1 / 15
1捨てられた 拾った
しおりを挟む
10月の初め。
木の葉の色は変わりはじめ、吹く風は冷たくなり始めたころだった。
彼に呼び出され、聞かされた言葉は残酷なお告げ。
「わかれてほしい」
うそでしょって思った。
癖のある茶色い髪。私にはもったいない、端正な顔をした彼は、辛そうな目をして私に言った。
二年付き合った。
私は今年で27になる。
彼、斗真は二つ年上の29だ。
だから結婚するって思ってた。
未来について何回か話したこともあるし、こんな家に住みたいだとか、子供は何人欲しいとか。
そんな話だってしたこともあるのに。
なのに。
わかれてほしい。
ですと?
「な、んで?」
言いたいことはたくさんあるのに。
なのに、震える唇からやっと出た言葉はそれだった。
斗真は首を振って、
「他に好きな人ができた」
って、しごくありがちな言葉を口にした。
あー。そうですか。
そうなんですか。
私は縋ればいいのかな。それとも、冷めた顔して送りだせばいいのかな。
答えは出なくて、私はただ、頷いた。
「……そう」
「ごめん」
去って行く、スーツ姿の大きな背中を、ただ見送るしかなかった。
結果。
「ふざけんじゃないわよ」
「そうねえ。ありがちな話だけど」
駅前にあるチェーンの居酒屋に、友達呼び出して飲んだくれることにした。
売れない漫画家で、日頃バイトをやってる友達のミクは、突然の呼び出しに快く応じてくれた。
ショートカットの黒髪に、切れ長の瞳。
身長も高くてよく男に間違われるミクは、わざとなのかわからないけど、黒のパンツに黒のジャケットを羽織ってて、一歩間違えたらホストみたいだ。
「ねえ、ミク。いっそうのこと付き合っちゃう~?」
ふざけて私が言うと、彼女は頬杖ついて苦笑いした。
「琴美と~? そうねえ。琴美にいいのが現れなかったら考えてもいいかも」
そう、やんわりと断りを入れてくる。
まあ、そうだよね。
ミクは見た目はあれだけど、レズでもバイでもないし。
ちゃんと彼氏がいたことがある。
今はいないらしいけど。
「もー。信じらんない斗真のやつ」
言いながら、私は私は頬杖ついてビールの入ったグラスを見つめる。
「友達期間いれたら長いもんねえ。斗真先輩とは」
そうなんだ。
斗真は学校の先輩。しかもうちの学校6年一貫。委員会活動で知り合った。私は中学2年で、向こうは高校1年生で。
知り合って10年以上になる。
友達期間は長かった。
ミクや他の人を交えてみんなで遊んでた。
長い友達期間を経て、告白されて付き合って。
そうだ。告白されたんだ。なのになのに。
「好きな人がほかにできたからってなんなのよー! 結婚の話は何? しようって言ったじゃない」
後半は涙目になっていた。
向かいに座るミクの手が、頭に伸びる。
ぽんぽん、と頭をたたかれ、彼女は微笑んだ。
「はいはい。
まあ、でも、婚約してはいなかったでしょ?」
「親には挨拶してたもん」
ふてくされ、ビールを口に流し込む。
「すいませーん。注文いいですか?」
手を上げて店員さんを呼ぶ。
そのあとどれくらい飲んだかはよくわからない。
ミクと別れて、駅前のコンビニ寄って、私はアパートに向かって歩いていた。
大通りを抜け、繁華街を通りかかる。
秋の冷たい風が、私の髪を撫でていく。
時間も時間なので、私と同じようにお酒のにおいを纏った人たちが通り過ぎていく。
立ち止まって空を見た。
ちょっとだけ星が見える。
田舎とはいえそれなりに明るいから、星ってあんまり見えない。
なんでこうなるのかなあ。
斗真と過ごした時間を思い出す。
遊園地に行ったり、イルミネーション見に行ったり。
思い出せば、ちょっと涙が出そうになる。
いろいろあったなあ。
たくさんの時間を、彼と一緒に過ごしているのに。
別れは一瞬で訪れちゃうんだ。
「なあ、こんな時間にここにいるってことは、そういうことだろ」
そんな男の声に私は我に返った。
声のほうを見るとスーツ姿の男が、高校生くらいの少年に絡んでいる。
男は少年の腕を掴み、どこかへ連れて行こうとしているようだ。
少年は嫌そうな顔をして、その腕を振りほどこうとしていた。
「あー! まったー?」
それはほんの気まぐれ。
私は、ふたりの間に割り込んで、少年の腕を掴んだ。
「なんだおまえ……」
「ねえ、行こう。あ! タクシーで帰る~?」
「え、あ……」
少年の戸惑った声が聞こえる。
「さぁ、いこー!」
お酒の入った袋を高く掲げ、私は声を上げた。
面倒に思ったのか、男は舌打ちをして去って行く。
繁華街を抜け、しばらく歩いたら少年が口を開いた。
「あの、すみません。ありがとうございました」
「えー? なにが?」
私は少年のほうを見た。
今気が付いたけれど、少年はかなりかっこよかった。
サラサラの黒い髪。二重の黒い瞳に縁なしの眼鏡。アイドルのような、ハンサムな風貌の少年。
こんな見た目であんなところにいたら、そりゃ絡まれるよね。
彼は少し戸惑った顔をした後、じっと私を見て言った。
「助けていただいて、ずうずうしいとは思いますが」
「なーに?」
「家、泊めていただけますか?」
酔った私は、彼の言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
木の葉の色は変わりはじめ、吹く風は冷たくなり始めたころだった。
彼に呼び出され、聞かされた言葉は残酷なお告げ。
「わかれてほしい」
うそでしょって思った。
癖のある茶色い髪。私にはもったいない、端正な顔をした彼は、辛そうな目をして私に言った。
二年付き合った。
私は今年で27になる。
彼、斗真は二つ年上の29だ。
だから結婚するって思ってた。
未来について何回か話したこともあるし、こんな家に住みたいだとか、子供は何人欲しいとか。
そんな話だってしたこともあるのに。
なのに。
わかれてほしい。
ですと?
