アルテミス雑貨店~あやかしたちの集まる不思議な店

麻路なぎ

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2不思議な店長

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 店内を歩いていると、アセイミナイフとかヴァジュラという見たことのない名前の商品がいくつも並んでいる。
 なんだこれ。
 そう思いきやサボテンが売られているし……これ、本物かな。
 そう思い私は手を伸ばした。

「いたっ……」

 サボテンの針が刺さり、本物であると身をもって知る。

 ――あはははは……

 子供の笑い声が聞こえたような気がして、私は辺りを見回した。
 でも子供の姿なんてない。
 いるのは大人の女性ばかりだ。
 気のせい……だよね。
 私は首を傾げて棚に視線を戻した。

「にゃぁ」

 子供の声の次は猫の鳴き声だ。
 猫はすぐに見つけることができた。
 なにせ私の足もとに大きな大きな三毛猫が金色の目を輝かせて私を見上げていたからだ。
 ……っていうかでっかいなこの猫。
 十キロはありそうな大きな猫だ。
 ここで飼われている猫だろうか? 猫がいるって話、初めて聞いたけど、こんな大きな猫がいたら絶対噂になるよね。

「猫さん、ここの飼い猫?」

 足元の猫にそう話しかけると、猫は一声鳴いてどこかに行ってしまった。
 ……何だったんだ今の?
 私は改めてレジカウンターへと向かった。
 店員さんは次から次へとくるお客さんの相手をしていて話しかけられそうにない。
 そう思いながら私はどうしたものかと考え始めた。何か買い物してそれで話しかけるしかないかなあ……?
 今日は平日月曜日。の割にけっこう客さんが来るけど皆店員さん目当てっぽい。
 ……ここでバイトするって怖いかも。
 でもバイト決めないと生活がやばいしな……
 飲食店はもう絶対に無理だからそうなると選択肢が狭まる。
 ここなら家からも大学からも近いし、帰りの心配もあんまりない。家賃と食費、半分は親が出してくれるけれど半分は自分で出さないといけないから私に時間的な余裕は全然ない。
 前のバイト、一か月は頑張ったんだよ……だから一か月分の給料は入るんだけど、その次がないからまじでヤバい。
 当たって砕けろ、いや砕けたくないけど。
 そんなことを思っていると、店内がざわめきだした。

「まったく。本当に今時の若いもんは目上に対する態度がなってないと思わないかい、透」

「きぬさんからみたら、和菓子屋の当主も茶屋のおかみもみんな若いものになると思いますけど」

 そんな話をしながら出てきたのは、灰色っぽい着物を着たまるで狸のような顔をしたおばあさんと、黒髪の目つきの悪い青年だった。
 ふたりの出現に、明らかに店内の空気が変わる。

「……嘘、笠置さんだ……!」

 なんて言う呟きが聞こえてくる。
 笠置さんって、ここの店長さんだよね。
 ずいぶん若いなあ。二十代半ばくらいかな。身長は私より少し高いくらいだから百六十センチ半ばくらいだろうか。
 もうひとりの店員さんと同じ紺色のエプロンをしている。

「あぁ、笠置さんときぬさん。話は終わったんですか?」

 カウンターにいる店員さんが微笑み言うと、おばあさんは頷く。

「あぁ。まだ話したりないからおぎんさん借りていくよ」

 そうおばあさんが言った時、猫の鳴き声が響いた。
 あ、さっきの猫、おばあさんの足もとにいる。

「にゃぁ、にゃー」

 何かを話しかけるかのように鳴くと、猫はおばあさんと一緒に店を出て行った。
 ……あの猫、人の言葉わかるのかな?
 そんなわけないか。猫だもんね。
 その時、笠置さんと目が合った。
 え、睨まれてる……? そんなわけないか。目つきが悪いだけで睨んでるわけじゃないよね。
 でもなんでこっち見てるんだろ?
 彼は女性たちのざわめきを無視して私に近づいてくる。
 そして、私の目の前で立ち止まり言った。

「バイト希望?」

 低く響く声に私の心臓は大きく跳ね上がった。
 え、何でわかるの?
 私、そんなこと言ってないのに!

「え、あ……え?」

 戸惑う私に、彼は一枚の封筒を見せてきた。

「これ、君のでしょう?」

 その白い封筒には赤い字で「履歴書在中」と書かれている。
 彼は封筒から中身を取り出し紙を開いて言った。

「杉下美羽さん」

「わ、わ、私のです!」

 え、なんで?
 私は慌てて提げているショルダーバッグの中身を探る。
 あれ、ない。
 中に入っていたはずの履歴書の封筒がない!
 店内で落とした? え、でもどうやって? 心当たりないんだけど……?
 困惑していると、笠置さんは履歴書を片手に言った。

「おいで」

 そして彼は店の奥へと入っていく。
 ちょっと待て。どういう展開?
 おいでって、ついて来いって事?

「笠置さんについていって大丈夫ですよ」

 そう声をかけてきたのはレジカウンターに立つ店員さんだった。
 いや、大丈夫って言われても戸惑いしかないんだけど?
 でも早くバイト決めたいしな……
 私はぎゅっと拳を握りしめて、笠置さんの後を追った。
 
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