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2 現地確認
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翌日。
仕事中、昨日不動産屋に送ったメールの返信が来た。
それを慌てて確認すると、いつ不動産屋に来られるのか、と書かれていた。
『お世話になります。六月八日土曜日にお伺いしたいと思います。ところで現地確認が可能とありましたが、その日に現地に行くのは大丈夫でしょうか?』
そう書いて返信すると、すぐに返事が来た。
『現地確認は当日中に可能でございます』
嘘、ほんとに現地に行けるの? そんなことある? 本当に見られるの、魔法王国。
そう思うといてもたってもいられなくなる。でもさすがに仕事を休むわけにはいかず、私はそわそわしながら週末を待った。
そして待ちにまった六月八日土曜日。
休みの日なんてだらだらと十時くらいにいつもは起きるのに、私は朝七時に目が覚めた。
約束の時間は十時だ。
場所は大通りにあるマンションの一階だった。ネットで検索したらちゃんと不動産屋さんの情報は出てきたし……たぶん大丈夫だろう。
詐欺じゃない、よね?
そう思いつつ、私は寝室を出て段ボールだらけのリビングへと向かった。
そして車で十五分ほど離れた不動産屋に、私は約束の五分前に着く。
営業時間も十時かららしいから、少し車で待った後、時間を過ぎたのを確認してから車を降りて、不動産屋の扉を開いた。
窓に張られた不動産情報には、あの魔法王国の情報はない。
本当にあれ、夢じゃないんだよね?
疑いを抱きつつ、私は中に入り、正面に座る女性を見つめた。
年のころは三十前後だろうか。綺麗な女性が、デスクに座ってパソコンを操作していた。
彼女は私を見ると、にこっと笑い言った。
「木鋤ささら様ですね、お待ちしておりました。わたくし、小田切かなでと申します」
「よ、よろしくお願いいたします」
頭を下げ、私は彼女の前の椅子に腰かけた。
見た感じ、普通の事務所だ。特に変わった様子はない。
他に人はいないらしく、がらん、としている。
女性が来ている服、高そうだな。
「このたび、わが社の物件に興味をもっていただきましてありがとうございます」
「はい、あの……魔法王国って本当、なんですか?」
「本当ですよ」
間髪入れずに女性は言った。
その表情は自信に満ち溢れていて、こちらが抱いている不安を吹き飛ばすようなものだった。
「説明するよりも直接現地に行った方がよいでしょう」
と言い、彼女は立ち上がった。
彼女の車に乗せられて、向かった先は駅から歩いて十分少々の距離だった。
そこにあるのは二階建ての一軒家だった。
売り物件、という看板が出ている。築年数は余りたってなさそうだけど……この距離ならすぐ買い手がつきそうなのになんで誰も買わないんだろう。
「あの、この家は……」
「この家が、魔法王国への入り口なんです」
と言った。
小田切さんはブランド物の黒いバッグから鍵を出して、玄関を開ける。
そして中に入ると、スリッパを用意してくれた。
「ありがとうございます」
中に入るとあるのは短い廊下と、右手側に扉、それに正面にスライド式のガラスの扉だった。
「階段はリビングにありますので、こちらにどうぞ」
「あ、はい」
小田切さんのあとについて、私は正面の扉をくぐる。すると、明るいリビングに出た。
広いなぁ。二十畳以上はありそうだ。ぐるっとU字に曲がり、階段を上ると廊下に出て、小田切さんは右側の扉に入っていく。
そこは十畳ほどの洋室だった。左手にはガラス窓の向こうにバルコニーが見える。
小田切さんは右に曲がり、扉を開けた。するとそこは広く細長いクローゼットだった。
棚や洋服をかけるための棒が正面や扉の左右に伸びている。
「こちらです」
と言い、小田切さんは右へと曲がりクローゼットの奧にある扉の前で立ち止まった。
そこにあるのはこの建物にはにつかわない、やたらと豪勢な茶色の扉だった。
ドアノブは金色で、ツタが巻き付いたようなデザインになっている。
「入る前にこれを。ちょっと失礼しますね」
と言い、小田切さんは私の首にネックレスをかけてきた。
それはずしり、と重い直径十センチほどの円形に五芒星がついたネックレスだった。
五芒星の先端と中央には宝石がついているみたいだ。
でも輝きはない。
「これが魔法王国への鍵となります。あと、ひとつ注意がございます。こちらの世界からあちらに物を持っていくのは可能ですが、あちからこちらに物を持ち込むことはできません。消えてしまうのでご注意を」
「……? あ、はい」
意味がわからないまま、私は頷いた。
「通常、このまま扉をくぐると城に繋がってしまいます。ですが騒ぎになりかねないので、町を見渡せる丘の上にご案内いたしますね」
そう告げて、小田切さんは扉に手をかざして何やら言い始めた。
英語でもない、聞いたことのない言葉だ。
すると扉が光り始め、そして小田切さんはその扉をゆっくりと開いた。
「さあどうぞ」
小田切さんに導かれ、私は扉をくぐる。
そこには、見たことのない町並みが広がっていた。
確かに私は、一戸建ての家の二階にあるクローゼットの中にいた。
なのに扉の向こうに青い空と町と、森や山が広がっているなんて誰が思うだろう?
左手に海が見えるし、右側には山があり、その山の中に城があるのがわかる。あれはよくRPGゲームやヨーロッパの写真で見かける、塔のある城、そのものだった。
けっこう大きな町みたいだ。白い壁にオレンジ色の屋根が特徴的だった。
「ここが魔法王国フィアルクート。今見える町はいわゆる首都になります。首都の人口はおよそ二万。国全体でおよそ六万人が暮らしており、その多くが魔法を使えます。なので簡単な家事は魔法生物であるゴーレムが担っています。主要産業は漁業と農業です」
どこにでもある普通の国、みたいね。
魔法王国なのになんでそれを活かして産業にしてないんだろう?
それはちょっと不思議だ。
ここからだと遠くて、街を歩く人たちまでは見えない。近くには行けないのかな……
「街を歩くことはできないんですか?」
「申し訳ございませんが、それはご遠慮願います」
そうなんだ……なんでだろう?
そう思った時だった。小田切さんが空を見上げた。
「ほら、空を見てください」
言われて私は青い空を見上げた。
空に、青い巨大なものが飛んでいるのが見えた。
大きな翼を持った、巨大な生き物……
あれは、色んなゲームやアニメ、漫画で見た生き物だ。
「あ……あれは……ドラゴン……?」
大きなトカゲとでも言おうか。遠くてよく見えないけれど、長い首に大きな身体、長い尻尾……あれは青いドラゴンだ。
大きな翼を広げて空を横切っていく。
「はい、ここにはドラゴンも住んでいます。害はないので大丈夫ですよ」
うそ……本当にドラゴンがいるの? すごい、まるっきりファンタジー世界じゃないの。
空を見上げていると、ドラゴンの姿はすぐに見えなくなってしまった。
なにあれ……映像……じゃないよね? 本物だよね? あんなリアルな立体映像、つくれないよね?
「買います!」
考えるよりも先に口が動き、私は勢いよく小田切さんに向かって言った。
仕事中、昨日不動産屋に送ったメールの返信が来た。
それを慌てて確認すると、いつ不動産屋に来られるのか、と書かれていた。
『お世話になります。六月八日土曜日にお伺いしたいと思います。ところで現地確認が可能とありましたが、その日に現地に行くのは大丈夫でしょうか?』
そう書いて返信すると、すぐに返事が来た。
『現地確認は当日中に可能でございます』
嘘、ほんとに現地に行けるの? そんなことある? 本当に見られるの、魔法王国。
そう思うといてもたってもいられなくなる。でもさすがに仕事を休むわけにはいかず、私はそわそわしながら週末を待った。
そして待ちにまった六月八日土曜日。
休みの日なんてだらだらと十時くらいにいつもは起きるのに、私は朝七時に目が覚めた。
約束の時間は十時だ。
場所は大通りにあるマンションの一階だった。ネットで検索したらちゃんと不動産屋さんの情報は出てきたし……たぶん大丈夫だろう。
詐欺じゃない、よね?
そう思いつつ、私は寝室を出て段ボールだらけのリビングへと向かった。
そして車で十五分ほど離れた不動産屋に、私は約束の五分前に着く。
営業時間も十時かららしいから、少し車で待った後、時間を過ぎたのを確認してから車を降りて、不動産屋の扉を開いた。
窓に張られた不動産情報には、あの魔法王国の情報はない。
本当にあれ、夢じゃないんだよね?
