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28観覧車から見える景色
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並ぶこと二十分ほど。
私たちの番になり、観覧車に乗り込んだ。
半円の鉄でできた籠みたいな席には四人までが乗れる。
向かい合うように長椅子が置かれ、椅子の横には掴まるための手すりもある。
私の隣にユリアンが座り、向かい側の席にマティアス様が座る。
私たちが乗りこむ間も観覧車は止まることなくゆっくりと動き続けていた。
私たちが座ったのを確認すると、係員の人が扉を閉めて外側から鍵をかけた。
屋根がないから、身を乗り出したら落ちてしまいそうで正直怖い。
「すごい、どんどん上がっていくよ!」
きょろきょろとあたりを見回すユリアンとは対照的に、私は手すりをがしっと掴んで、
「そうね」
と言うのが精いっぱいだった。
マティアス様の向こう側に見える景色はゆっくりと変わっていく。地上は徐々に遠くなり、周りの建物の屋根が見えるようになっていた。
「……高い……」
二階建て以上の高さなんて初めてな私は、自然と足が震えてくる。
「エステルさん、大丈夫?」
手すりを握りしめる私の手に、マティアス様の手が重なる。
「大丈夫だよ。高い所に行くだけだから」
私を安心させるためか、彼は柔和に笑い手すりからすべりおちた私の手を握りしめた。
手、あったかい。
私は握られた手とマティアス様の顔を交互に見る。
彼は外へと視線を向けて、
「ずっと向こうに見えるのが別荘だよ」
と言った。
言われた方向に視線を向けると、街並みの向こうに森林が見え、その中に青い屋根がわずかに見えた。
あそこが、私たちが会っていた別荘か。
しばらく近づいていないけれど。十五年ほど、私はあの別荘に年に一度行き、マティアス様と会っていたんだな。
大きな屋敷なはずなのに、とても小さく見える。
「あ、国境が見える!」
ユリアンが指差す方向に目を向けると、フラムテールとカスカードの間にあり私たちが通ってきた砦が見えた。
「小さい……」
大きいはずの砦はやはり小さく見える。
「すっごいね! 色んなものが小さく見えるよ!」
「そうね」
街並みに砦、マティアス様と会っていた別荘に、森林。そのどれもが遠く、小さく見える。世界が広いってこういうことか。
森林の中にある湖も、その向こうの山々や町もうっすら見える。
行ったこともないフラムテールの町。手を伸ばせば届きそうだけれど、とても遠いんだろうな。
「広いねー。ずっと向こうまで町や森があるんだ。ねえ、あの山越えたら海があるの?」
ユリアンが目を輝かせてマティアス様を見て言った。
「うん。山を越えてずっと行くと海があるね」
「海かあ……すごいなあ、海、いいなあ……」
海かあ。見たことないな、海。ここは内陸だし、一生海を見ることなく人生を終える人も多い。その代わりカスカードには大きな湖や滝があるけど。
「海、見に行きたいの?」
マティアス様の問いかけに、ユリアンは首を傾げて、
「どうだろう? わかんないや」
と笑って言った。
「遠いし、いっぱいお金も必要でしょ? 俺には無理かなあ」
諦めるの早すぎと思うけれど、そうよね。私の周りでも海を見たことあるのは両親などのごく一部の人たちだけだ。
お金ないと旅なんてできないしね。
「ユリアンは沢山時間あるじゃない。獣人のなかには人になりきって旅する人もいるんだから」
「そうだけどさあ。でも、俺はそんな勇気ないなあ」
「そうね、そんな勇気あったらリーズちゃん……」
「あー! またそれを言うんだ! エステル姉ちゃんの意地悪」
拗ねた顔したユリアンは、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
リーズちゃんを誘えてないのは事実なのに。
まあ中身は子供だから仕方ないけれど、私より長く生きてる筈なんだけどなあ。
そんな話をしている間に、観覧車は頂上をすぎ、ゆっくりと下っていく。
下につき、係員の女性が扉を開けて、私たちに、
「お疲れさまでした」
と笑顔で声をかけてくる。
観覧車を降りるときも、降りたあともマティアス様は私の手を離そうとしなかった。
私は、ユリアンに軽口叩いていたお陰でだいぶ心は落ち着いてきていたのだけれど、離してほしいと言うのも悪い気がした。
そんな私たちに気がついたユリアンが、いたずらっ子のような笑みを浮かべてこちらを見ている。
「仲いいよねー、ふたりとも。結婚するなら俺、絶対呼んでね! あ、でもそうなったら俺、家でなくちゃいけない?」
等と言い、勝手に落ち込み始める。
「何早とちりしてるのよ。そうはならないから大丈夫よ」
「だよねー! 俺に出ていけなんて言わないよね」
きっと尻尾や耳が見えていたら、色んな動きをしていることだろうな。
その前に、私たちが結婚するのかってことの方が問題だと思うんだけれど、ユリアンの中では決定事項になってないかしら?
