格安物件、魔法王国〜ツンデレ騎士と魔法使い付き

麻路なぎ

文字の大きさ
4 / 4

4 歓迎されない王様

しおりを挟む
 どうしようかなぁ……とりあえず待っていたら誰か来るのかなぁ。
 外、見たいんだけどなぁ……
 ゴーレムは私などお構いなしに掃除をしている。とりあえず、邪魔にならないようにしないとかな。
 悩んでいると、開きっぱなしの扉から入ってきた人がいた。
 ひとりは女性、ひとりは男性。
 女性は私より少し年上だろうか。肩まである金髪に、きりっとした緑色の瞳。服装は明らかに私が住む世界とは違う。ゆったりとしたフレアパンツに丈の短いジャケットを着ている。
 そしてもうひとり、男性の方は紺色のローブをまとい、手には棒を持っている。あれは……杖?
 っていうことはあの人、魔法使いかな。いや、でもこの国皆魔法が使えるんだよね?
 じゃあなんであの人は杖もってるんだろう。
 ふたりの後ろに、あのメイド服を着た女性が立っていて、ふたりの隙間からこちらの様子をうかがっている。
 
「あら、本当に現れたのね」

 女性の方が呟く。

「どうせまた、ろくでもないことになるんだろう」

 憎々しげに言ったのは男性の方だった。
 男性はこちらを睨み付けているみたいで何だかこわい。
 ど、ど、どうしよう。とりあえず挨拶、かな?
 私は頭を下げながら言った。

「あの、初めまして! 木鋤ささらと言います!」

 腰を曲げて深く頭を下げ、そして顔を上げると、女性ふたりが驚いた顔をしてこちらを見ていた。
 あれ? まずかったかな。

「あら、今回はずいぶんと様子が違うようですね」

 面白そうに女性は笑い、顎に手をあてる。

「そうですねぇ、こんなに若い女性、初めてですよね」

 メイドさんは女性の陰からひょい、とこちらを見ながら言った。
 でも魔法使いらしき男性は何も言わず、こちらを睨み付けている。
 やだこれ……全然歓迎されてないよね。怖いなぁ……

「あ、えーと……すみません、私、今日、初めてこちらに伺ったんですが……」

「えぇ、そうでしょうね。私はキアラ=クローチェと申します。国王陛下の秘書官でございます」

 そして、女性は胸に手を当ててゆっくりと頭を下げた。
 
「クローチェ、さん」

「はい。えーと……きすき……ささら……変わったお名前ですね」

 そうですよね。聞きなれないですよね。

「ささら、とお呼びください」

 そう私が答えると、クローチェさんは頷いて言った。

「かしこまりました、ささら様。とりあえず、歓迎いたしますわ」

 つまり歓迎していませんよね?
 うーん、過去に何があったんだろう……国王は不在、なわけよね?
 それで私がこの国の王様になるって事なんだよね……
 あ、深く考えていなかったけどそれってとんでもないことでは……?
 買います、って勢いで言っちゃったけど……私、大丈夫かな……急に怖くなってきた。

「ふん、どうせまた、湯水のように金を使い、強制送還されるだろう。とりあえず害はなさそうだが、僕は認めない」

 男性はそう言って、くるり、と私に背を向けて去っていった。
 よくわからないけど、これって私より以前に国王がいたってことよね? そしてそれは異世界から来ていたって事なのかな。私みたいに。

「ルアン様……」

 おろおろとメイドが男性を呼びかけるけれど、彼の姿はもう見えない。
 
「とりあえず、城内をご案内いたしますわ。ささら様」

「あ、はい。よろしくお願いいたします」

 そしてまた、私は深く頭を下げた。

「貴方の国はそんなに頭を下げるのが当たり前なのですか?」

 笑いながら言われ、私はハッとして顔を上げる。

「え? あ、あ、あの。はい。挨拶するときやお願いするときは頭を下げます」

 ってことはこちらでは当たり前じゃないってことなのかな?
 それはそれで恥ずかしいんだけどな。
 そう思い、私は笑って頭に手をやった。

「こちらではやらないんですかね、すみません」

「謝る必要なんてありませんよ、ささら様。こちらへどうぞ」

 くすり、と笑ってクローチェさんは言い、手で出入り口のドアを示した。

「だいぶ今までの方とは違いますねぇ」

 メイドさんがそう呟くのが聞こえてくる。
 私がクローチェさんたちに歩み寄ると、メイドさんは胸に手を当てて微笑み言った。

「ロミーナ=ベルテと申します。こちらでメイドをしています」

「ベルテさん、よろしくお願いします」

 そしてまた、私は頭を下げてしまい、ハッとしてばっと顔を上げた。

「私の事はロミーナとお呼びください、女王陛下」

 ロミーナさんは微笑んで言い、私は今自分がなんて呼ばれたのかしばらく考えてしまった。
 あれ、私、今、女王って呼ばれた……?
 そうか、このネックレスを持っている人が王になるんだから、私、女王になるのか……
 思わず私は、ネックレスの飾りを握りしめた。

