29 / 51
29それは突然やってくる
しおりを挟む
夕暮れに染まるプレリーの町。知らない町に行った後だと、知っている町も何か違うものに見える気がする。
ユリアンは私とマティアス様の間に挟まって私たちの腕を掴み、機嫌よさそうに歩いている。
「まるで親子ねー」
なんて、顔見知りの商店の奥さんが笑顔で言ってくる。
「えへへー。今日は楽しかったから!」
と、ご機嫌な声でユリアンが答える。
「楽しかったならよかった。正直大丈夫かな、と思っていたから」
とマティアス様が言う。
「楽しかったよー! お母さんが戻ったらいっぱい話すんだ!」
と、無邪気に言う姿が何だかけなげに見える。
普段、お母さんのことを口にしないけれど、やっぱりお母さんがいいよね。
私より年上でも、中身は十二、三歳の子供なんだもの。
お父さんがいないし。
早く見つけていあげたいのに、お母さんの手がかりはない。
「お母さんなら本気出せば逃げられると思うんだけどなあ。なんで戻ってこないのかなあ」
寂しげにぼそりとユリアンが呟く。
「お母さん、超怖いんだから。っていうか大人って怒るとむちゃくちゃ怖いんだよね。やっぱり半分獣だからなのかな。気性が荒いし。お母さんなら、家の壁位壊せると思うんだけどなあ」
「そんなに怖いんだ、お母さん」
ユリアンのお母さん、ニコラさんの顔を思い出すが、とても怖そうには見えない。けれど、ユリアンの言うとおり獣人て気性が荒い人が多いのは確かだ。
大人の獣人とは喧嘩をするな、と言われている。
激高すると加減ができず、怪我どころでは済まなくなるからだ。
まあ、獣人も喧嘩になりそうなときはその場をすぐに離れるらしいけれど。
「ねえ、マティアスさん」
「うん、何?」
「本当の夫婦になっちゃえばいいのに」
「ちょっと、何言ってるの、ユリアン」
「ははは。そうだねー」
当たり前だけれど、マティアス様は同意するよね。なんだか気恥ずかしく感じ私は俯いて歩く。
「だって姉ちゃん好きな人とかいないんでしょ? ならいいじゃん!」
「わ、私は夢があるからまだそう言うの考えられないの!」
そう答えた私はきっと顔が真っ赤だったことだろう。
言ってから、気まずさを感じて私はマティアス様の様子をうかがうこともできなかった。
あと半年もしないうちに、約束の一年が来る。私はその時何を選択するだろうか?
私はまだ、何の覚悟もできていない。
それから一週間以上が過ぎた。
あと一か月もすれば冬がやってくる。
この辺りは冬が長い。雪も降る。
「雪かあ。俺のいた町は滅多に降らないから楽しみだな」
いつもの夕食の時間、マティアス様が言うとユリアンが驚いた顔をした。
「雪が楽しみって理解できないけどなあ。冷たいし」
「何言ってるのよ。雪が降ったら雪だるまつくったり、ミカ君たちと雪合戦したりして遊んでいるじゃないの、毎年」
「雪合戦なんて子供の遊びだよ!」
「子供なんでしょ、ユリアン」
お年頃のせいか、都合よくユリアンは子供と大人を使い分ける。
子供じゃないし、と文句を言うユリアンを無視して、私は食べ終わった食器を片づけた。
いつものように教会までマティアス様が送ってくれたわけだけれど、教会の外になぜかアンヌ様がいて、私を見つけた途端走ってきた。
アンヌ様が外にいるなんて珍しい。
「神官のアンヌ様だよね、彼女」
アンヌ様から視線を外さず、マティアス様が言った。
「そうですけど……どうしたのかな」
アンヌ様はものすごい勢いで走ってきて、私の腕をがしっと掴んで言った。
「大変なの!」
と、とても真剣な顔をして、アンヌ様は言った。
「な、な、なにがですか、アンヌ様」
「いらっしゃるの!」
「どなたがですか?」
「司祭様よ!」
その言葉で、私はなんとなく事情を察した。
「司祭様が……デュクロ司祭様がやってくるの!」
「癒しの聖人が?」
そう言ったのは、マティアス様だった。
デュクロ司祭様は変わった人だ。
妻帯せず、自分よりも他人を優先し自らの命を削りながら人々を救うことを自分に与えられた使命だと言う。
大昔にその力を巡り戦争まで起きたという癒しの魔法が一切隠さず、惜し気もなく力を使う。
最期は人生最高だった、と笑って死にたいと言ってはばからない。
まだ三十代だけれど、かなり身体が弱っているらしい。
けれどそれを押し隠しながら望まれれば癒しの魔法を使うし、死の淵に立ち病気に苦しむ人の痛みを和らげ、安らかに天に召されるよう祈りを捧げる。
