアさんの指が空中で上下に何度も何度も動く、
彼女は今100以上の種類に渡る《職業》の中から、
自分がなりたい物を一生懸命考え、選んでいるのだろう。
……まあ適当に選んでもレベル20までなら雑にステータスを振っておいても後で取り返しが効く。
「リクさんはなんでこの世界に来たんですか?」
不意にそう聞かれ考える。
「……憧れ、かなあ」
「憧れ?ですか?」
「昔から剣と魔法の世界、ドラゴンとか見たことがない想像上の、ファンタジーの世界が好きでね、
いつかこの本の様な世界で冒険して世界をこの目で見てみたいって思って気がつけば買ってこの世界にいたんだ」
「ですよね!ですよね!!???」
俺の話を聞いて彼女が少し興奮した様子で前のめりにグイっと近づいてくる。
「やっぱりこういうファンタジーの世界って憧れますよね、自分の世界と、文化も生活も、食事も違う
その中で楽しそうに生きる人々、
強いモンスターを倒し仲間と成長する絆の物語、
ド派手な魔法を使ったりかっこいい剣技を使ったり……
やっぱり憧れますよね!!」
興奮気味に話す彼女に少し親近感覚える
「君もファンタジーの世界に憧れを持ってるんだ」
「はい!!」
それからしばらくファンタジー世界のいい所とか悪い所、食べてみたい食べ物など雑談をしながら言葉を交わし歩いていた。
気がつけば日は沈み、当たりは真っ暗になっていく。
(境界線まではあと3時間くらいだが、そこから街までは2時間かかる、
夜がに無理やり行動すれば凶悪なモンスターと遭遇する能性が高まる、
そろそろ彼女も歩き疲れているだろうし休憩するか?)
数歩後ろを歩く彼女の方を向くとみると目線が会い笑顔になる、
しかしその表情には疲労が見え隠れしていた。
「……リヴィアさん、今日はここで野宿しようか」
「野宿ですか?」
「暗闇は敵の発見を遅れさせるし危険性がある、
視界を確保出来なければ満足に戦うこともできない。
最悪の場合《闇に潜むモノ》と出会う可能性がある」
《闇に潜むモノ》は深夜にしか現れない正体不明のモンスターだ、
人型の靄がかかった様な見た目をしており、
主に奇襲を得意とする。
実力は上位プレイヤー100人の平均値とされているがそれはソロの場合だ、
パーティならば更に強化される。
遭遇すれば《撃破》できて瀕死、逃走できても怪我は免れないほど強力なモンスターだ。
そんな危ない存在が徘徊しているかもしれない森を無理に通る必要なはない、
幸い火を炊けば遭遇する事はないらしいので俺は周辺に落ちている枝を集め《火瓶》を取り出し火を起こす。
《火便》は魔法やスキルを使わなくても、火が起こせる優れものだ、
市販されているので簡単に手に入る、
用途は火を起こしたり、モンスターに対して使ったりだ、
火を起こすことによって、着火したプレイヤーよりレベルの低いモンスターは寄り付かなくなる、
《ボス》や《徘徊ネームド》には意味がなく
ダンジョン内では効果がないため、野宿する場合に火属性の魔法を覚えていない場合には重宝する。
それ以外に体が毛皮に覆われている《獣系》モンスターに対して時《火瓶》を投げつけることで、
毛皮が焼けダメージが通りやすくなったりする。
他にも《水瓶》がありこっちは水を周辺にばらまける、
飲水としては、飲めはし少し空腹は満たされるが何故かダメージを受けるので、飲むプレイヤーは少ない。
地面に座りアイテムストレージから食料、パンとバターを実態化させ彼女に渡す。
「貰ってもいいんですか?」
「お腹が減ると《空腹》のデバフを受けて体が思ったように動かないようになるから、食べた方がいいよ。
そこらの生えてる草や木の実なんかを食べてもいいけど、大抵の場合食中毒起こすからやめといた方がいいよ」
食感もパサパサとしあまり美味しくもないパンだが
これでもひとつ100ルーニーはする、
この世界では1日3食、宿屋を利用するだけで買うと3000は軽く超える、
それを安く思うから高く思うかは個人の自由だが、この世界に来たばかりの冒険者は高く思うはずだ、
