拾った少年は、有能な家政夫だった

麻路なぎ

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10目が覚めて

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 朝目が覚めると、柔らかい匂いに包まれていることに気が付いた。
 自分が普段寝ているベッドとは、明らかに違う感触。
 これは、客用の布団。ミクがときどき泊まるから用意したもの。
 うっすらと目を開けて、私は自分の状況を確かめる。

 想像以上に近い場所に、レイジの顔があった。
 ぼんやりとした明かりの中に浮かぶ彼の顔。長いまつ毛に、幼さの残る整った綺麗な顔だ。
 ……って、なんで? どうして? あれ?
 彼の腕が首に巻きついていることに気が付く。
 細いと思ったけど、首の下にある腕には意外と筋肉ついてるみたい。

 って、なにこれ。なんで? え? え?
 目を見開いて、抱きしめる腕から私は逃げた。
 なんでこうなってるんだっけ? あれ? あれ?
 な、な、何もしてないよね。
 ねえ、何もしてないよね。

 ……うん、服は着てるし、身体に違和感はない。
 正直ほっとする。
 なんでこうなってるのか、おぼろげながら思い出す。
 レイジがうなされて、近づいたら抱きしめられた。それで、そのまま寝ちゃったのか。
 びっくりしすぎて、心臓止まるかと思った。

 私は彼を起こさないように布団からそっと出て、自分のベッドへと入る。
 ベッド、冷たい。
 携帯で時間を確かめたら、朝の5時過ぎだった。
 まだ外は暗いみたい。
 私の心臓は、まだドキドキ言っている。
 だって、目が覚めたらあの、幼さの残る綺麗な顔した少年の顔があったんだもん。

 ああ。でも。
 今日で終わるんだよね。だって、今日は月曜日。連休の最終日。
 ……今日は、少しはしゃべってくれるかな。
 家出の理由。
 うなされてた理由。
 そのあと私は眠ることができなくて、丸くなって彼が起きるのを待ってた。



 レイジは6時過ぎに起きた。
 布団を畳む音と、扉を開く音が聞こえる。
 扉の向こうからわずかに聞こえる、衣擦れの音。
 ああ、寝間着から着替えているのか。寝間着っていうか、ジャージだった気がするけど。
 肌、白いんだろうなあ……腹筋とか、どうなってるんだろう。いや、何考えてるんだ、私。

 いらない妄想はかき消して、私はじっと、時間がたつのを待った。
 うとうとして、気が付いたら8時を過ぎていた。
 あんなに早く起きたのに、結局起きたのは昨日と一緒。
 まあ、夜中に二回くらい起きたしね。

 結構飲んだのに、私は幸いにして二日酔いにはなっていないようだった。
 ベッドから起きて、そして、私はリビングへ続く扉を開く。
 朝食のいい匂いが、空腹を刺激する。
 エプロンに、だぼっとしたセーターを着た彼は、私を見るなりにっこりと笑い、

「おはようございます」

 と、澄んだ声で言った。

「おはよう」

 まだ夢は終わってないみたい。
 昨日のことなんて、何もなかったかのように、ただ普通に挨拶して、ただ普通に朝ごはんを一緒に食べた。



 窓から差し込む太陽光にきらきら光る、クリスタルビーズ。
 紅い色のビーズを組み合わせて作った、十字架のモチーフ。
 縦10センチ、横5センチくらいのちょっと大き目なモチーフだ。
 中央に薄めの紅いクリスタルの大きなビーズ、まわりに濃い紅の丸ビーズ。
 作りだめたモチーフを見て、どうしようかなって思う。だいぶたまってきたし、これで何か作ろうかな。
 何がいいだろう?
 十字架、王冠、猫、熊、花に羽根。
 ネックレスにブローチ。うーん。あと何があるかなあ。
 私がモチーフと睨めっこしていると、本を読んでいたレイジが顔を上げた。

「どうされました?」

「これ、何にしようかなって思って」

「何って?」

「ネックレスだけじゃなって思って。ブローチとか、キーホルダーくらいしか思いつかないけど」

 言いながら、私はモチーフを一つ一つ手に取った。

「あの、ひとつお願いしていいですか?」

 ちょっとためらいがちに、レイジは言った。

「何?」

 レイジは、モチーフを指差して、

「ひとつ、頂きたいんですが」

 と、こちらの様子を伺うような顔して言う。
 まさか、欲しいって言われるとは思わなかった。
 男の子、こういうのしなくない? いや、わかんないけど。

「うん。こんなので良ければ」

 言いながら、私はレイジの前にモチーフが入ったボックスを差し出した。
 眼鏡の奥の彼の目は、ちょっと輝いて見えた。
 まるで宝物を見つけた子供のような、そんな純粋で、きらきらした瞳。
 彼はこれを下さい、と言って一つのモチーフを手にした。
 紅いビーズで作った、鍵の形のモチーフだ。

「何で鍵なの?」

「何かを閉じ込めたり、開いたり。そう言うものだからですかね」

「何それ? 何かしまいたいものでもあるの?」

 そう尋ねると、レイジは苦笑した。

「そうですね……閉じ込めておけるならそうしたいものいくつかありますね」

 そう言ったレイジの表情はちょっと曇ったような気がする。
 閉じ込めておきたいものってなんだろう。
 思い出とか? ありきたりか。

「たとえば?」

「なんでしょうね」

 そう言って、彼はにっこりと笑って見せた。
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