私はきっとあんな風にはなれない。
デュクロ司祭の足元にも及ばないだろうなと思う。
けれどあの方の意志を守りたいと心の中で思ってはいる。
「でもなぜデュクロ司祭様がこちらにいらっしゃるんですか?」
教会の応接室に、アンヌ司祭様のほか事務員や私などの従業員が集まった。
そこに仕事が休みだと言うマティアス様までいる。
まあ、私に報告した後卒倒してしまったアンヌ様を教会内まで運んでくれた結果、なんとなくまだ一緒にいるってだけなんだけれど。
応接室に集まった十人ほどの従業員は、皆神妙な面持ちで長椅子に座り水を飲むアンヌ様を見つめている。
「けさ早く報せが来て……今日の昼ごろこちらにいらっしゃって、一泊されると」
「……急すぎませんか、それ?」
癒しの聖人と呼ばれる有名人がそんな急にくるとか相手の迷惑考えていないとしか思えないけれど。
でもデュクロ司祭は思いついたらそれを行動に起こさないと気が済まない人だしなあ……
「もう、心臓が止まるかと思ったわ。ワトーさん、すみませんお忙しいでしょうに。お恥ずかしい姿をお見せしました」
ワトーさん、というのはマティアス様のことだ。彼は首を横に振り、笑顔で、
「大丈夫ですよ」
と答える。
倒れた女性を無視するわけはないよね。
「ただね、一部屋寝る部屋を用意しておいてくれればいいとおっしゃって。もてなしなどはいらないと。普段通りでいいと言われたのだけれど……」
戸惑った表情でアンヌ様は言う。
「いや、それはきっと本気ですよ」
私が言うと、アンヌ様は私のほうを見て目を瞬かせた。
「あ、そうよね、エステルさんはデュクロ司祭のことをご存じだったわね。私もお会いしたことはもちろんあるのだけれど……もう遠い存在すぎてどうしたらいいかわからなくて」
「そんなに身構えなくてもよいかと思いますが……食べ物の好き嫌いもないはずですし」
大仰な出迎えなんていらないし、準備とかいらない、と言われてもこちらとしてはそうはいかないよね。
まあ、冬も近くて閑散期に入るので暇と言えば暇な私たちは、動転しているアンヌ様を落ち着かせつつ、部屋のお掃除やお布団の準備などをした。
ユリアンは私とマティアス様の間に挟まって私たちの腕を掴み、機嫌よさそうに歩いている。
「まるで親子ねー」
なんて、顔見知りの商店の奥さんが笑顔で言ってくる。
「えへへー。今日は楽しかったから!」
と、ご機嫌な声でユリアンが答える。
「楽しかったならよかった。正直大丈夫かな、と思っていたから」
とマティアス様が言う。
「楽しかったよー! お母さんが戻ったらいっぱい話すんだ!」
と、無邪気に言う姿が何だかけなげに見える。
普段、お母さんのことを口にしないけれど、やっぱりお母さんがいいよね。
私より年上でも、中身は十二、三歳の子供なんだもの。
お父さんがいないし。
早く見つけていあげたいのに、お母さんの手がかりはない。
「お母さんなら本気出せば逃げられると思うんだけどなあ。なんで戻ってこないのかなあ」
寂しげにぼそりとユリアンが呟く。
「お母さん、超怖いんだから。っていうか大人って怒るとむちゃくちゃ怖いんだよね。やっぱり半分獣だからなのかな。気性が荒いし。お母さんなら、家の壁位壊せると思うんだけどなあ」
「そんなに怖いんだ、お母さん」
ユリアンのお母さん、ニコラさんの顔を思い出すが、とても怖そうには見えない。けれど、ユリアンの言うとおり獣人て気性が荒い人が多いのは確かだ。
大人の獣人とは喧嘩をするな、と言われている。
激高すると加減ができず、怪我どころでは済まなくなるからだ。
まあ、獣人も喧嘩になりそうなときはその場をすぐに離れるらしいけれど。
「ねえ、マティアスさん」
「うん、何?」
「本当の夫婦になっちゃえばいいのに」
「ちょっと、何言ってるの、ユリアン」
「ははは。そうだねー」
当たり前だけれど、マティアス様は同意するよね。なんだか気恥ずかしく感じ私は俯いて歩く。
「だって姉ちゃん好きな人とかいないんでしょ? ならいいじゃん!」
「わ、私は夢があるからまだそう言うの考えられないの!」
そう答えた私はきっと顔が真っ赤だったことだろう。
言ってから、気まずさを感じて私はマティアス様の様子をうかがうこともできなかった。
あと半年もしないうちに、約束の一年が来る。私はその時何を選択するだろうか?