なぜなら初心者がラルフットで1日頑張りモンスターからドロップアイテムを集め《売却》したとしても700ルーニー稼げるかどうかだ、
3食食べれば無くなってしまい野宿する羽目になる。
さらに装備の《強化》、《修理》などがあるから、収入は赤字を大きく記録するので、
街の掲示板などに記載された《依頼》を受けながら生活することがほとんどだろう。
ボスやリポップ型の《徘徊ネームド》を倒せばそれなりに懐は潤うが命懸けという障害が立ち塞がる。
幸い俺は《軍団》に所属しているので、
そこら辺は経費として負担してくれているから楽なのだが、
小、中、ギルドやクランの家計は火の車だろうな。
俺はストレージから《月光草》《凛凱蝶の鱗粉》を取り出して《調合》を始める。
その光景が珍しいのかリヴィアはじっと調合の様子を眺めている
まず《月光草》をすり潰し、《凛凱蝶の鱗粉》を入れ、
しばらく混ぜ合わせた後に《純水》は入った《瓶》に入れれば完成だ。
瓶を持ち上げると緑色の粉が月と星の光を受け瓶の中で光り輝いている。
《鑑定》
《月光蝶の秘薬》 グレード5 重量:5
・最大HPの40%を回復
《月光草》は体力の30%を20秒かけて回復させるNPCの店で買える最上位回復アイテムだ
そして《凛凱蝶の鱗粉》はアイテムの効力を跳ね上げてくれる効果がある。
それらを使いできた《月光蝶の秘薬》 は怪我や病で日々需要が高まる回復アイテム業界の最前線に位置すると言っても過言ではない、
これ以上の回復アイテムはまだ作成されていないか、作られていてもそう易々と使えるものではないだろう、
これも《凛凱蝶の鱗粉》が入手難易度の高い素材なので俺も数は持っていない。
「うわぁ……綺麗ですねっ!」
俺が持つ瓶を下から覗き込んできたリヴィアに対してその瓶を差し出す。
「良かったら貰って」
俺はさらに瓶に入った回復薬を数本と《月光草》10個渡す。
「こんなにいいんですか?」
「ああ、受け取ってくれたら嬉しい」
彼女が冒険者をするのであればまた何処かで会うことになるので今後の先行投資も兼ねている。
俺はそれから渡した回復アイテムについて説明した、
副作用と言っても単純な事なのだが。
「まず《月光草》こいつは20秒をかけて自分のHPを3割回復するアイテム、
使用は方法は口に含み、咀嚼し、飲み込む。
少し苦いけど全部飲み込めば効果が発動される、
場合によっては戦闘前に予め口に含んでおいて、
ピンチになったら飲み込むって事もできます、
戦闘中に回復アイテムを実態化させ、口に放り込む事はかなりの隙になり、
咀嚼している間は《防御力低下》と《衝撃抵抗力低下》が発生するので危険です、
仲間がいればカバーし合えば回復タイミングは作れますが、
ソロは回復タイミングによっては命取りになる事を忘れないでください」
ギャウリディアでの代表的な回復アイテムは
《草系》と《飲料系》そして《特殊系》に分けられる。
前者は本当に草のような見た目で素材そのままです、みたいなもので苦いものが多い、
《飲料系》は《瓶》等に入った液体だ。
《特殊》種類が多いの割愛する、
まあその他に《持続回復》と《即時回復》にも分けられるが今は置いておこう。
「《草系》利点としては、徐々にHPが回復するから多少のダメージなら気にしないで戦える、
重量も軽い多めに入れてもインベントリを圧迫することもない、
それと持ち運べる数も平均で30とかなり多いからなるべく持っておいて損は無いかな」
その隣の《回復薬》を指差す。
「次に《飲料系》、利点は《草系》と違い、
苦くもないし飲めばHPが直ぐに回復する、
その代わり持てる数は少ない、これは5本。
これも予め瓶を咥えて置くことができるけど物によっては瓶が重いので顔と顎に負担がかかるからあまりやらない方がいい」
悪い点は《草系》と比べて回復量が低い、
直ぐに回復出来るという点を見れば緊急時には軍配が上がる。
「でも苦いのを飲むくらいなら、《飲料系》を一杯持っていった方がいいんじゃないですか?
