3 / 4
後日譚② 王弟の苦悩(王弟リオン視点→王ボルタ視点→ケイ視点)
(王弟リオンside)
「……全く、兄上め」
目の前に積み上げられた書類の山を見て、思わずため息が漏れた。
机の上には、処刑騒ぎの後処理に関する報告書、各貴族からの嘆願、教会からの抗議文。
どれも見飽きた紙束だ。
同じ年の甥っ子であるメルドが先日、元婚約者を処刑しかけ、王位継承権を剥奪された。
俺は次の王位継承者に任命され、以来膨大な書類たちと戦っている。
「兄上の“息子ラブ”にも困ったもんだ」
メルドは現在離れに幽閉され、政治的権限をすべてはく奪されている。
ただそれはメルドの父であり、俺の兄の現王が息子可愛さに仕組んだことだった。
メルドが大きな失敗をするように仕向け、俺を王位継承者にする。
「まんまと兄上の思惑通りになったな……」
メルドは昔から少し要領の悪い所があり、いつも周囲から俺と比べられ頭を悩ませていたようだ。
最愛の王妃を早くに亡くし、後妻も迎えず、亡き妻に操を立てていた兄は、王として政務に追われ、最愛の息子と過ごす時間をほとんど持てなかった。
その結果、息子への接し方がわからなくなり、メルドとの距離はさらに開いてしまった。
「今日もメルドたんに話しかけられなかった……」
そう、執務室で落ち込む兄上を、何度見かけたことか。
「いや、普通に『元気か?』とか話せばいいじゃないですか……兄上、メルドのことになると、ポンコツすぎますよね?」
「だって! 反王家派の貴族どもの目があるから、表立って可愛がることもできないし……メルドたん、可愛すぎて何を話せばいいのか、わからなくなっちゃうんだもん」
「いい年して『だもん』とか言わないでくださいよ」
口を尖らせる兄上に、俺はため息をつく。
「メルドたん、真っ直ぐでいい子すぎる天使だから、王とか向いてないと思うんだよ。最近悩んでいるみたいだし……わしの跡を継がせたくないなぁ」
俺のため息に被せるように、兄上がこぼす。
「兄上の子供は一人しかいないんだから、メルドが継ぐしかないじゃないですか」
「そうだ! お前が王様になればいいんじゃない?」
「いや、それは無理でしょう。兄上と違って、俺の母は平民ですし、反王家派も親王家派も認めないですよ」
兄と俺は異母兄弟で、兄は公爵家の正妃の子、俺は側妃ですらない平民メイドの息子だ。
「——貴族たちが認めたら、王様やってくれる?」
「いや、認められるわけないじゃないですか。でもまぁ、仮にメルドの王位継承が難しくなったら、代理ぐらいはやってもいいですよ」
「やってもいいんだね!? わし、今しっかり聞いたからね!! おおーい、セバス!! 例の計画進めてくれー!!」
兄上は執事のセバスになにやら伝えると、満足そうに紅茶を飲み干した。
(い、いやな予感がする!)
——そしてその三か月後、メルドは無実の元婚約者を処刑しかける、という大失態を犯し、俺が次の王位継承者として任命されたのだった。
「兄上、またメルドのところに、こっそり覗きに行っているのかな……」
兄上は、反王家派がメルドを利用しようとするのを恐れ、政治的に利用価値がないことを示すため、皆の前で厳しい言葉をもって、メルドに絶縁宣言をした。
「メルドたんに酷いこと言っちゃったぁぁぁ!!」と三日三晩泣き腫らす兄上を、俺とセバスの二人がかりでなんとか宥めたものの、時を見てはこうして執務を放り出し、離宮へこっそりメルドを覗き見に行ってしまうのだった。
「まったく、そんなに溺愛しているなら、影でこっそり甘やかせばいいのに……」
おそらく、メルドには兄の想いは1ミリも伝わっていないだろう。
メルドの要領の悪さは、兄上に似たのかも……なんて思いながら、今日も俺は目の前の膨大な書類と格闘するのだった。
(兄上、早く帰ってきて仕事して!!)
