薬の国

Queen1971

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第一章 薬の国入国

薬の国

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 ある日突然、健一は不思議な体験をした。誰もいない筈の左後方より死んでしまえと声がする。こんな事は今までにない変な体験…。戸惑い、驚き、恐怖…。
頭が混乱する。もちろん変な薬はきめてない。ある日を境にこんな現象が始まった…。

 それはある女の人との出会いから始まる。それはちょうど神戸淡路大震災があったころに遡る。その人と恋愛し結婚を前提にお付き合いしてた。その半年後幸せになるであろう結婚をしてごく普通の家庭を築けるはずと生活してた…が、それも長続きせず一年半後に崩壊する。妻の裏切りにより。
 
 崩壊する半年前より過呼吸、目眩、今となっては理解できるが幻聴、妄想も始まってたように思う。あまりにも様子がおかしかったので離婚してすぐより付き合いだしていた今の妻と神戸の心療内科に通院しだした。そのクリニックの玄関に入るとまるで異世界の住人らしき患者がいた。壁に向かって話しかけてる人、椅子に座らず胡座をして瞑想してる人、ぜんまいじかけのように小刻みに揺れてる人、人、人…

 約小一時間程待っただろうか?僕の名前が呼ばれた。山田健一さん診察室へどうぞと。診察室に入ると明るい診察室でお洒落な洋画、写真、置物などが目に入った。その次に先生の姿を見た気がする。眼鏡をかけた小柄な先生、優しそうな笑顔で声をかけてもらえた。
 事前に書いた問診を片手に僕の姿、様子を伺ってるように見える。先生は緊張することはないですよとまた笑顔で僕のことを観察。ざっと様子を見て(問診票も見て)夜は寝られますか?と聞かれた。僕は寝られない…と。

 その頃僕は寝られない為酒の力を借りて寝ていたように思う。毎晩ニッカの角瓶一本の力を借りて…まるで酒に溺れるように呑んでいた。
 診察の結果中程度の鬱病と診断され今は処方されてないロヒプノールという睡眠薬を処方された。お酒と一緒には絶対に飲まないようにと注意を受けて診察室より退室した。約30分程度の診察時間だったと思う。その間、妻の事を忘れていてふっと妻の姿を見ると固まっていた。帰りの道中薬を見てこんなちっさな錠剤1錠で眠りにつけるのかな?と不安な気持ちになったがその晩久々にお酒を呑む事なく泥沼に落ちるように眠りにつけた。
 翌日、いつも二日酔いでどんよりしている頭が嘘のようにスッキリと目覚める事ができた。これが最初の精神薬との出会いだった。

 その後、アル中一歩手前の身体が軽くなっていくのがわかり安心していたのだが、人間の身体はそんなに簡単には回復してくれない。そう、薬に耐性がつき始めたのだ。たった一月足らずの間に…。
もちろん先生も簡単には精神薬を増やしてくれない。アルコールと一緒に流し込む。最初はそれでまた寝れるようになっていったがほんのわずかな間でまた不眠症が頭をもたげてきた。こうなると厄介なことになる。アル中で睡眠薬でラリってしまい日中ヘロヘロになってしまう。なので先生に相談する。くすりが強くなっていく…の繰り返し。そのうちクリニックの先生から紹介状を書いてもらい大きな、あるO病院へ行くことを勧められた。まさか自分が精神科の病院に行くとは思ってなかったので最初は戸惑い、抵抗感もありしばらくお酒と残りの薬を飲んで様子を見ていたが、自分でも危ないと思ったのだろう腹をくくって紹介されたO病院に行くことに決めた。桜が満開で綺麗な季節だったように思う。

 O病院は無機質のコンクリートの建物が印象的な病院だった。緊張気味に問診票を書き診察時間まで待ってた。待合室はまるでカオスな世界だった。街のクリニックとは全然違うレベルの患者さん達がいた。もちろん普通にみえる人も…。

 その頃、僕もカオスの住人に片足を突っ込んだ人だったのでなんの抵抗も怖さも感じなかった。が、ここは違うと瞬時に思った。別に偏見とかではなく差別的でもなくって未来の自分はこうなるのかなっと呆然と他の患者さんを観察していた。ぼーっと観察していると不意に名前を呼ばれ診察室へ向かった。扉が妙に重たかったことを覚えている。何もない無機質な診察室。髪の毛がボサボサでまるで瓶底眼鏡の様な眼鏡をかけた先生と眉毛の太い看護婦さんが不機嫌そうに迎えてくれた。診察してもらいその後に脳波と脳内のCT検査をしますとなにやら書き込んで看護婦さんに手渡すと別室に案内された。そこには年齢不詳の検査技師の男性が居た。満面の笑顔で今から脳波をとりますと何やら頭にペタペタと電極のシールらしきものをたくさん貼ってもらいベッドに横にならされて検査技師の人が約小一時間かかりますリラックスして寝てくださいと説明があった。脳波検査が終わると次はCTですとまた別室へ連れていかれた。そこにはドーナッツのおばけみたいな検査機械がありまた横にならされて頭が動けなくなるぐらいに固定され検査が始まった。これは十分程で終わり結果が分かり次第先生から説明がありますと言われまた待合室へ…
三十分程で診察室へ通され説明を聞くことに。結果は重度の鬱病…
明日、入院の用意をしてもう一度来院するようにと言われ帰宅。

 入院の用意を済ませて来院するとすぐさま持ち物検査があった。父親も同席しての。まるで犯罪人を取り調べるような事務的な検査。驚きと怒りが渦巻くような検査だった。父親もその様子を観て激怒していたことを覚えている。危険物は持ち込めないのでと看護部長が謝罪まじりに説明していた。ただ僕はなされるがままに身体検査を受けた。そして晴れて記念すべき第一回目の入院。夕食前の入院だった。

 夕食ははっきり言ってお世辞にも美味しいとは言えない食事だったことを覚えている。あちらこちらで話し声と混じり怒声も聞こえた。怖かった。そして食後相部屋の住人と軽く挨拶…。自分もだが変な人達が多かった。そして食後の安定剤(精神薬)。寝るまで時間があったので本を読んでいた。するとそこへ患者の老人が来て病院の決まりを簡単に説明してくれた。そうこうしているうちに寝る前の薬の時間がきた。その当時は多剤服用の時代だったので梱包されている薬の種類を見てひっくり返りそうになった。たぶん十何錠かのくすりが入っていたと思う。今は無きベゲタミンAが三錠ロヒプノールが二錠ハルシオンが二錠ベンザリンが二錠あとetc…。マーブルチョコレートよろしく色とりどりの薬を飲んで就寝…。
だが、普通の人がこれだけの量を飲めば二、三日めが覚めないくらいの量なのに寝れない。仕方がないのでホールを徘徊することに。他の患者も寝られないのか徘徊…。まるでゾンビが集団行進しているかのような深夜の徘徊。ステーションの前には頓服をもらうために並ぶ患者の集団が出来てた。僕もその中の一人として並んだ。今では絶対に処方されないであろうバルビツール系の(まるで覚醒剤のような結晶の薬)を飲みベットへ直行。やっと朝まで寝られた。が…次の朝頭が混乱して思考が回らない。そらそうだ…あれだけの向精神薬を飲んで回るはずがない。ラリって大変だった。

 次の朝、回らない頭を掻きむしりながらここはどこだ?何故こんな無機質な部屋にいるのか一瞬考えた… 夢だ!これは夢なんだ!家にいるはずの僕が…
その考えは蠢く他の患者、怒号で現実の世界に強制的に戻された。そうか俺は入院したんだ昨日。僕は時計を見て何時なのか確認した。朝の五時…街はまだ寝静まっててもおかしくない時間なのにここは違うと変な違和感の中ホールに出る。看護婦が忙しそうに患者達を起こしていた。車椅子に括り付けたり、寝たっきりの患者のオムツ交換したりと、とても寝れるような状態ではない。山田さん…だったかな?まだ寝てないといけない時間だから部屋に戻って…っと言われたがトイレに行きたい旨を伝えた。トイレを探していると行列が少しできていた。なんだろう?覗くとそこはトイレだったのだ
。皆んななんで並んでるのかなと不思議に思い中に入れてもらうと少しいかつい中年の人が一言、大か小か?と、突拍子もなく言ってきた。僕は戸惑いながらなんのことですか?と尋ねると大便か小便かどちらだ?とイラつきながら大きな声でもう一度聞いてきた。ぼくは大便ですと少しムッとして答えるとその中年の男は一言、じゃあ後ろへ並べ!と…。どうやらトイレの順番待ちの列だったみたいだ精神薬を飲むと(強烈な強さの薬)前の晩に強制的に下剤を飲まされ腸を動かさないとイレウス(腸閉塞)になるらしくみんな朝一トイレに並ぶのが日常らしい。僕はまだ経過観察で下剤を飲まされてなかったからよかったものの、下剤を飲むとてきめん次の朝は大を催すとのこと。十分程で順番が回ってきた。トイレの個室に入ると…??何かがない。よく見ると中からかけるカギがないのだ。おまけに和式のトイレのあちらこちらには便が飛び散ってる不潔きまわりないトイレが一部屋だけ。朝から胸が悪くなりながら用を出すと慌てて出た。すると無表情な次の中年が何食わぬ顔で入っていった。慣れるまで約一週間かかった。その後は慣れとは恐ろしいもので何も感じなくなった。

 そんなこんなで約ひと月入院生活も過ぎようとする頃昼頃に主治医がやって来て精神の精密検査をすると言ってきた。その検査ではっきりとした病名がわかるからと説明して忙しそうに次の患者の回診に行ってしまった。次の日看護婦から呼び出され検査室に行った。次はどんな検査があるのかなとなかばやけくそになりながら待つこと五分程でしわくちゃの白衣を着た検査技師がやって来た。簡単に説明を受け検査を受ける。まず最初にリンゴのなる木を書いてくださいと言われ思いつくままに書いた。次、変な絵を何枚か見てそれについて感想を述べる。最後に文章を無題で書かされた。それで終わり。気がつくと三時間くらい経っていた。後日主治医から結果が聞かされると聞いて検査室から部屋に帰った。結果を早く知りたかったかったが結果が出るまで二、三日ほどかかるらしい。部屋に帰るとアナウンスが流れる。昼食の時間らしい。皆んなそれぞれ並ぶ夜とはうってかわって静かだった… それもそのはず叫ぶ患者は別室にて介助されながら食べてるらしいあんなうるさい環境ではご飯も入らない。食後、ぼーっとしてると小柄な年齢不詳の男が近寄ってきて話しかけてきた。よく聞くとタバコを一本くれないかと言ってるらしい。薬のせいか生まれつきなのか発音がおかしく最初理解出来なかった。精神科は昔病棟の一室に喫煙所がありライターが紐で持って行かれないように柱にくくりつけてあった
その男に色々と聞いた。タバコは病院の中ではお金の次に大切な物資で賭け事、また朝食のパンに変わることがあるとひそひそと教えてくれた。そうやって何人かと面識ができ話をして情報を得ていった。

 その後二、三日が経ち主治医に呼び出された。どうやら検査結果が出たらしく興味深々聞きに行くとやはり無機質なコンクリートの部屋に通され椅子に座って聴く。僕の病名は統合失調症… 昔で言うところの精神分裂症とのことだった。現在の科学を持ってしても何故発症するのか分からない。が、僕の場合は最初の離婚がショックで発症したらしい。一通り説明を聞いて理解した別に珍しい病気ではないらしく百人に一人罹る精神疾患運が良いのか悪いのかその一人に僕は選ばれたらしい。その日の午後今の妻が妊娠八ヶ月のお腹で病院まで手作りの唐揚げ弁当を持ってきてくれた。まともな食事を取っていなかった僕には素晴らしいご馳走だった。何故か妻に申し訳なくなり泣いてしまった。病名とこれからの事いろいろと話した記憶があった。

 入院して約三ヶ月色々とあった。が長期入院も嫌だったので症状が寛解する頃に退院の話しを主治医に話すと意外にもすんなり退院の許可が出た。入院中のことは忘れられないぐらい強烈な経験となったが意外にも楽しめた。その後はそのO病院には通院はせずに違う中規模な精神科に通院…入退院を繰り返して今に至る。現在の精神科は法の規制により多剤処方は禁じられている。だが昔は多剤服用が当たり前で医者もたぶん効果不明で何種類も薬を処方していたのだと思う。薬の国は終わらないと思った。
実際、薬を溜め込んで服薬自殺をする人が後をたたない。そんな現状を見て見ぬふりをしていたのだと思うがニュースになったり市民団体の働きかけにより見ぬふりができなくなり遅すぎる規制をかけてきた。薬の国の終焉である。

 精神科に限らずいろいろな病気で多剤服用されてる患者はいっぱいいることを知っている。薬の国日本… この先どうなるのか興味深いものがある。

 助けてくれる薬だが毒にもなりうる。そのことを忘れないでほしい。
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