そのアイテムによって上限は変わるんですよね?」
「確かに10種類の《飲料系》回復アイテムを持っていたらそれぞれの合計で40本以上持てる。
《草系》を使い苦いのを口にして嫌な気持ちで探索したり戦闘するくらいなら《飲料系》を使った方がいいと考えるのは普通だね。
でも考えてみて、この小瓶でも100ml程入っている、
それを1日何本も何本の飲んだらどうなる?」
そう聞くとリヴィアの顔が少し青ざめた気がした、多分想像したのだろう。
当然だがこの世界のプレイヤーアバターの胃袋は無限でない、食べれば食べるだけお腹は膨れるし体重や体型にも影響する。
「回復アイテムってどれだけ持ってればいいんですか?」
「明確な基準はないよ、自分の戦闘スタイルに合わせて決めた方がいい。
ガンガン戦うタイプなら多めに持っていた方がいいし、
回復魔法を使う予定なら少なくてもいい、
だけど持たないという選択肢は無いかな」
「なるほど」
「……あと説明しなきゃいけないのは《スタミナ》かな」
「スタミナですか?」
「自分のHPバーの下にもうひとつ白いバーがあるのが見えるかな?」
「これですね!歩いてた時減ったり増えたり繰り返してたので何かなぁって思ってたんです」
「それがスタミナの表記、このゲームに置いて1番重要と言っても過言じゃない」
このゲームでは移動、回避行動や魔法など
普通に生活していてもスタミナの消費が伴う、
普通に歩く程度なら消費量と回復量が均衡しているが、
少し激しい動作をすれば目に分かるほど減っていく。
徐々に減って行き0になってしまえば強制的に《スタン》状態になり、
意識が朦朧として体を動かせなくなる。
ほぼ街にいる《生産職》などならば少し横になったりし休めば回復するが。
冒険者は常に危険と隣合わせの為、
戦闘中などにスタミナが無くなった場合受けるダメージが確定クリティカルなるため
スタミナ切れイコール死となる。
《盾》と呼ばれるVITやDEFを極振りにして体力と防御力を高めているプレイヤーでも、
短時間での連続ガードでスタミナが削れられスタミナ切れに陥り、
自分より格下モンスター集団にやられてしまったという話も聞いたことがある。
使用するスキルの威力が高ければ高いほど、スタミナの消費は増大する。
スタミナの回復方法は、消費量が回復量に上回らないように動くか、立ち止まって休む、
それしか現状存在していない。
ソロや少人数パーティでは立ち止まることさえ許されないボス戦などではスタミナ管理が勝敗を分けると言っても過言ではない。
そもそも少人数でボスに挑むこと自体滅多にないが……
ふと彼女の方を向くと何故か飛び跳ねていた。
「ほっ!はいっ!ほんとっ!ですね!スタミナが減っていきます!」
聞いて理解するのではなく実際にやって体験するのも大切だ、
わかってくれたなら良しとしよう……
「ならスタミナに全部振っちゃえば完璧ですね!」
笑顔でそう言うが答えはNOだ。
「それだと他のステータスが弱すぎて小さなミスひとつでHPが0になっちゃうね、
防具や武器を装備すればある程度ステータスは上げられるけどそれを装備するための条件ステータスが設定されているから、
何をするとしてもスタミナ以外も振っておかないといけないかな、
自分が武器を使って戦うのか、魔法を使うのか、
必要ないステータスを削って必要なステータスを上げるのが基本かな」
「リクさんはどんなステータスの振り方しているんですか?」
「大切な個人情報だからあまり言えないけど、
AGIに多めに振ってるかな、
ガードするよりも回避を主体にした立ち回りをしているから、
動き回ることも多いからスタミナを増やすためにCONにも振ってるよ、
………リヴィアさんは何かやって見たい職業みたいなの決まってます?」
「私は剣で華麗に敵をバッタバッタと倒してみたいです
綺麗でかっこいいすごい技を使ったり!
