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37 公爵令嬢と祖父母様②
しおりを挟む伯爵子息は慌てて御者台と馬車内を繋ぐ音声管で
「馬車を止めろッ」
と喚くが、その間にもジリジリと王子の体が子息に押し付けられ増々密着していく。
「うげぇッ!」
「うわっ◯間に違和感が!?」
「殿下ッ ナニやってんの!」
これ以上男同士の粘膜接触などしてたまるかと、お互いの肩に手を置いて突っ張り顔を背けながら、
「わからんッ!」
と叫ぶが、まるで磁石のN局とS局が引き合うように身体が離れないのが恐ろしい・・・
馬車自体は先程の側近候補の指示で止まったのだが、中の騒ぎが聞こえたようで心配した御者がドアをノックする。
「坊ちゃま、大丈夫ですか?」
ここで『坊ちゃま』に反応して笑ってはいけないと、必死で真顔になるフロイラインともう一人の子息。
そして顔を赤くする伯爵子息と彼に密着している王子は・・・ 表情は見えないが多分顔が死んでいる。
×××
少しばかり時間は遡る。
「マイリトル・エンジェルゥーーー!」
マーサの入れてくれた香り高い紅茶を口元に運ぼうとしていたリアーヌの私室のドアが勢いよく
『バターーーーーーーンッ!』
と、吹き飛んだ。
「お祖父様・・・」
「ドア・・・」
ドアを吹き飛ばした犯人を見てがっくりと肩を落とすマーサと固まるリアーヌ。
「お祖父様? 何故ここに? グエッ」
リアーヌが止める暇もなく彼女の側に走り寄りギュウウウウウウッと彼女を抱き締め、高速でスリスリスリスリと頬ずりするガタイのやたら立派な初老の紳士。
前ビルエナ侯爵、ロイド・ビルエナである。
「可愛いお前が阿呆王子に蔑ろにされていると聞いて、助けに来たのだッ!」
ぎゅうぎゅうと彼女を抱きしめる彼は滝のように涙を流しながら、鼻をぐすぐす鳴らす。
『ガツンッ!』
前侯爵の後ろ頭で鈍い音がした。
「いい加減にしなさいませッ。可愛いリアーヌが酸欠で死んでしまいますわッ!」
「いてッ キャサリン?」
「死ぬって言ってるでしょうッ! この石頭ッ!」
重そうな鉄扇を思い切り振りかぶって彼の頭を殴ったのは、妻であるキャサリン・ビルエナである。
ハッと気が付いて腕の中の愛孫を見ると既にリアーヌは酸欠で気絶していた・・・
「うおおおおッ! リアーヌゥーーー?!」
『スパーーーーーーーンッ!』
鉄扇の容赦ない打撃音が部屋に響いた。
×××
マーサによって額に冷たいオシボリを当てられながら、ソファーに座って祖父母と久しぶりに対面したリアーヌは昨日連絡したばかりなのに二人が何故こんなに早くやって来れたのかを呆れ顔で聞いていた。
「でな、この間捕まえた鳥竜に鞍をつけて飛んできたんだ。飛竜はデカすぎてスピードが遅い上に庭に降りづらいからなッ!」
自信満々にドヤ顔で語る祖父と、涼しい顔で紅茶を優雅に飲む祖母。
「まさかお祖母様も?」
「当たり前です。それ用に前々から2人乗り用の鞍を作ってましたからね」
シレっと答える祖母。
意外に豪胆な淑女である。
「で? 小僧との婚約破棄はそろそろ出来たのか?」
この御仁の頭には『不敬』という言葉は詰まっていないらしい。
「リアーヌ? 殿下に『距離を置きたい』と言われたというのは本当ですか?」
一応祖母の頭には詰まっているらしい。
「ええ。2年ほどと言われましたわ。私としては一生でも構わないんですけど」
「8年間、いえ、9年ですね。その間の交流でなんの進展もなかったのですか?」
「ええ。入学後1年程経った頃に多少言葉遣いがお上品になった程度ですわ、お祖母様」
ニッコリと笑うリアーヌに、眉を一瞬寄せる祖母といきり立つ祖父。
「説教だな。いやその前にアホとの婚約などヤツ有責で破棄してしまえッ! おのれ王家めッ あれほどリアーヌを王子妃にしたいと頼み込んでおいてッ! 今から行って城を攻め落としてくれるわッ!」
前侯爵が立ちあがると彼の背中でグレートソードがガチャリと鳴り、無言で夫人が大きな鉄扇を手に持った。
・・・身分制度どこいった? と紅茶のお代わりを注ぎながら、マーサが首を傾げたのは間違いない。
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