◆◆◆
(王ボルタside)
——今日も今日とて息子が可愛い。
護衛騎士と向かい合って、美味しそうに紅茶を飲むメルド。
(どこの紅茶かあとでセバスに調べさせなきゃ!)
おいしそうにサンドイッチを口いっぱいに頬張るメルド。
(膨らんだほっぺ、可愛い!)
王太子時代には見られなかった、柔らかい笑顔を浮かべるメルド。
(笑顔が100億点満点!)
わしは日課になっている『メルドたん観察日記』に息子の可愛さを書き留める。
(はぁ、はぁ、可愛すぎて胸が苦しい……もうこれ以上はメルドたん過剰摂取で血圧が上がり過ぎてしまう!)
先日も主治医に注意されたので、名残惜しさを残しながらその場をあとにした。
◆◆◆
(ケイside)
(また今日ものぞき見に来ていたな……こっそり見に来るぐらいなら、手紙でもなんでも渡して、本心を伝えればいいのに)
俺はメルド殿下の後方の木の影から、コソコソと立ち去る王の後姿を、冷めた目で見送る。
(まあ、メルド殿下をここに幽閉してくれたのは感謝してますけどね)
子供のころからずっとメルド殿下が好きだった。
不器用で弱くて、それでも正面からぶつかって、泣きながら努力して。
逃げたいくせに、逃げ方すら下手くそで。
俺にだけ見せてくれる泣き顔を、他の誰にも見せたくなかった。
この浅ましい感情は、墓まで持っていく……はずだった。
それなのに——
メルド殿下は手の届く場所まで来てくれた。
俺は一度知った貴方の温もりを、もう手放すことなんてできない。
何も知らず、目の前でサンドイッチを頬張るメルド殿下に、俺は紅茶を入れ直すのだった。
「……全く、兄上め」
目の前に積み上げられた書類の山を見て、思わずため息が漏れた。
机の上には、処刑騒ぎの後処理に関する報告書、各貴族からの嘆願、教会からの抗議文。
どれも見飽きた紙束だ。
同じ年の甥っ子であるメルドが先日、元婚約者を処刑しかけ、王位継承権を剥奪された。
俺は次の王位継承者に任命され、以来膨大な書類たちと戦っている。
「兄上の“息子ラブ”にも困ったもんだ」
メルドは現在離れに幽閉され、政治的権限をすべてはく奪されている。
ただそれはメルドの父であり、俺の兄の現王が息子可愛さに仕組んだことだった。
メルドが大きな失敗をするように仕向け、俺を王位継承者にする。
「まんまと兄上の思惑通りになったな……」
メルドは昔から少し要領の悪い所があり、いつも周囲から俺と比べられ頭を悩ませていたようだ。
最愛の王妃を早くに亡くし、後妻も迎えず、亡き妻に操を立てていた兄は、王として政務に追われ、最愛の息子と過ごす時間をほとんど持てなかった。
その結果、息子への接し方がわからなくなり、メルドとの距離はさらに開いてしまった。
「今日もメルドたんに話しかけられなかった……」
そう、執務室で落ち込む兄上を、何度見かけたことか。
「いや、普通に『元気か?』とか話せばいいじゃないですか……兄上、メルドのことになると、ポンコツすぎますよね?」
「だって! 反王家派の貴族どもの目があるから、表立って可愛がることもできないし……メルドたん、可愛すぎて何を話せばいいのか、わからなくなっちゃうんだもん」
「いい年して『だもん』とか言わないでくださいよ」
口を尖らせる兄上に、俺はため息をつく。
「メルドたん、真っ直ぐでいい子すぎる天使だから、王とか向いてないと思うんだよ。最近悩んでいるみたいだし……わしの跡を継がせたくないなぁ」
俺のため息に被せるように、兄上がこぼす。
「兄上の子供は一人しかいないんだから、メルドが継ぐしかないじゃないですか」
「そうだ! お前が王様になればいいんじゃない?」
「いや、それは無理でしょう。兄上と違って、俺の母は平民ですし、反王家派も親王家派も認めないですよ」
兄と俺は異母兄弟で、兄は公爵家の正妃の子、俺は側妃ですらない平民メイドの息子だ。
「——貴族たちが認めたら、王様やってくれる?」
「いや、認められるわけないじゃないですか。でもまぁ、仮にメルドの王位継承が難しくなったら、代理ぐらいはやってもいいですよ」
「やってもいいんだね!? わし、今しっかり聞いたからね!! おおーい、セバス!! 例の計画進めてくれー!!」
兄上は執事のセバスになにやら伝えると、満足そうに紅茶を飲み干した。
(い、いやな予感がする!)