後は魔法を使ったり……」
「魔法剣士型か……それなら結構平均的に上げないとダメかな、
骨を切らせて肉を断つなら、STR.VIT.CONを上げ、
敵の攻撃を避けてのカウンタータイプならAGlに振らないと行けない。
魔法を使うならINTも必要だし、
詠唱の時間が気になるならTECを上げれば数秒だけど短縮できる、
《3大デバフ》と呼ばれる毒、麻痺、呪いにかからなくするならRESが必要だ」
「うーん……多すぎて分からないです……」
数ヶ月前の自分を見てるようで何か微笑ましく思える、
俺は最初の《職業替え》の時は悩みに悩んだ、四六時中考えていた程だ。
他タイトルで遊んでいた時の戦闘スタイルは中衛で遠距離武器を使いダメージを稼ぎながらバフ、デバフ、
ピンチ時のタゲ操作などやってる時が楽しかったから、
最終的には今の《弓》をメインにしたスタイルにしている。
それからしばらく職業の事について話あっていると。
「あのぉリクさん」
不安そうな顔で彼女は俺の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「私に付き合ってくれるのは、大変ありがたいのですがお時間は大丈夫ですか?」
「時間?まだ大丈夫だけどどうして?」
「もし学生さんとか、社会人だったら明日朝から大変じゃないですか!」
俺は彼女の言いたい事を理解した、よく勘違いしてしまう間違いだ
「……その心配はないと思うよ、
ギャディアで1日過ごしても現実世界では6時間くらいしか経ってないから、
今は向こうは17時位かな」
「そうなんですか?」
よくは知らないがダイブ型VRゲームの中では脳を活性化させることによって時間の流れの感じ方が変わる。
脳の認識を加速化させ短時間での学習効率などの向上させることができるらしい、
発売当初、少し問題視……話題にもなっていたが、
今ではその技術をゲーム以外の用途でも使用出来ないかと言う声が上がっている程だ。
「まだしばらくは大丈夫だよ、
君を街に送り届けないと、
早く寝た方がいいよ、こっちでも睡眠は大切だからね」
「わかりました、おやすみなさいリクさん!」
彼女は寝息を立てるが俺は次の日の朝まで当たりを見張っていた。
そして次の日のお昼頃俺たち時は最初の町へ辿り着いた。
「本当にありがとうございます!!」
赤べこのように何度も何度も頭を下げる少女。
「いや、気にしなくていいよ、リヴィアさんと話せて楽しかった」
その時視界の端に電話マークのアイコンが現れ点滅する。
「そうだこれ」
俺はリヴィアさんにフレンド申請を送る。
「もし相談でもなんでも何かあったらチャットでも連絡して、
メインクエストを進めたら【都市シュベルハイツァ】に俺が所属している《青龍騎士団》の本部があるから時間あったら連絡してくれると嬉しい」
「わかりました、何から何までありがとうございます!
また絶対会いましょうね!!」
手を大きく振るリヴィアさんと離れ、
未だ点滅している電話アイコンをタップすると目の前にひとつのウインドウが表示され1人の男が映し出される。
「どうした?」
『リクにしては出るのが遅かったが任務中だったか?』
「いや今終わった所だ、んで用事は?」
『先程3番隊が《ボス部屋》を発見した、
今すぐ皆を召集する来れるか《副団長》?』
「ボス部屋か了解……
そういえば頼まれていた例の件だが完全にクロだなあとは現場を抑えれば完璧だ、だから襲撃の日時を相談したい」
『わかった後で話そう』
通信を切る。
「さてボス部屋か久しぶりに楽しめそうかな」
俺は小さく呟いた。
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