輪廻の誓いは、愛になる

帰り花

文字の大きさ
13 / 69
第一部 運命

焦らせないで

しおりを挟む
 夜。
 いつものベッド。
 月那るなは、雨のことを何気なく話していた。
「急に降ってきてさ」
「うん」
「友達が傘入れてくれて」
 陽臣はるおみは静かに聞いている。
 怒らない。
 遮らない。
 ただ、微笑む。
「優しいね」
 それだけ。
 月那は安心する。
 話はそこで終わるはずだった。
 けれど。
 少しの沈黙のあと。
 陽臣が、ぽつりとこぼす。
「……俺、ちょっと焦った」
 月那が目を瞬く。
「え?」
 声は低い。
 怒りも、責める色もない。
 ただ、正直な響き。
「雨、強かったから。るな傘持ってなかっただろ」
 月那は何も言えない。
 そのときの雨を思い出す。
 確かに、強かった。
「何かあったら嫌だなって思って」
 それだけ。
 たったそれだけの言葉。
 けれど胸の奥が、きゅっと縮む。
 はるくんを、不安にさせた。
 そんなつもりじゃなかったのに。
 陽臣は、すぐに微笑む。
「でも、無事だったからよかった」
 終わり。
 それ以上は言わない。
 責めない。
 縛らない。
 ただ、“心配”を置くだけ。
 月那は小さく頷く。
「ごめんね」
 自然に出た言葉だった。
 陽臣は首を振る。
「謝らなくていいよ」
 本当にそう思っている。
 謝らせたいわけじゃない。
 ただ。
 焦らせないでほしいだけだ。

 翌朝。
 空は晴れている。
 昨日の雨が嘘みたいに。
 登校前。
 陽臣は月那のカバンに手を伸ばす。
「天気、変わりやすいらしいよ」
 折り畳み傘を入れる。
 自然な動作。
 命令ではない。
 提案でもない。
 ただ、当たり前のように。
「ありがと」
 月那は笑う。
 昨日の焦りを思い出す。
 はるくん、心配してたんだ。
 そう思うと、少し嬉しい。

 放課後。
 月那が校門を出ると、もう車が止まっている。
 いつもより、少し早い。
「今日は早いね」
「混む前に来ました」
 運転手は淡々と言う。
 偶然のようで。
 偶然ではない。
 月那は気づかない。
 ただ、ありがたいと思う。
 待たなくていい。
 濡れなくていい。
 安心だ。

 夜。
 月那はすぐに眠った。
 穏やかな顔。
 袖を掴む手。
 いつも通り。
 隣で、陽臣は目を開けたまま考える。
 怒りはない。
 嫉妬も、ない。
 ただ、ひとつ理解した。
 余白は、危険だ。
 十数分。
 数百メートル。
 それだけで生まれる、あの軽さ。
 あの、少し自由な顔。
 思い出す。
 雨の中、誰もいない校門。
 知らない傘。
 そして。
 るなの、俺のいない場所で見せた表情。
 胸の奥が、わずかに冷える。
 壊したいとは思わない。
 奪いたいとも思わない。
 ただ。
 整える。
 それだけでいい。
 焦らせないで。
 俺を。
 陽臣はそっと目を閉じる。
 世界はまだ静かだ。
 何も壊れていない。
 けれど。
 余白は、ひとつ減った。
 そしてそれに気づいているのは、
 彼だけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

αに軟禁されました

雪兎
BL
支配的なαに閉じ込められたΩ。だがそれは、愛のはじまりだった――。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜
BL
優等生・聖利(ひじり)と校則破りの常習犯・來(らい)は、ともに優秀なアルファ。 ライバルとして競い合ってきたふたりは、高等部寮でルームメイトに。 來を意識してしまう聖利は、あるとき自分の身体に妙な変化を感じる。 すると、來が獣のように押し倒してきて……。 「その顔、煽ってんだろ? 俺を」 アルファからオメガに転化してしまった聖利と、過保護に執着する來の焦れ恋物語。 ※性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※2021年に他サイトで連載した作品です。ラストに番外編を加筆予定です。 ☆登場人物☆ 楠見野聖利(くすみのひじり) 高校一年、175センチ、黒髪の美少年アルファ。 中等部から学年トップの秀才。 來に好意があるが、叶わぬ気持ちだと諦めている。 ある日、バース性が転化しアルファからオメガになってしまう。 海瀬來(かいせらい) 高校一年、185センチ、端正な顔立ちのアルファ。 聖利のライバルで、身体能力は聖利より上。 海瀬グループの御曹司。さらに成績優秀なため、多少素行が悪くても教師も生徒も手出しできない。 聖利のオメガ転化を前にして自身を抑えきれず……。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

処理中です...