「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio

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第一話 序に代えて

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序に代えて

「風のように」

風のように
 自由気ままに

  どこにでも
   どこまでも

さわやかに
 吹き抜ける

  そんな人に
   なりたい   

自由気ままに
 吹く風は

  新芽のにおいを
   乗せてくる

南からくる
 この風は

  春のきざしを 
   乗せてくる

はえ なんぷう
 みなみかぜ

  大地が目覚める
   季節には

  碧の風が
   吹き抜ける

  南の風が
   吹き抜ける

 小学校5年生の時、自分のなりたいものという作文の課題が書けないで困っていると、作文の形にならなくても自分の今思っていることをそのまま表現しなさい。そう担任の先生が言ったので、頭に浮かんだままに文字にしてみたら、良い詩だとえらく褒められた。
 授業で担任の先生に褒められることなんかなかったので、気分をよくして次の年そのまま卒業文集にも書いたら、今度は校長先生から気持ちのよい詩だと褒められた。ぼくは逆にこれは気持ちが悪いから書いたのだと言いたかったが、せっかく褒めてもらったのだから黙ったままでいた。

 野球のこと以外で褒められた記憶はこれしかない。だから、これは自分の金メダルのように大事にしようと思っていたのだ。でも、このときの気持ちを思いだしてみると、全然よくない状態だったことを思い出して、それ以来忘れようと努めてきた。

それでも、今でもこんなふうに、風のようになりたいのは変わらない

そして中学になってからのことだ。めったに行かない図書室で見つけた「閑吟集」という古典の中にあったこの歌の意味を知ってから、何だか忘れられない歌になってしまった。

 「面影ばかり残して東の方へ下りし人の名はしらじらというまじ」



『南風の頃に』~ノダケンとその仲間達~  第一話

そこにあるはずのものがなぜだか見つからない。
毎日毎日通っている道。
いつものようにこの角を曲がる。
そうすればすぐそこに見えてくるはずのものが、なぜだかないのだ。

自分を迎えてくれるはずの家が、……見えない。
毎日毎日通っているおんなじ道なんだから、そんなはずはない。
何度も何度も同じ道を通って、そして、もう一度戻ってまた最初の
場所から繰り返してみる。
でも、でも、どうしても見つからない……。

ああ、そういえば僕は引っ越したんだと気づき、新しい家の方へと向かってみるのだが、そこにもなぜかたどり着けない。周りはもう薄暗くなり、人通りも途絶えた街並みだけが自分を取り囲んでいる。

そこでもう、途方に暮れてしまう。僕は一体どこへ帰れば良いんだろう。今いるここから、どうやって自分の家まで行けば良いんだ……。

自分の心臓がなんだか得体の知れない冷たいものにつかまれているように感じる頃に、いつものように場面が変わってしまう。

そんな夢を何度も何度も見た。
そして最後には言いようのない不安感に耐えきれなくなって目を覚ましてしまう。目が覚めてしまうと、そこからはいつもと同じように一日が始まり、それはそれで楽しくないわけではなかった。この何年もの間、決まってこんな夢ばかりを見る。それは待ちかねた春が始まり。みんなが新しい生活にウキウキとした姿で歩き始める頃に多かった。

今日もまた……。
いつものように自分の家が見つからず、途方に暮れて立ち尽くしていると……、朝が始まっていた。


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