疑いを抱きつつ、私は中に入り、正面に座る女性を見つめた。
年のころは三十前後だろうか。綺麗な女性が、デスクに座ってパソコンを操作していた。
彼女は私を見ると、にこっと笑い言った。
「木鋤ささら様ですね、お待ちしておりました。わたくし、小田切かなでと申します」
「よ、よろしくお願いいたします」
頭を下げ、私は彼女の前の椅子に腰かけた。
見た感じ、普通の事務所だ。特に変わった様子はない。
他に人はいないらしく、がらん、としている。
女性が来ている服、高そうだな。
「このたび、わが社の物件に興味をもっていただきましてありがとうございます」
「はい、あの……魔法王国って本当、なんですか?」
「本当ですよ」
間髪入れずに女性は言った。
その表情は自信に満ち溢れていて、こちらが抱いている不安を吹き飛ばすようなものだった。
「説明するよりも直接現地に行った方がよいでしょう」
と言い、彼女は立ち上がった。
彼女の車に乗せられて、向かった先は駅から歩いて十分少々の距離だった。
そこにあるのは二階建ての一軒家だった。
売り物件、という看板が出ている。築年数は余りたってなさそうだけど……この距離ならすぐ買い手がつきそうなのになんで誰も買わないんだろう。
「あの、この家は……」
「この家が、魔法王国への入り口なんです」
と言った。
小田切さんはブランド物の黒いバッグから鍵を出して、玄関を開ける。
そして中に入ると、スリッパを用意してくれた。
「ありがとうございます」
中に入るとあるのは短い廊下と、右手側に扉、それに正面にスライド式のガラスの扉だった。
「階段はリビングにありますので、こちらにどうぞ」
「あ、はい」
小田切さんのあとについて、私は正面の扉をくぐる。すると、明るいリビングに出た。
広いなぁ。二十畳以上はありそうだ。ぐるっとU字に曲がり、階段を上ると廊下に出て、小田切さんは右側の扉に入っていく。
そこは十畳ほどの洋室だった。左手にはガラス窓の向こうにバルコニーが見える。
小田切さんは右に曲がり、扉を開けた。するとそこは広く細長いクローゼットだった。
棚や洋服をかけるための棒が正面や扉の左右に伸びている。
「こちらです」
と言い、小田切さんは右へと曲がりクローゼットの奧にある扉の前で立ち止まった。
そこにあるのはこの建物にはにつかわない、やたらと豪勢な茶色の扉だった。
ドアノブは金色で、ツタが巻き付いたようなデザインになっている。
「入る前にこれを。ちょっと失礼しますね」
と言い、小田切さんは私の首にネックレスをかけてきた。
それはずしり、と重い直径十センチほどの円形に五芒星がついたネックレスだった。
五芒星の先端と中央には宝石がついているみたいだ。
でも輝きはない。
「これが魔法王国への鍵となります。あと、ひとつ注意がございます。こちらの世界からあちらに物を持っていくのは可能ですが、あちからこちらに物を持ち込むことはできません。消えてしまうのでご注意を」
「……? あ、はい」
意味がわからないまま、私は頷いた。
「通常、このまま扉をくぐると城に繋がってしまいます。ですが騒ぎになりかねないので、町を見渡せる丘の上にご案内いたしますね」
そう告げて、小田切さんは扉に手をかざして何やら言い始めた。
英語でもない、聞いたことのない言葉だ。
すると扉が光り始め、そして小田切さんはその扉をゆっくりと開いた。
「さあどうぞ」
小田切さんに導かれ、私は扉をくぐる。
そこには、見たことのない町並みが広がっていた。
確かに私は、一戸建ての家の二階にあるクローゼットの中にいた。
なのに扉の向こうに青い空と町と、森や山が広がっているなんて誰が思うだろう?
左手に海が見えるし、右側には山があり、その山の中に城があるのがわかる。あれはよくRPGゲームやヨーロッパの写真で見かける、塔のある城、そのものだった。
けっこう大きな町みたいだ。白い壁にオレンジ色の屋根が特徴的だった。
「ここが魔法王国フィアルクート。今見える町はいわゆる首都になります。首都の人口はおよそ二万。国全体でおよそ六万人が暮らしており、その多くが魔法を使えます。なので簡単な家事は魔法生物であるゴーレムが担っています。主要産業は漁業と農業です」
どこにでもある普通の国、みたいね。
魔法王国なのになんでそれを活かして産業にしてないんだろう?
それはちょっと不思議だ。
ここからだと遠くて、街を歩く人たちまでは見えない。近くには行けないのかな……
「街を歩くことはできないんですか?」
「申し訳ございませんが、それはご遠慮願います」
そうなんだ……なんでだろう?
そう思った時だった。小田切さんが空を見上げた。
「ほら、空を見てください」
言われて私は青い空を見上げた。
空に、青い巨大なものが飛んでいるのが見えた。
大きな翼を持った、巨大な生き物……
あれは、色んなゲームやアニメ、漫画で見た生き物だ。
「あ……あれは……ドラゴン……?」
大きなトカゲとでも言おうか。遠くてよく見えないけれど、長い首に大きな身体、長い尻尾……あれは青いドラゴンだ。
大きな翼を広げて空を横切っていく。
「はい、ここにはドラゴンも住んでいます。害はないので大丈夫ですよ」
うそ……本当にドラゴンがいるの? すごい、まるっきりファンタジー世界じゃないの。
空を見上げていると、ドラゴンの姿はすぐに見えなくなってしまった。
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