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三章.転生聖女と春の庭
聖女自省する
しおりを挟む今の自分は明らかに、以前と違う自分だ。
姿形も地位も性別さえも。
ゲームの主人公として立案された自分の姿形は、恐らくはこの世界でも抜きん出て可愛いのだろうとは思ってはいたけれど。
ふと気が付いた時の貴族子息達の仄暗い劣情を含んだギラつく目が怖い事といったら・・・
薔薇のアーチの入口付近で周りを見回す。
自分達を囲んでいる貴族子息子女達の見る目の獰猛さよ・・・
鵜の目鷹の目というはこういうのを言うんだろうなと、前世の比喩表現を思いだして若干遠い目になる。
うん、自分も彼も標的なのだろう貴族という名の肉食獣達の。
そしてもう一つ困ったことに気がついてしまったのは自分の気持ちだ。
気づかれないように横に並ぶ黒髪の美丈夫をそっと見上げる。
前世は会社の上司でしかも今はまるで庇護者の様に自分を気遣ってくれる。
彼も又、前世とは全く違う性別でしかも王族という厄介な立場に生まれ変わってしまった。
最初の目覚めが十六歳だと聞いている。だとしたら彼は二年半ほどの短い間で全てを受け入れたのだろうと思う。
きっととても強い人だ。
前世は入社してからこの人にずっと守られていた。自分は男だったはずなのに、女性だったこの人に。
そして今も守られている。絶対そうだと断言出来る自信すらある・・・
きっとこの人は性別が男だろうが女だろうが関係なく強くて人を守れる人なんだろう。
振り返って比べてみて、自分はどうなのだろうか?
本当に何かを守れていたのだろうか・・・
前世で自分のポリシーは『女性は守るのが男の務め』と偉そうに言っていた気がする。
そして、自分が今女性になって気がついたのは、『女性の申し出を断る』事で『女性に嫌われる』のが怖い臆病者だっただけなのでは無いだろうか・・・?
それともモテなかったのかな?覚えてないけど。
生まれてすぐに『王子の嫁』に嫌悪感を覚えたのは確かだが、父親は好きだったし家令や侍従にも普通に接していた。そういえば男性も女性も関係なく普通に接していたと今更ながら、そう思う。
男性と閨を共にすると言う事を今になって考えてみると、全然さっぱり何にも思い付かない。
想像がつかないしスチルも思いつかない。
もしや女性と・・・と想像してみても全く同じだ。
ハッ! ひょっとして童貞だった?
自分の身体の性別は女性だが、もしかすると精神的な性別は・・・
「ひょっとして両生具有でしょうか・・・」
パコンッと頭を叩かれた。
「おい、ミリー。何を一体口走ってるんだよ・・・」
「あ、ミゲル様、お久しぶりです」
「ずっと一緒に居るだろうが。何処へ行ってたんだよ」
「えーと、精神世界? 」
「・・・そうか」
「はい」
今、自分はこの人の事がとても好きなのだと思う。それは性別とか、地位とか、自分を守ってくれる人とかそんなのじゃなくて・・・
「ああ、気が付きました」
「?」
そうだ、あの言葉だ。
『お前がお前じゃなくなる訳じゃない。ミリーはミリーだ』
あれは、私を丸ごと受け入れてくれる言葉だ。
その前からずっと人として尊敬していたと思う。
でもあの言葉で、きっとこの人の事が好きになったんだろう。
前世で頑なだった自分が。
周りに受け入れて欲しかった自分が。
嫌われたくないと何処かで怯えていた自分が。
それで出来上がっていた『ヒジリシンゴ』という前世が。
あの言葉で救われたんだ。
やっとミリアンヌ・アークライドという人になれた気がする。
「ミゲル様」
「ん? どうした」
「これからも宜しくお願いします。ご迷惑おかけしますが」
「おお。どんと来い」
綺麗な満天の星空の様な瞳が一瞬大きく見開かれたかと思うと、甘い蕩けるような笑みを、返される。
そしてまたドギマギさせられる。
前世の記憶があるから余計に恋かどうかがわからないけれど。
ああ、やっぱりこの人は素敵な人だ。
惹かれないわけがない。
これまでも、これからもずっと。
ありがとう。
この人が居てくれて良かった。
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お読み頂きありがとうございます。
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