拾った少年は、有能な家政夫だった

麻路なぎ

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9そんなこと望まない

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 その後。
 私は完全に酔いつぶれて、リビングでそのまま眠ってしまった。

「琴美さん、あの、起きてください。
 ここ、ベッドじゃないですよ」

 斗真とはちがう、穏やかな声がする。
 えーと、誰だっけ?

「うー? えー?」

 ぼんやりと目を開ければ、可愛い顔した少年が私を見つめてる。
 いるんだね。こんなきれーな顔した子が。
 夢かな、これ。

「琴美さん」

 彼の声が、私の名前を呼ぶ。
 頭が全然回らない。
 にしても、なんか寒い。
 私はその少年の首に抱き着いた。

「ちょ……琴美さん?」

 澄んだ声が心地よく耳に響く。
 ひと肌ってあったかい。
 あったかいってことは、夢じゃないのかな。
 誰かが、私の身体を抱きしめる。
 持ち上げられるような、そんな感覚がした気がする。
 私はそのまま眠ってそして、気が付くとベッドの上に寝かせられてた。
 ぼんやりとした視界の中に、彼がいる。
 彼の手が、私が着ているトレーナーの裾に触れた。

 ……って、え?
 驚いて、私はレイジの手をがっと掴んだ。
 彼の身体が、びくっと震える。
 目を見開いて、空いている方の腕をついて私はわずかに身体を起こした。そして、彼の顔をまっすぐに見つめた。

「私、そう言うの望んでない」

「……え、でも……」

 戸惑ったような、驚いたような声でレイジが言う。
 常夜灯の、ぼんやりとした明かりの中、私は彼の目をじっと見て、強く言った。

「貴方、子供でしょ? こういうの、よくないよ」

 すると、レイジは目を伏せた。

「……すみません。こういうことくらいしか、僕、思いつかなくて」

 なんでそんなことしようとしたのかわからないんだけど、私には。
 ……もしかして、慰めようとしたのか?
 こんな若い子に慰められるとこだったのか、私は。
 なんだろう、ショック。

「なんで、そんなことしようとするの?」

「あの……すみません、ただ慰めようと……」

 いやいやいや。
 他にもあるよね、いくらでも慰める方法なんて。

「私は、話聞いてくれて、ご飯作ってくれて、家事やってくれるだけで。
 それだけで十分なんだけど」

 言ってみて気がつく。
 だけ、じゃないよね。だいぶ多い。

「そう……なんですか?」

 不思議そうな顔をするレイジに、私は何度もこくこくと頷いた。
 っていうか、いっきに酔いさめちゃった。
 私の手は、まだ、彼の手を握ってる。
 暖かい手。この手で何人の女の人を……
 いやいやいや。
 考えちゃダメでしょ、そう言うの。

「ねえ、なんでそういうこと始めたの?」

 すると、彼は目線を逸らした。

「……好きで始めたわけではないです。
 どこに行けばいいかわからなくて、繁華街にいたら、女性が声をかけてきました。
 それで……泊める代わりにと、求められました」

 その時に、こういう方法もあるんだと知ったと、レイジは言った。

「よくないことだということは自覚してますけど、あの、ホテルとか、マン喫とかは使いたくないので」
「なんで?」

「すぐ見つかっちゃうんじゃないかなと、思ったので」
「誰に?」

 その問いかけに、彼は答えなかった。
 レイジは首を振り、どこか不安げな瞳を私に向けた。

「すみません。でも、本当に、いいんですか? その……」
「だからそう言うの、望んでないってば」

 ぴしゃりと言うと、彼は少し驚いた顔をした。

「そう言う風に言われたの、初めてです。っていうか、家事やってくれたらいいなんて言ったの、琴美さんだけでしたので」

 世の中いいのか、そんなので。
 いや、レイジが何度そういうこと――売春してたかなんてわからないけど。
 でも、よくないことはよくないことだし。

「私は大丈夫だから。シャワー浴びて寝よう」

 レイジはこくりと頷いた。





 夜中、呻き声で目を覚ました。
 また、彼はうなされているらしい。

「……あ……やだ……」

 助けて。
 彼はそう言った。
 どんな夢を見てるんだろう。何に苦しんでるんだろう。
 ……何かできること、ないかな。
 私は身体を起こし、ベッドから這い出て彼が眠る布団に近づいた。

「ねえ、大丈夫?」

 荒い息を繰り返して、彼はうっすらと目を開く。

「う……あ……」

 彼は私の首に手を伸ばしたかと思うと、そのまま私の身体を抱き寄せた。
 ふわりと、シャンプーの匂いがする。
 レイジは身体をわずかに震わせて、荒く息を繰り返してる。
 どうしたらいいかわからなくて、私は、不自然な姿勢で床に手をついて身体を支え、レイジにされるがままになっていた。

 抱きしめる力は強くて、逃げられる気がしない。
 何におびえているんだろう。
 どうしよう。
 戸惑いつつ、私は彼の頭にそっと触れた。
 ぽんぽんと、頭をたたいて私は、彼の震えが止まるまでじっとそのまま動かなかった。
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