私はまだ、何の覚悟もできていない。
それから一週間以上が過ぎた。
あと一か月もすれば冬がやってくる。
この辺りは冬が長い。雪も降る。
「雪かあ。俺のいた町は滅多に降らないから楽しみだな」
いつもの夕食の時間、マティアス様が言うとユリアンが驚いた顔をした。
「雪が楽しみって理解できないけどなあ。冷たいし」
「何言ってるのよ。雪が降ったら雪だるまつくったり、ミカ君たちと雪合戦したりして遊んでいるじゃないの、毎年」
「雪合戦なんて子供の遊びだよ!」
「子供なんでしょ、ユリアン」
お年頃のせいか、都合よくユリアンは子供と大人を使い分ける。
子供じゃないし、と文句を言うユリアンを無視して、私は食べ終わった食器を片づけた。
いつものように教会までマティアス様が送ってくれたわけだけれど、教会の外になぜかアンヌ様がいて、私を見つけた途端走ってきた。
アンヌ様が外にいるなんて珍しい。
「神官のアンヌ様だよね、彼女」
アンヌ様から視線を外さず、マティアス様が言った。
「そうですけど……どうしたのかな」
アンヌ様はものすごい勢いで走ってきて、私の腕をがしっと掴んで言った。
「大変なの!」
と、とても真剣な顔をして、アンヌ様は言った。
「な、な、なにがですか、アンヌ様」
「いらっしゃるの!」
「どなたがですか?」
「司祭様よ!」
その言葉で、私はなんとなく事情を察した。
「司祭様が……デュクロ司祭様がやってくるの!」
「癒しの聖人が?」
そう言ったのは、マティアス様だった。
デュクロ司祭様は変わった人だ。
妻帯せず、自分よりも他人を優先し自らの命を削りながら人々を救うことを自分に与えられた使命だと言う。
大昔にその力を巡り戦争まで起きたという癒しの魔法が一切隠さず、惜し気もなく力を使う。
最期は人生最高だった、と笑って死にたいと言ってはばからない。
まだ三十代だけれど、かなり身体が弱っているらしい。
けれどそれを押し隠しながら望まれれば癒しの魔法を使うし、死の淵に立ち病気に苦しむ人の痛みを和らげ、安らかに天に召されるよう祈りを捧げる。
私はきっとあんな風にはなれない。
デュクロ司祭の足元にも及ばないだろうなと思う。
けれどあの方の意志を守りたいと心の中で思ってはいる。
「でもなぜデュクロ司祭様がこちらにいらっしゃるんですか?」
教会の応接室に、アンヌ司祭様のほか事務員や私などの従業員が集まった。
そこに仕事が休みだと言うマティアス様までいる。
まあ、私に報告した後卒倒してしまったアンヌ様を教会内まで運んでくれた結果、なんとなくまだ一緒にいるってだけなんだけれど。
応接室に集まった十人ほどの従業員は、皆神妙な面持ちで長椅子に座り水を飲むアンヌ様を見つめている。
「けさ早く報せが来て……今日の昼ごろこちらにいらっしゃって、一泊されると」
「……急すぎませんか、それ?」
癒しの聖人と呼ばれる有名人がそんな急にくるとか相手の迷惑考えていないとしか思えないけれど。
でもデュクロ司祭は思いついたらそれを行動に起こさないと気が済まない人だしなあ……
「もう、心臓が止まるかと思ったわ。ワトーさん、すみませんお忙しいでしょうに。お恥ずかしい姿をお見せしました」
ワトーさん、というのはマティアス様のことだ。彼は首を横に振り、笑顔で、
「大丈夫ですよ」
と答える。
倒れた女性を無視するわけはないよね。
「ただね、一部屋寝る部屋を用意しておいてくれればいいとおっしゃって。もてなしなどはいらないと。普段通りでいいと言われたのだけれど……」
戸惑った表情でアンヌ様は言う。
「いや、それはきっと本気ですよ」
私が言うと、アンヌ様は私のほうを見て目を瞬かせた。
「あ、そうよね、エステルさんはデュクロ司祭のことをご存じだったわね。私もお会いしたことはもちろんあるのだけれど……もう遠い存在すぎてどうしたらいいかわからなくて」
「そんなに身構えなくてもよいかと思いますが……食べ物の好き嫌いもないはずですし」
大仰な出迎えなんていらないし、準備とかいらない、と言われてもこちらとしてはそうはいかないよね。
まあ、冬も近くて閑散期に入るので暇と言えば暇な私たちは、動転しているアンヌ様を落ち着かせつつ、部屋のお掃除やお布団の準備などをした。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる