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三章.転生聖女と春の庭
鯉じゃなくて恋!
しおりを挟む薔薇のアーチをくぐり抜けた先に白いテーブルクロスをかけたドリンクコーナーが設置されていて、王宮の侍従やメイド達から春らしい模様のティーカップに注がれる紅茶や細長いグラスに注がれた果実水、ソーダ等の飲み物がウェルカムドリンクとして渡される。
それを手に、春の花があちこち咲き誇る庭に構えられたテーブルの上に用意されたケーキスタンドに乗ったキラキラ光るプチフールや一口大のサンドイッチ、フルーツ等を立食形式で食べて良いことになっている。
「お酒なしのデビュタントといった感じですか? 」
「まあなあ。初めての試みだから色々とやらせてみたんだ」
持ち手の付いたケーキ皿に各々好きなものを載せて小さなティーテーブルへ移動して、気の合った者同士でお茶をしたり歓談したりする姿もちらほら見える。
誘い合って男女のカップルで座る事のできる場所もあり、そこで小さなグループで会話している姿もある。
入口で渡された名刺サイズのカードを交換する姿も見られる。
家名や名前を書き込み相手に渡す為のもので、このイベントが終わったら釣書を送り両家で正式にお見合いの場を設けるという流れらしい。
「うわあ、本格的にお見合い会場ですね」
「そうだな、カードを使わずに返してる奴らもいるぞ。ほら」
既に婚約が整っているのだろう、親しげな男女がテーブルの上に置いてある未使用の補充カードの入った籠に戻している姿もちらほら見られる。
「なかなか合理的ですねえ」
ううむ、と唸ってしまうミリア。
「領地貴族達や貴族の次男次女以降は出会いが少ないから今回のイベントには積極的だ。未婚の騎士達も多いぞ」
「騎士様は人気ですか?」
「そうだな、婿養子狙いの家の子女は騎士狙いが多いな」
隅の方で騎士服の男性が、女性に囲まれている姿も見られる。
「ある程度服装で家格と家柄は分かるからな」
貴族服と呼ばれるタイとスーツの若者は長男で家を継ぐ予定の者だ。
これに対し騎士服を着た若者は次男以降で婿養子狙いである。騎士は一代限りの騎士爵を陛下から賜るので既に爵位持ちも中には混ざっている。
一方女性たちは、襟の詰まった首の見えないドレスを着ている者は家を継ぐ予定の子女であるため、希望する伴侶は婿養子で次男以降の者だ。反対に襟刳りのあいた首の見えるドレスの者は嫁入り希望者となるのである。
「利害の一致で婚約になろうが、恋愛でお相手を見つけようが、後は好きにしろって感じですかね」
「有り体に言えばそうだな。合コンだってそんなもんだろ」
「はあ」
自分の服装とミゲルの服装を見て
「私達はいかにも例外ですって感じですね」
「だろ。だから見てもらうに限るんだよ」
「仕方無く参加してます感がありありって感じがナイスです! 」
「・・・そうきたか。まあいいや何か飲むか」
「はい」
××××××××××××
ケーキを盛った皿と紅茶を置いたテーブルを挟みお見合い状態になり固まるミリアンヌ。
アレ? ドウシテコウナッタ・・・
「一応な、きちんと言っとこうと思って」
ミゲルの声掛けで呪縛が解けた。
「は、はいい」
「俺は、お前が好きだ」
「は? は、はいいぃ」
あっという間に挙動不審者に格上げされたミリアンヌ。
「ケーキをカップに入れるなよ」
「ハッ!」
手元を見ると手に持ったツヤツヤの緑色のナッツが飾ったプチフールを緊張のあまり紅茶のカップに入れようとしていた・・・
「こ、コレはですね。緊張してですね、ついお砂糖を山程入れるというテンプレの動作を再現してました。多分、勝手に手が自動操縦で」
「砂糖は飲めるがケーキは飲めんぞ」
呆れ顔で頬肘を付いて、こっちを見る黒髪のイケメン。
「そ、そうですね。いや、お茶漬けみたいにイケるかも! 」
「やめとけ」
「あー、はい」
『あわわわ、どう対処すればいいんでしょうか。マーサ! 何故ココにはマーサがいないのでしょうか』
「何か変な事考えてるだろ」
「あ、コイの生き血が肺炎に効くってマーサが・・・」
「コイの生き血? 」
「いえ、マーサがコイで」
「泳ぐ鯉か? 」
ニヤニヤ笑いだしたミゲル。
「いえ、泳ぐコイじゃなくて」
「うん」
「恋です」
「うん? 」
深呼吸してから
「マーサがミゲル様に恋をしてるって」
「ほう。侍女殿が俺を好きなのかなるほど」
うううう。違うんです、と言いたいマリアンヌ
「胸がギュッてなって心不全みたいになってしまうのが恋なんですってば! 」
「つまり、ミリーの侍女殿が俺を見て胸が痛くなる恋をしているのか」
ニヤニヤが加速するミゲル。
確信犯だろオメー!
「違います、私がミゲル様を見て心不全になるのは、恋だってマーサが言うんですってば! 」
「つまり、俺を見てるとお前がドキドキするんだな」
「そうです。何回も言ってるでしょ」
「プッ」
「何笑ってんですか。要するに私はミゲル様が好きらしいんですってば。あ! 」
「ぶはっ! 」
デカい菫色の目に羞恥のあまり涙をためて耳まで赤くなるミリアンヌ。
「しまった! ぜんぶ言っちゃった」
「それが返事って事でいいんだよな」
ニヤリと口の端を持ち上げると、ミリアの手の平にキスを落とした。
「いや、あの、その・・・」
当然ゆでタコの様に真っ赤になったミリアンヌ侯爵令嬢であった。
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いやーんキザすぎるw
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