「な、んで?」
言いたいことはたくさんあるのに。
なのに、震える唇からやっと出た言葉はそれだった。
斗真は首を振って、
「他に好きな人ができた」
って、しごくありがちな言葉を口にした。
あー。そうですか。
そうなんですか。
私は縋ればいいのかな。それとも、冷めた顔して送りだせばいいのかな。
答えは出なくて、私はただ、頷いた。
「……そう」
「ごめん」
去って行く、スーツ姿の大きな背中を、ただ見送るしかなかった。
結果。
「ふざけんじゃないわよ」
「そうねえ。ありがちな話だけど」
駅前にあるチェーンの居酒屋に、友達呼び出して飲んだくれることにした。
売れない漫画家で、日頃バイトをやってる友達のミクは、突然の呼び出しに快く応じてくれた。
ショートカットの黒髪に、切れ長の瞳。
身長も高くてよく男に間違われるミクは、わざとなのかわからないけど、黒のパンツに黒のジャケットを羽織ってて、一歩間違えたらホストみたいだ。
「ねえ、ミク。いっそうのこと付き合っちゃう~?」
ふざけて私が言うと、彼女は頬杖ついて苦笑いした。
「琴美と~? そうねえ。琴美にいいのが現れなかったら考えてもいいかも」
そう、やんわりと断りを入れてくる。
まあ、そうだよね。
ミクは見た目はあれだけど、レズでもバイでもないし。
ちゃんと彼氏がいたことがある。
今はいないらしいけど。
「もー。信じらんない斗真のやつ」
言いながら、私は私は頬杖ついてビールの入ったグラスを見つめる。
「友達期間いれたら長いもんねえ。斗真先輩とは」
そうなんだ。
斗真は学校の先輩。しかもうちの学校6年一貫。委員会活動で知り合った。私は中学2年で、向こうは高校1年生で。
知り合って10年以上になる。
友達期間は長かった。
ミクや他の人を交えてみんなで遊んでた。
長い友達期間を経て、告白されて付き合って。
そうだ。告白されたんだ。なのになのに。
「好きな人がほかにできたからってなんなのよー! 結婚の話は何? しようって言ったじゃない」
後半は涙目になっていた。
向かいに座るミクの手が、頭に伸びる。
ぽんぽん、と頭をたたかれ、彼女は微笑んだ。
「はいはい。
まあ、でも、婚約してはいなかったでしょ?」
「親には挨拶してたもん」
ふてくされ、ビールを口に流し込む。
「すいませーん。注文いいですか?」
手を上げて店員さんを呼ぶ。
そのあとどれくらい飲んだかはよくわからない。
ミクと別れて、駅前のコンビニ寄って、私はアパートに向かって歩いていた。
大通りを抜け、繁華街を通りかかる。
秋の冷たい風が、私の髪を撫でていく。
時間も時間なので、私と同じようにお酒のにおいを纏った人たちが通り過ぎていく。
立ち止まって空を見た。
ちょっとだけ星が見える。
田舎とはいえそれなりに明るいから、星ってあんまり見えない。
なんでこうなるのかなあ。
斗真と過ごした時間を思い出す。
遊園地に行ったり、イルミネーション見に行ったり。
思い出せば、ちょっと涙が出そうになる。
いろいろあったなあ。
たくさんの時間を、彼と一緒に過ごしているのに。
別れは一瞬で訪れちゃうんだ。
「なあ、こんな時間にここにいるってことは、そういうことだろ」
そんな男の声に私は我に返った。
声のほうを見るとスーツ姿の男が、高校生くらいの少年に絡んでいる。
男は少年の腕を掴み、どこかへ連れて行こうとしているようだ。
少年は嫌そうな顔をして、その腕を振りほどこうとしていた。
「あー! まったー?」
それはほんの気まぐれ。
私は、ふたりの間に割り込んで、少年の腕を掴んだ。
「なんだおまえ……」
「ねえ、行こう。あ! タクシーで帰る~?」
「え、あ……」
少年の戸惑った声が聞こえる。
「さぁ、いこー!」
お酒の入った袋を高く掲げ、私は声を上げた。
面倒に思ったのか、男は舌打ちをして去って行く。
繁華街を抜け、しばらく歩いたら少年が口を開いた。
「あの、すみません。ありがとうございました」
「えー? なにが?」
私は少年のほうを見た。
今気が付いたけれど、少年はかなりかっこよかった。
サラサラの黒い髪。二重の黒い瞳に縁なしの眼鏡。アイドルのような、ハンサムな風貌の少年。
こんな見た目であんなところにいたら、そりゃ絡まれるよね。
彼は少し戸惑った顔をした後、じっと私を見て言った。
「助けていただいて、ずうずうしいとは思いますが」
「なーに?」
「家、泊めていただけますか?」
酔った私は、彼の言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
メイウッド家の双子の姉妹
柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…?
※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる