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第三章:素顔のままで
③
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配信終了後。オレは客間でペットボトルの茶を飲みながら、白亜さんが風呂から出てくるのを待っていた。目的は、金。
掃除のバイト代と、配信アシスタントの工賃を受け取る為だ。
白亜さんが箱買いしたり、欲しいものリストから送られてくるペットボトルの茶を好きに飲んでいいと言われた時、オレは白亜さんの家の台所の、ゼリー飲料が8本入っていただけの冷蔵庫に、500mlペットボトルの茶を10本程突っ込んでおいた。
「和也、金を持って来るまでもう少し待っておれ」
緩く着た浴衣に、洗い晒しの髪。は、いいとして……
「白亜さん、髪の毛は拭いとけ!床が水浸しになってんだろが!」
風呂場からか、白亜さんが歩いてきただろう廊下には、小さな水たまりがいくつも出来ていた。
「ふむ……なるほど」
「なるほど。じゃねーよ!何に対して納得してんだよ!」
ダンッ!と座卓の上にペットボトルを置いて、オレは白亜さんに近づく。白亜さんの肩にかかるバスタオルを掴んだ。
ワシャシャシャシャシャシャシャッ!
白亜さんの白く長い髪の毛を、乱暴な手つきで拭いていく。
「な、このような事、気にせずとも……」
「人ん家行って、家主が床を水浸しにしてたら、気になんだろうが!クソッ、ずるずる長ぇ髪してるクセに枝毛一つ見当たらねぇな!」
メンドクセェ、とは思う。オレは白亜さんを放っておけない、だからメンドクセェんだろ。
パンパンと、タオルで白亜さんの髪を挟んで叩き、水気を切る。ある程度やった辺りで、バスタオルを白亜さんの肩に戻した。他人の世話なんざ慣れてねーよ。後は知らん。
「無駄にいい髪質してんだ、もっと大切にしろ。後で髪梳かしとけ」
「すまない。一旦座ってくれ」
目を丸くして、困惑した表情を浮かべた白亜さんは、すぐに台所へ向かって封筒を一つ持ってきた。座卓の、オレと向かい合う場所に、白亜さんが座った。
「バイト代と工賃だ。内訳は中に入っている紙の通りになる」
手渡された封筒の中身を確認した。6,000円と紙切れが一枚。内訳としては工賃が三回分で2,000円、清掃バイト日給が4,000円。なるほど、工賃は本当に工賃だ。人を何だと思ってるんだという、安さだ。はぁ……と、思わずため息が出た。
「工賃が安いと思うならば、まともに仕事を探す事だ。配信の回数を重ねて気づいた、和也はその場の雰囲気さえ掴めたなら、後は上手く立ち回れるのだ、と。我はそう思っておる」
「はあ?確かに工賃安いのは不満だけどよ、オレが辞めたら白亜さんどうするつもりだ?」
「ふむ……のんびりと後続の者を探しつつ、配信は続けるだろう」
座卓の上に肘をつき、軽く指と指を絡ませ手を組んで、首を傾げる白亜さん。その綺麗な顔が憎たらしい。
「白亜さんは!変態行為に付き合ってくれる奴なら誰でもいいのか!?」
「多少選びたくはある。が、我の個人的な嗜好で、本来導かねばならぬ者達の道を、閉ざしてしまう事は許されぬのだ」
…………何も、言い返せなかった。
オレ自身、何故そんな風に聞いたのかも分からずにいた。もしも、白亜さんの変態的嗜好に付き合える奴が出てきたら?確かにオレは変態から解放されるだろうけどな……わだかまりが、溢れてくる気がした。
白亜さんからバイト代諸々を受け取った次の日。「きっと荘」の前に軽トラが停められ、荷物が運ばれて行くのを見た。昨日バイトで掃除をした部屋だ。
掃除は夕方までに、と言われた事から、事故物件の事故部分と新しい入居者が遭遇するとしたら、夜だろうな。きっと。
「きっと荘」に新しい入居者が引越してきた日以降、オレが白亜さんを見かける事は無くなった。
掃除のバイト代と、配信アシスタントの工賃を受け取る為だ。
白亜さんが箱買いしたり、欲しいものリストから送られてくるペットボトルの茶を好きに飲んでいいと言われた時、オレは白亜さんの家の台所の、ゼリー飲料が8本入っていただけの冷蔵庫に、500mlペットボトルの茶を10本程突っ込んでおいた。
「和也、金を持って来るまでもう少し待っておれ」
緩く着た浴衣に、洗い晒しの髪。は、いいとして……
「白亜さん、髪の毛は拭いとけ!床が水浸しになってんだろが!」
風呂場からか、白亜さんが歩いてきただろう廊下には、小さな水たまりがいくつも出来ていた。
「ふむ……なるほど」
「なるほど。じゃねーよ!何に対して納得してんだよ!」
ダンッ!と座卓の上にペットボトルを置いて、オレは白亜さんに近づく。白亜さんの肩にかかるバスタオルを掴んだ。
ワシャシャシャシャシャシャシャッ!
白亜さんの白く長い髪の毛を、乱暴な手つきで拭いていく。
「な、このような事、気にせずとも……」
「人ん家行って、家主が床を水浸しにしてたら、気になんだろうが!クソッ、ずるずる長ぇ髪してるクセに枝毛一つ見当たらねぇな!」
メンドクセェ、とは思う。オレは白亜さんを放っておけない、だからメンドクセェんだろ。
パンパンと、タオルで白亜さんの髪を挟んで叩き、水気を切る。ある程度やった辺りで、バスタオルを白亜さんの肩に戻した。他人の世話なんざ慣れてねーよ。後は知らん。
「無駄にいい髪質してんだ、もっと大切にしろ。後で髪梳かしとけ」
「すまない。一旦座ってくれ」
目を丸くして、困惑した表情を浮かべた白亜さんは、すぐに台所へ向かって封筒を一つ持ってきた。座卓の、オレと向かい合う場所に、白亜さんが座った。
「バイト代と工賃だ。内訳は中に入っている紙の通りになる」
手渡された封筒の中身を確認した。6,000円と紙切れが一枚。内訳としては工賃が三回分で2,000円、清掃バイト日給が4,000円。なるほど、工賃は本当に工賃だ。人を何だと思ってるんだという、安さだ。はぁ……と、思わずため息が出た。
「工賃が安いと思うならば、まともに仕事を探す事だ。配信の回数を重ねて気づいた、和也はその場の雰囲気さえ掴めたなら、後は上手く立ち回れるのだ、と。我はそう思っておる」
「はあ?確かに工賃安いのは不満だけどよ、オレが辞めたら白亜さんどうするつもりだ?」
「ふむ……のんびりと後続の者を探しつつ、配信は続けるだろう」
座卓の上に肘をつき、軽く指と指を絡ませ手を組んで、首を傾げる白亜さん。その綺麗な顔が憎たらしい。
「白亜さんは!変態行為に付き合ってくれる奴なら誰でもいいのか!?」
「多少選びたくはある。が、我の個人的な嗜好で、本来導かねばならぬ者達の道を、閉ざしてしまう事は許されぬのだ」
…………何も、言い返せなかった。
オレ自身、何故そんな風に聞いたのかも分からずにいた。もしも、白亜さんの変態的嗜好に付き合える奴が出てきたら?確かにオレは変態から解放されるだろうけどな……わだかまりが、溢れてくる気がした。
白亜さんからバイト代諸々を受け取った次の日。「きっと荘」の前に軽トラが停められ、荷物が運ばれて行くのを見た。昨日バイトで掃除をした部屋だ。
掃除は夕方までに、と言われた事から、事故物件の事故部分と新しい入居者が遭遇するとしたら、夜だろうな。きっと。
「きっと荘」に新しい入居者が引越してきた日以降、オレが白亜さんを見かける事は無くなった。
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