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44 悪魔 side-k
しおりを挟む「アリア」
彼女に顔を近づけてよく見ると長い金色のまつ毛の先に、涙の雫が宝石の様に光っていた。
「怖かった」
彼女がそう一言告げて、小刻みに震えていた身体が一層大きくぶるりと震えたのがわかった。
ギュッと両腕で彼女を抱え込むように強く抱きしめた―――
――甲板で水夫達が貴族の娘の話をしていた時、アリアに呼ばれた。
彼女が本気で自分を必要とした時は直ぐに側に跳んで行けるように、命を繋いだ瞬間から呪いが勝手に掛かってる。
だって俺の命の一部なんだから当たり前だ。
幼い頃は頻繁に呼ばれてシルフィールド邸に跳ばされてた。
弱っちいクセに強情っぱりな子供だった彼女は度々泣きながら俺を呼んだから。木の上に引っ掛ったリボン、破れた本、失敗した刺繍。色んな事で呼ばれたけど、いつも俺の顔を見ると笑顔になる彼女が可愛らしかった。
だが大人になるにつれて、その頻度は少なくなっていった。
きっともうすぐ呼ばれなくなるんだと思うと胸が痛かったが、いつかは人に戻してやらなきゃと思ってた。
寂しくてもほんの一瞬だ。
瞳を元に戻せば、彼女の命は俺の瞳の色だった長さと同じかその倍くらいは人として過ごせる年月が残るはずだから。
後は運次第だ―― 俺は彼女をちゃんと手放してやれる。
そう思ってたのに――
ベッドの上でアリアにのしかかる大男の背中が目に入った瞬間に、ドス黒い感情が一瞬で生まれて、身体から溢れかえり頭が急激に冷えると、過去の自分の姿を勝手に身体が取り戻した事が解った。
腰から下は真っ黒な硬い山羊のような毛に覆われ、足先は蹄になり、額から生える2本の黒い曲がりくねった、もうこの世ではお目にかかれなくなった野牛の太い角。
指先に長く黒い爪が尖って見えた。
心を支配するのは『己の唯一』に手を出した獣への報復――
『ああ。とっくに俺は彼女にイカれてた』
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