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第16話 第一部 15・コンセイキョウギ?
しおりを挟む「どこの中学だった?」
「岩内です」
「岩内ね……、小山先生のところ?」
「そうです」
「小山先生に何か言われなかった?」
「いえ、1年生の時に担任でしたが、その後は違う学年でしたし、あんまり生徒と口聞きませんから」
陸上の名選手だったという噂の小山先生は変わった人だった。いつでも生徒を見下したようなしゃべり方をして、自分だけがにやついているような人だった。僕が中学に入学してすぐに他の小学校から来た生徒とトラブルを起こしたとき、訳も聞かずに1人で怒りまくっていた。話を聞く姿勢など示すことなく、大事な自分の時間が使われてしまったことや自分のクラスがまとまらないことのすべてを、生徒である僕らにかぶせてしまうような言い方をしていた。
父は呼び出しに激怒して小山先生とぶつかり、校長室にまで押しかける始末だった。それからも何回か保護者とのトラブルがあったらしく、2年生になるときに小山先生は担任を外れ、違う学年の所属になっていた。陸上部の三年生が中学生活最後の大会に参加できなくなったのも、この先生が原因だったのだと噂されていた。
「そう、やっぱりね。……野球のボール投げはどのくらい? 遠投っていうの?」
「はい、遠投は得意でした。90m以上は投げてました」
「以上というと?」
「グランドでは90m以上は測れませんから」
「なるほど……」
じっと僕の顔を見る上野先生の手からおにぎりのご飯つぶがこぼれた。
「山口さん」
今度はミス山口とは言わなかった。
「この人はネルギー溢れてるようだから、いろんな種目に挑戦させたほうがいいと思うよ。陸上素人だけどさっきの走りを見てたら、ちょっとすごいかもしれない!」
さっきまでとは違う真剣な表情に見えた。
「はい! 私もそう思っていました。南が丘にはちょっといないタイプですから。何か新しいこと起こしてくれそうで!」
上野先生と話すときの山口さんは、いつも以上に笑顔が輝いて見える。
「さすがミス山口。あなたは本当にすごい人だね! 絶対学者になれるよ! 羨ましくなるなー」
上野先生と山口さんが何を考えているのか僕には分からないが、会話している二人の表情はすごく魅力的だった。
午後の練習は技術練習が中心になった。午前中はあまり指示をしなかった上野先生が各グループごとに動作指導を始めた。
「やり投げ希望してるようなこと聞いたけど?」
清嶺高校には2人のやり投げ選手がいて練習をはじめようとしているところだった。
「はい、野球やってたんで、一番合ってるかなと思って」
「君は結構走るのも伸びると思うから、向いてるかもしれないね。でも、槍だけじゃもったいないなー。もっといろんなことやってみたいと思わない?」
「いろんなことというと、どんなのですか?」
ちょっとドキドキしてきた。
「うん、それなんだけどね、なんかどれも伸びそうだよ君は。槍はうちの旦那に教えてもらいなさい。一応あの人の専門だから。」
「そうなんですか? 一度もそんなこと言ってませんでした」
「そうだろうね、あの人は自分のことあんまり言わないから。でも、あたしが言っておくから、教えてくれるよ。」
違う学校なのに夫婦だからこんなふうに交流してるのだろうか。
「槍よりも、ちょっとハードルとか砲丸とか、今日はやってみよう! 他のは南が丘でやることにしてさ」
「ほかって、なんですか? 何をやればいいんですか?」
「あらあら、そうだよねー、まだ言ってなかったもんね。あのね、君は混成競技に向いてると思うんだよねー。」
「コンセイ? 競技?」
「うんそう、高校だと八種競技。一般だと十種競技ね」
「八種目やるってことですか?」
「そう、2日間で、1日四種目ずつ八種目。一般の十種競技は『デカスロン』って言うんだけどね、ヨーロッパだと『キングオブアスリート』として賞賛される競技になってる。どんな意味かはわかるでしょう。日本じゃまだまだマイナーだし、選手層は薄いから記録もたいしたことないけど」
「二日間で八種目」
「そう、暇じゃないことだけは保証するよ」
「八種目というと、何があるんですか?」
高校生用の混成競技である八種競技は、1日目に100m・砲丸投げ・走り幅跳び・400mで、2日目に110mジュニアハードル・走り高跳び・やり投げ・1500mを行い、それぞれの種目に設定されている得点の合計を争う競技だということだった。十種競技の場合はこれに円盤投げと棒高跳びが加わる。面白そうだった。もちろんどれもやったことのない競技ばかりだ。100mは記録会で予選落ちだったし、どのくらいの記録がいいのかさえわからなかった。
「全部の種目で強い人なんかいないんだよ。スプリント系に強い人、ジャンプ系に強い人、投擲系に強い人と、それぞれタイプがある。当然だね。でもその中でもね、スプリント系に強くてさ、体の大きな人が伸びるだろうね。君にぴったりみたいに思うけど」
「100m予選落ちでした」
「タイムは?」
「11秒7」
「大丈夫、立派な記録。午前中の練習見ててよくわかった。君は今まで走る練習したことないでしょ。これからいくらでも伸びるよ。今は力だけで走ってるから。でも、それも魅力。どうしてもね、力のない人は伸びない。これはもうしょうがない。自分の持ってる能力だから。誰でもあるところまでは練習で伸ばせるけど、その上は能力の差がどうしても出てしまうんだよね。結局のところ、最後まで行くとね、持って生まれた体格や能力にはかなわないものなの。君のその体は、本当に親に感謝したほうがいいよ。足首から太ももにかけての筋肉のつき方なんか、本当に羨ましいくらい。」
父は170センチに満たない背丈だが、祖父は175㎝の身長と厚い胸板を持っている。僕を可愛がってくれていた叔父も180㎝位の身長で肩幅の広い人だった。
「初めての種目ばかりなんだから、うまくいくはずないよ。とにかく失格にならないで全種目を経験してみることが大事だからね。やるかどうかは後で決めればいいから、とにかく今日はハードルと砲丸の動きだけ覚えなさい。あとはうちの旦那と相談して決めるといい」
「分かりました」
僕には何があっているのかはわからないけれども、適正をしっかり考えてくれたのだということはわかった。自分のチームのためにではなく、僕のために考えてくれた。混成競技という種目が夢中になれるものかどうかはわからなかった。それでも、一日中暇じゃなさそうなところは気に入った。あの広い競技場を二日間にわたって存分に使えるようなのだ。よくわからないながらも、なんだか急に楽しい時間が見つかりそうな気がしてきた。
大丈夫、体力には結構自信がある。
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