【完結】転生した元社畜男子は聖女になって人生逃げ切る事を諦めません!

hazuki.mikado

文字の大きさ
100 / 189
三章.転生聖女と春の庭

鯉じゃなくて恋!

しおりを挟む

 薔薇のアーチをくぐり抜けた先に白いテーブルクロスをかけたドリンクコーナーが設置されていて、王宮の侍従やメイド達から春らしい模様のティーカップに注がれる紅茶や細長いグラスに注がれた果実水、ソーダ等の飲み物がウェルカムドリンクとして渡される。

 それを手に、春の花があちこち咲き誇る庭に構えられたテーブルの上に用意されたケーキスタンドに乗ったキラキラ光るプチフールや一口大のサンドイッチ、フルーツ等を立食形式で食べて良いことになっている。


「お酒なしのデビュタントといった感じですか? 」

「まあなあ。初めての試みだから色々とやらせてみたんだ」


 持ち手の付いたケーキ皿に各々好きなものを載せて小さなティーテーブルへ移動して、気の合った者同士でお茶をしたり歓談したりする姿もちらほら見える。

 誘い合って男女のカップルで座る事のできる場所もあり、そこで小さなグループで会話している姿もある。

 入口で渡された名刺サイズのカードを交換する姿も見られる。
 家名や名前を書き込み相手に渡す為のもので、このイベントが終わったら釣書を送り両家で正式にお見合いの場を設けるという流れらしい。


「うわあ、本格的にお見合い会場ですね」

「そうだな、カードを使わずに返してる奴らもいるぞ。ほら」


 既に婚約が整っているのだろう、親しげな男女がテーブルの上に置いてある未使用の補充カードの入った籠に戻している姿もちらほら見られる。


「なかなか合理的ですねえ」


 ううむ、と唸ってしまうミリア。


「領地貴族達や貴族の次男次女以降は出会いが少ないから今回のイベントには積極的だ。未婚の騎士達も多いぞ」

「騎士様は人気ですか?」

「そうだな、婿養子狙いの家の子女は騎士狙いが多いな」


 隅の方で騎士服の男性が、女性に囲まれている姿も見られる。


「ある程度服装で家格と家柄は分かるからな」


 貴族服と呼ばれるタイとスーツの若者は長男で家を継ぐ予定の者だ。
 これに対し騎士服を着た若者は次男以降で婿養子狙いである。騎士は一代限りの騎士爵を陛下から賜るので既に爵位持ちも中には混ざっている。

 一方女性たちは、襟の詰まった首の見えないドレスを着ている者は家を継ぐ予定の子女であるため、希望する伴侶は婿養子で次男以降の者だ。反対に襟刳えりぐりのあいた首の見えるドレスの者は嫁入り希望者となるのである。


「利害の一致で婚約になろうが、恋愛でお相手を見つけようが、後は好きにしろって感じですかね」

「有りていに言えばそうだな。合コンだってそんなもんだろ」

「はあ」


 自分の服装とミゲルの服装を見て


「私達はいかにも例外ですって感じですね」

「だろ。だから見てもらうに限るんだよ」

「仕方無く参加してます感がありありって感じがナイスです! 」

「・・・そうきたか。まあいいや何か飲むか」

「はい」


××××××××××××


 ケーキを盛った皿と紅茶を置いたテーブルを挟みお見合い状態になり固まるミリアンヌ。


 アレ? ドウシテコウナッタ・・・


「一応な、きちんと言っとこうと思って」


 ミゲルの声掛けで呪縛が解けた。


「は、はいい」


「俺は、お前が好きだ」

「は? は、はいいぃ」


 あっという間に挙動不審者に格上げされたミリアンヌ。


「ケーキをカップに入れるなよ」

「ハッ!」


 手元を見ると手に持ったツヤツヤの緑色のナッツが飾ったプチフールを緊張のあまり紅茶のカップに入れようとしていた・・・


「こ、コレはですね。緊張してですね、ついお砂糖を山程入れるというテンプレの動作を再現してました。多分、勝手に手が自動操縦で」

「砂糖は飲めるがケーキは飲めんぞ」


 呆れ顔で頬肘を付いて、こっちを見る黒髪のイケメン。


「そ、そうですね。いや、お茶漬けみたいにイケるかも! 」

「やめとけ」

「あー、はい」


『あわわわ、どう対処すればいいんでしょうか。マーサ! 何故ココにはマーサがいないのでしょうか』


「何か変な事考えてるだろ」

「あ、コイの生き血が肺炎に効くってマーサが・・・」

「コイの生き血? 」

「いえ、マーサがコイで」

「泳ぐ鯉か? 」


 ニヤニヤ笑いだしたミゲル。


「いえ、泳ぐコイじゃなくて」

「うん」

「恋です」

「うん? 」


 深呼吸してから


「マーサがミゲル様に恋をしてるって」

「ほう。侍女殿が俺を好きなのかなるほど」


 うううう。違うんです、と言いたいマリアンヌ


「胸がギュッてなって心不全みたいになってしまうのが恋なんですってば! 」

「つまり、ミリーの侍女殿が俺を見て胸が痛くなる恋をしているのか」


 ニヤニヤが加速するミゲル。

 確信犯だろオメー!


「違います、私がミゲル様を見て心不全になるのは、恋だってマーサが言うんですってば! 」

「つまり、俺を見てるとお前がドキドキするんだな」

「そうです。何回も言ってるでしょ」

「プッ」

「何笑ってんですか。要するに私はミゲル様が好きらしいんですってば。あ! 」

「ぶはっ! 」


 デカい菫色の目に羞恥のあまり涙をためて耳まで赤くなるミリアンヌ。


「しまった! ぜんぶ言っちゃった」

「それが返事って事でいいんだよな」


 ニヤリと口の端を持ち上げると、ミリアの手の平にキスを落とした。


「いや、あの、その・・・」


 当然ゆでタコの様に真っ赤になったミリアンヌ侯爵令嬢であった。


----------------------


いやーんキザすぎるw




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...