鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

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ユキの腕から抜け出した先には、ムスッと唇を尖らせ不満顔の少年。彼は春翔はるとの弟、西宮和喜にしみやかずき。十六歳の高校二年生で、彼もSTAR
Sのタレント、アイドルユニット“バッカス”の一人だ。吊り気味の目はいつもどこか不機嫌そうで、たまに因縁をつけられる事もあるようだが、本人はそれが通常運転なので特に相手にせず軽くあしらってしまうようだ。更に、目付きは悪くともアイドルになれる容姿である事に間違いなく、近寄りがたい雰囲気も年齢に合わせれば、未成熟な色香として漂ってくる。少し長めの黒髪は癖があり、ピンク色のピンで脇を留めている。

そんな危うい魅力に溢れた弟は、朝からご機嫌斜めである。普段から若干怒りっぽい性格ではあるが、その怒りが一瞬にして沸点に到達する瞬間がある。

それは全て、兄の春翔が関わった時だ。兄がからかわれていたり、危ない目や不愉快な思いをさせられている時は勿論、肩を組む友人や春翔に思いを寄せる女性が現れた時まで、和喜は突如として現れ、春翔のボディーガード、セキュリティとなる。完全なブラコンだ、お陰で春翔は未だ女性とお付き合いをした事がない。

「朝っぱらから、何兄貴に色目使ってるんだよ!」

この兄弟、背丈は少しだけ弟の方が高い。和喜は春翔をユキから守るように抱きしめギロリと睨み付けるが、毎度の事なのでユキは子犬に吠えられた程度にしか思っていないだろう、逆に楽しそうだ。

「やだなー色目使ってどうするんだよ。あ、でも、そんな風に見えても仕方ないかなー。ほら、俺って格好いいし?俺もデビューしちゃおっかな~。そしたら、春ちゃんが俺のマネージャーやってくれる?」
「え?」
「は!?」
「まだデビューすら遠い若造のキミ達に、マネージャーは要らないでしょ?」
「何言ってんだよ!そもそも、何でド素人のお前が俺らより先にデビュー出来る事になってんだよ!」
「いや、ユキさんなら上手くやれば…」
「兄貴!?」
「和だって知ってるでしょ?ユキさんの人気っぷり。テレビや雑誌にも取り上げられてるから、神社も女性の参拝客が後をたたないって。どうして社長はスカウトしないんだろう…」
「そんなの才能が無いからに決まってるだろ!?」
「努力が才能を勝る事もあるんじゃない?」
「そんなの…!」
「ん?」
「…くそ!」
「はいはい、冗談はその辺にして、そろそろ飯にするぞ!」

賑やかになったキッチンに、リュウジは苦笑を漏らしながら声を掛ける。「はーい!」と元気よく返事をしたユキは機嫌よく、口でも言い負かされた状況の和喜は更にふて腐れている。努力を否定する事は、現状努力を積み重ねてる和喜には出来なかったのだろう。

「おはようございます」

そんな中、凛と通る涼やかな声が聞こえてくる。振り返れば、きちんと身なりを整えた男子高生が、穏やかな笑みをたたえキッチンに顔を出した。その表情を見て、春翔はほっとした。

彼は、二葉真尋ふたばまひろ。和喜と同級生であり、共にバッカスとして活躍するアイドルの一人だ。和喜とは対照的で、真尋は品行方正で真面目な印象だ。穏やかな目元に、優しい顔立ち。さらりと揺れる長い前髪を左右に分けたブロンドに近い髪は、制服同様きっちりと整えられ、爽やかな印象を与える。派手さはないが、彼は華があった。意識しなくても自然と目で追いかけたくなるような。しかし、その事に本人は気づいていないようだ。すれ違った女性が思わず真尋を見つめていても、彼は不思議そうにして、それから少し困った様子で微笑むものだから、本人は知らず内にすれ違う女性達を虜にしていたりする。アイドルとしてその魅力はありがたいが、春翔にはその微笑みが時折無理をしているように感じるので、今のように自然体な表情が見えると、ほっとした。

「おはよう、真尋君」
「随分賑やかですけど、また和喜がごねてるんですか?」
「ごねてねぇし!俺は兄貴が困ってたから助けに入ったんだ!」
「ふふ、春さんも毎日大変ですね。弟にあんなに溺愛されてたら」
「真尋、俺の話聞いてたか?」
「聞いてるよ、春さんが大好きって話でしょ?兄弟愛は素晴らしいけど、先輩に迷惑かけないようにね」

にこりと微笑む真尋に邪気はなく、和喜は一層渋い顔になったが、「分かってるよ」とふて腐れながらも、真尋には素直に従っている。一見正反対に見える二人だが、意外と馬が合うのか、初対面から仲良くなるまでそう時間はかからなかった。ダンスや歌のレッスン、パフォーマンスの最中でも、ミスや不得意な部分は補い合い、得意な部分や見せ場では相手をたてたりと、コンビネーションもバッチリである。相反する個性が重なり、一つの特別な輝きを生む。まだまだパフォーマンスに荒削りな部分はあれど、そこはこれからどんどん磨いていける。そしてこの二人、バッカスというアイドルユニットをスターへ導くのが、春翔の役目だ。


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