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70 朝の珈琲

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 「そんなにか?」

 「ええ。以前と比べるとかなり増えました」


 彼がそう言い終わると同時にドアがノックされる。


 「おはようございます。珈琲をお持ちしました」


 事務所の女性職員が、銀盆の上に珈琲カップを2つ乗せて入って来た。


 「ああ、ありがとう。ご苦労さま」


 そう言うと彼女はペコリとお辞儀をして退出していく。


 ドアが閉まると。


 『キャ~、2人で何か深刻な話ししてたみたい~・・・・』『・・・』『・・・』


 どんどん声が遠ざかっていく・・・ 

 何だアレは? そういやこんな朝早くから来客もないのに珈琲なんか出されてたかな?


 「何だありゃ?」


 秘書の顔を見ると笑顔が固まっていた。


 「例のゴシップ新聞の影響でしょう」

 ・・・・マジか。


 「会長、奥様とまでは欲張りませんので恋人を作リましょう」


 至極真面目に事務的な口調で、まるで今日の予定を読み上げるようにサラッと言いやがったな?! おい!?


 「ちょっと待て。何でそうなる?」

 「私は婚約者がいますので。会長との恋人関係を疑われるのは非常に不本意です」

 「いや、俺だって不本意だよ・・・」

 「それか3階に引っ越しです」


 俺が恋人を作るのと3階に引っ越すのが同等なのか?!

 どっちも億劫だが、口にしたら怒られそうだな・・・


 取り敢えず珈琲カップを片手に天井に視線を向けた。

 掃除は行き届いているみたいだ。



×××



 「兄さん、急にどうしたのさ?」


 社長室の隣り、本来会長室になる予定だった部屋を確認するために鍵を開けていると弟がドアから顔を覗かせた。


 「あ~、下のフロアからこっちに部屋を移そうかと思って」

 「へぇ。いいんじゃない? 事務所で仕事じゃ落ち着かないでしょ?」

 「いや、そうでもないんだが・・・」


 俺は弟に今朝の出来事を説明して、恋人を作るよりこっちに移動するほうがハードルが低そうだと考えた事を言うと弟は腹を抱えて散々笑い転げた後で、


 「チャーリーもいいトコをついてくるねえ。しかも婚約者に兄さんとの仲を疑われるから、恋人作れって・・・ いいね、その案」


 何を言ってるんだよ?!

 しかも涙を拭いながら言うことかよ?


 
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