——そしてその三か月後、メルドは無実の元婚約者を処刑しかける、という大失態を犯し、俺が次の王位継承者として任命されたのだった。
「兄上、またメルドのところに、こっそり覗きに行っているのかな……」
兄上は、反王家派がメルドを利用しようとするのを恐れ、政治的に利用価値がないことを示すため、皆の前で厳しい言葉をもって、メルドに絶縁宣言をした。
「メルドたんに酷いこと言っちゃったぁぁぁ!!」と三日三晩泣き腫らす兄上を、俺とセバスの二人がかりでなんとか宥めたものの、時を見てはこうして執務を放り出し、離宮へこっそりメルドを覗き見に行ってしまうのだった。
「まったく、そんなに溺愛しているなら、影でこっそり甘やかせばいいのに……」
おそらく、メルドには兄の想いは1ミリも伝わっていないだろう。
メルドの要領の悪さは、兄上に似たのかも……なんて思いながら、今日も俺は目の前の膨大な書類と格闘するのだった。
(兄上、早く帰ってきて仕事して!!)
◆◆◆
(王ボルタside)
——今日も今日とて息子が可愛い。
護衛騎士と向かい合って、美味しそうに紅茶を飲むメルド。
(どこの紅茶かあとでセバスに調べさせなきゃ!)
おいしそうにサンドイッチを口いっぱいに頬張るメルド。
(膨らんだほっぺ、可愛い!)
王太子時代には見られなかった、柔らかい笑顔を浮かべるメルド。
(笑顔が100億点満点!)
わしは日課になっている『メルドたん観察日記』に息子の可愛さを書き留める。
(はぁ、はぁ、可愛すぎて胸が苦しい……もうこれ以上はメルドたん過剰摂取で血圧が上がり過ぎてしまう!)
先日も主治医に注意されたので、名残惜しさを残しながらその場をあとにした。
◆◆◆
(ケイside)
(また今日ものぞき見に来ていたな……こっそり見に来るぐらいなら、手紙でもなんでも渡して、本心を伝えればいいのに)
俺はメルド殿下の後方の木の影から、コソコソと立ち去る王の後姿を、冷めた目で見送る。
(まあ、メルド殿下をここに幽閉してくれたのは感謝してますけどね)
子供のころからずっとメルド殿下が好きだった。
不器用で弱くて、それでも正面からぶつかって、泣きながら努力して。
逃げたいくせに、逃げ方すら下手くそで。
俺にだけ見せてくれる泣き顔を、他の誰にも見せたくなかった。
この浅ましい感情は、墓まで持っていく……はずだった。
それなのに——
メルド殿下は手の届く場所まで来てくれた。
俺は一度知った貴方の温もりを、もう手放すことなんてできない。
何も知らず、目の前でサンドイッチを頬張るメルド殿下に、俺は紅茶を入れ直すのだった。
あなたにおすすめの小説
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結・続編別立】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。