【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

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後日譚② 王弟の苦悩(王弟リオン視点→王ボルタ視点→ケイ視点)

(王弟リオンside)

「……全く、兄上め」

 目の前に積み上げられた書類の山を見て、思わずため息が漏れた。
 机の上には、処刑騒ぎの後処理に関する報告書、各貴族からの嘆願、教会からの抗議文。
 どれも見飽きた紙束だ。

 同じ年の甥っ子であるメルドが先日、元婚約者を処刑しかけ、王位継承権を剥奪された。
 俺は次の王位継承者に任命され、以来膨大な書類たちと戦っている。

「兄上の“息子ラブ”にも困ったもんだ」

 メルドは現在離れに幽閉され、政治的権限をすべてはく奪されている。
 ただそれはメルドの父であり、俺の兄の現王が息子可愛さに仕組んだことだった。

 メルドが大きな失敗をするように仕向け、俺を王位継承者にする。

「まんまと兄上の思惑通りになったな……」

 メルドは昔から少し要領の悪い所があり、いつも周囲から俺と比べられ頭を悩ませていたようだ。

 最愛の王妃を早くに亡くし、後妻も迎えず、亡き妻に操を立てていた兄は、王として政務に追われ、最愛の息子と過ごす時間をほとんど持てなかった。
 その結果、息子への接し方がわからなくなり、メルドとの距離はさらに開いてしまった。

「今日もメルドたんに話しかけられなかった……」

 そう、執務室で落ち込む兄上を、何度見かけたことか。

「いや、普通に『元気か?』とか話せばいいじゃないですか……兄上、メルドのことになると、ポンコツすぎますよね?」

「だって! 反王家派の貴族どもの目があるから、表立って可愛がることもできないし……メルドたん、可愛すぎて何を話せばいいのか、わからなくなっちゃうんだもん」

「いい年して『だもん』とか言わないでくださいよ」

 口を尖らせる兄上に、俺はため息をつく。

「メルドたん、真っ直ぐでいい子すぎる天使だから、王とか向いてないと思うんだよ。最近悩んでいるみたいだし……わしの跡を継がせたくないなぁ」

 俺のため息に被せるように、兄上がこぼす。

「兄上の子供は一人しかいないんだから、メルドが継ぐしかないじゃないですか」

「そうだ! お前が王様になればいいんじゃない?」

「いや、それは無理でしょう。兄上と違って、俺の母は平民ですし、反王家派も親王家派も認めないですよ」

 兄と俺は異母兄弟で、兄は公爵家の正妃の子、俺は側妃ですらない平民メイドの息子だ。

「——貴族たちが認めたら、王様やってくれる?」

「いや、認められるわけないじゃないですか。でもまぁ、仮にメルドの王位継承が難しくなったら、代理ぐらいはやってもいいですよ」

「やってもいいんだね!? わし、今しっかり聞いたからね!! おおーい、セバス!! 例の計画進めてくれー!!」

 兄上は執事のセバスになにやら伝えると、満足そうに紅茶を飲み干した。

(い、いやな予感がする!)

 ——そしてその三か月後、メルドは無実の元婚約者を処刑しかける、という大失態を犯し、俺が次の王位継承者として任命されたのだった。

「兄上、またメルドのところに、こっそり覗きに行っているのかな……」

 兄上は、反王家派がメルドを利用しようとするのを恐れ、政治的に利用価値がないことを示すため、皆の前で厳しい言葉をもって、メルドに絶縁宣言をした。

「メルドたんに酷いこと言っちゃったぁぁぁ!!」と三日三晩泣き腫らす兄上を、俺とセバスの二人がかりでなんとか宥めたものの、時を見てはこうして執務を放り出し、離宮へこっそりメルドを覗き見に行ってしまうのだった。

「まったく、そんなに溺愛しているなら、影でこっそり甘やかせばいいのに……」

 おそらく、メルドには兄の想いは1ミリも伝わっていないだろう。
 メルドの要領の悪さは、兄上に似たのかも……なんて思いながら、今日も俺は目の前の膨大な書類と格闘するのだった。

(兄上、早く帰ってきて仕事して!!)


 ◆◆◆


(王ボルタside)

 ——今日も今日とて息子が可愛い。

 護衛騎士と向かい合って、美味しそうに紅茶を飲むメルド。
(どこの紅茶かあとでセバスに調べさせなきゃ!)
 おいしそうにサンドイッチを口いっぱいに頬張るメルド。
(膨らんだほっぺ、可愛い!)
 王太子時代には見られなかった、柔らかい笑顔を浮かべるメルド。
(笑顔が100億点満点!)

 わしは日課になっている『メルドたん観察日記』に息子の可愛さを書き留める。

(はぁ、はぁ、可愛すぎて胸が苦しい……もうこれ以上はメルドたん過剰摂取で血圧が上がり過ぎてしまう!)

 先日も主治医に注意されたので、名残惜しさを残しながらその場をあとにした。


 ◆◆◆


(ケイside)

(また今日ものぞき見に来ていたな……こっそり見に来るぐらいなら、手紙でもなんでも渡して、本心を伝えればいいのに)

 俺はメルド殿下の後方の木の影から、コソコソと立ち去る王の後姿を、冷めた目で見送る。

(まあ、メルド殿下をここに幽閉してくれたのは感謝してますけどね)

 子供のころからずっとメルド殿下が好きだった。
 不器用で弱くて、それでも正面からぶつかって、泣きながら努力して。
 逃げたいくせに、逃げ方すら下手くそで。
 俺にだけ見せてくれる泣き顔を、他の誰にも見せたくなかった。
 この浅ましい感情は、墓まで持っていく……はずだった。

 それなのに——
 メルド殿下は手の届く場所まで来てくれた。
 俺は一度知った貴方の温もりを、もう手放すことなんてできない。

 何も知らず、目の前でサンドイッチを頬張るメルド殿下に、俺は紅茶を入れ直すのだった。
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