私、結婚したいなんて言ったことないのに。
ユリアン、マティアス様のことが本当に気に入っているのね。
一緒にいる時間が長いからかな。
「俺、ふたりが結婚したら嬉しいなあ」
などと言い、ユリアンはくるりと前を向いて晴れた空を見つめた。
私たちの番になり、観覧車に乗り込んだ。
半円の鉄でできた籠みたいな席には四人までが乗れる。
向かい合うように長椅子が置かれ、椅子の横には掴まるための手すりもある。
私の隣にユリアンが座り、向かい側の席にマティアス様が座る。
私たちが乗りこむ間も観覧車は止まることなくゆっくりと動き続けていた。
私たちが座ったのを確認すると、係員の人が扉を閉めて外側から鍵をかけた。
屋根がないから、身を乗り出したら落ちてしまいそうで正直怖い。
「すごい、どんどん上がっていくよ!」
きょろきょろとあたりを見回すユリアンとは対照的に、私は手すりをがしっと掴んで、
「そうね」
と言うのが精いっぱいだった。
マティアス様の向こう側に見える景色はゆっくりと変わっていく。地上は徐々に遠くなり、周りの建物の屋根が見えるようになっていた。
「……高い……」
二階建て以上の高さなんて初めてな私は、自然と足が震えてくる。
「エステルさん、大丈夫?」
手すりを握りしめる私の手に、マティアス様の手が重なる。
「大丈夫だよ。高い所に行くだけだから」
私を安心させるためか、彼は柔和に笑い手すりからすべりおちた私の手を握りしめた。
手、あったかい。
私は握られた手とマティアス様の顔を交互に見る。
彼は外へと視線を向けて、
「ずっと向こうに見えるのが別荘だよ」
と言った。
言われた方向に視線を向けると、街並みの向こうに森林が見え、その中に青い屋根がわずかに見えた。
あそこが、私たちが会っていた別荘か。
しばらく近づいていないけれど。十五年ほど、私はあの別荘に年に一度行き、マティアス様と会っていたんだな。
大きな屋敷なはずなのに、とても小さく見える。
「あ、国境が見える!」
ユリアンが指差す方向に目を向けると、フラムテールとカスカードの間にあり私たちが通ってきた砦が見えた。
「小さい……」
大きいはずの砦はやはり小さく見える。
「すっごいね! 色んなものが小さく見えるよ!」
「そうね」
街並みに砦、マティアス様と会っていた別荘に、森林。そのどれもが遠く、小さく見える。世界が広いってこういうことか。
森林の中にある湖も、その向こうの山々や町もうっすら見える。
行ったこともないフラムテールの町。手を伸ばせば届きそうだけれど、とても遠いんだろうな。
「広いねー。ずっと向こうまで町や森があるんだ。ねえ、あの山越えたら海があるの?」
ユリアンが目を輝かせてマティアス様を見て言った。
「うん。山を越えてずっと行くと海があるね」
「海かあ……すごいなあ、海、いいなあ……」
海かあ。見たことないな、海。ここは内陸だし、一生海を見ることなく人生を終える人も多い。その代わりカスカードには大きな湖や滝があるけど。
「海、見に行きたいの?」
マティアス様の問いかけに、ユリアンは首を傾げて、
「どうだろう? わかんないや」
と笑って言った。
「遠いし、いっぱいお金も必要でしょ? 俺には無理かなあ」
諦めるの早すぎと思うけれど、そうよね。私の周りでも海を見たことあるのは両親などのごく一部の人たちだけだ。
お金ないと旅なんてできないしね。
「ユリアンは沢山時間あるじゃない。獣人のなかには人になりきって旅する人もいるんだから」
「そうだけどさあ。でも、俺はそんな勇気ないなあ」
「そうね、そんな勇気あったらリーズちゃん……」
「あー! またそれを言うんだ! エステル姉ちゃんの意地悪」
拗ねた顔したユリアンは、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
リーズちゃんを誘えてないのは事実なのに。
まあ中身は子供だから仕方ないけれど、私より長く生きてる筈なんだけどなあ。
そんな話をしている間に、観覧車は頂上をすぎ、ゆっくりと下っていく。
下につき、係員の女性が扉を開けて、私たちに、
「お疲れさまでした」
と笑顔で声をかけてくる。
観覧車を降りるときも、降りたあともマティアス様は私の手を離そうとしなかった。
私は、ユリアンに軽口叩いていたお陰でだいぶ心は落ち着いてきていたのだけれど、離してほしいと言うのも悪い気がした。
そんな私たちに気がついたユリアンが、いたずらっ子のような笑みを浮かべてこちらを見ている。
「仲いいよねー、ふたりとも。結婚するなら俺、絶対呼んでね! あ、でもそうなったら俺、家でなくちゃいけない?」
等と言い、勝手に落ち込み始める。
「何早とちりしてるのよ。そうはならないから大丈夫よ」
「だよねー! 俺に出ていけなんて言わないよね」
きっと尻尾や耳が見えていたら、色んな動きをしていることだろうな。
その前に、私たちが結婚するのかってことの方が問題だと思うんだけれど、ユリアンの中では決定事項になってないかしら?
私、結婚したいなんて言ったことないのに。
ユリアン、マティアス様のことが本当に気に入っているのね。
一緒にいる時間が長いからかな。
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などと言い、ユリアンはくるりと前を向いて晴れた空を見つめた。
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