「では私についてきてください」

 そしてクローチェさんが歩きだし、扉の外へと出た。
 そこはとても大きな部屋だった。十畳以上はあるんじゃないだろうか。大きなベッドに、ソファーやテーブルなどがある。
 寝室、かな?

「ここは、キュリアス城。フィアルクートの中心であり、王の居城でもあります。別棟に議会があり、そちらには首相や大臣などがこの国の方針を決めております。そしてこの部屋が貴方様の部屋で、先ほどの広間は召喚の間と呼ばれています」

「え、ここ、私の部屋になるって事、ですか?」

 こんな広い部屋をひとりで使うの?
 私は大きく目を開いて部屋を見回した。
 扉がいくつかあるから、もしかしたら他にも部屋があるのかもしれない。
 お風呂とかトイレの事情ってどうなってるんだろう……そこは気になるけれどさすがにまだ聞けないな。
 あとで自分の目で確認しよう。
 私がキョロキョロしていると、クローチェさんが話を続けた。

「はい。そのネックレスは王の証。そしてそのネックレスをしている者に私たちは従うさだめとなっております。前に来た方々も言っていましたが、貴方もこの国……そのネックレスを購入した、のですよね?」

「あ、はい。そうです」

「相手は女性でしたか? 黒い髪の」

 クローチェさんの目が、すっと細くなる。

「え、あ、そ、そうですけど……」

 私が答えると、空気がピーン、と張りつめたような気がした。
 驚いてクローチェさんとロミーナさんを交互に見ると、クローチェさんは深くため息をつき、ロミーナさんはおろおろとしている。
 何だろう。小田切さんのこと、知っているのかな?
 そういえばなんで彼女はこの国を売買していたんだろう?
 ……肝心なこと、私何にも聞いてなかった……
 勢いで国、買っちゃったけど私、大丈夫かな?

「やはりあの人ですか……」

「本人は姿を現しませんよね。そうとう向こうの世界でお金を貯めてると思うんですけど……何が目的なんでしょうか」

「魔女の考えることなんてほんと、わからないわね」

 そしてクローチェさんはため息をつく。
 
「魔女?」

 聞いていない話に私は首を傾げた。
 魔女、って魔法使いと違うのかな。

「えぇ、たぶんですが、貴方にそのネックレスを、この国を売買したのは我らが宿敵である魔女です。そして、国王陛下誘拐疑惑があります」

 国王誘拐? そういうこと?
 なにそれ、もしかして私が知らされていない話、いっぱいある?
 嘘でしょねえ。

「それってどういう……」

 戸惑いながら尋ねると、クローチェさんは頭に手を当てて呆れたような顔で言った。

「おいおい説明いたします。とりあえず、荷物はこの部屋に置いてください。服は……それはご用意いたしますが、財政状況が厳しいのであまり期待はしないでください」

「なんで財政が厳しいんですか?」

「……今までの王が、散財したからです。貴方で十人目なのですよ。ささら様。女性は初めてですけど、今まで九人の『王』が現れ、湯水のように金を使い、国民の信頼を失い消えていきました」
 
 やはり呆れた顔でクローチェさんはため息交じりに言った。
 いったいどれだけ稼いだんだろう、あの人……
 脳裏に小田切さんの顔が浮かぶ。
 もしかしてもう充分稼いだから、安売りしたのかな。
 まさか、ね?

「貴方はずいぶんと他の王とは違うようですが、さきほど私と一緒にいたルアンは、不信感が大きいでしょう。貴方に風当たりが強い者が多くいると思いますが、私たちはそのネックレスをしている方に逆らうことはできません。ですが心まで支配はされません」

 それは小田切さんも言っていたな。国民の信頼を失うと、この国を追い出されるんだっけ。
 私、王として、受け入れてもらえるだろうか。
 でもいきなり異界から、私王です! ってきてもとうてい受け入れられないよね。
 私は、自分の考えの甘さを、今更ながら思い知った。

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

処理中です...