鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

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芸能事務所STARSは、伝説として語り継がれているアイドル、久世くぜレイジが、当時のマネージャーと共に設立した会社だ。レイジは人気絶頂の最中、突如芸能界から引退し姿を消した。だからなのか、今もなお彼のファンは多く、復活を望む声も多い。そんな彼が、リュウジというスターを引き連れて再び芸能界に戻ってきたのだ、話題にならない方がおかしい。元トップアイドルがエンターテイメントの裏側に回り、今度はどんな夢を見せてくれるのか、期待と皮肉が混ざりながらも常にSTARSは注目の的だった。リュウジが若手俳優として人気を集め、実力も申し分ないとなれば、次なるスターは誰だと、その目は自然とデビュー前のバッカスの二人に向けられていた。レイジと同じアイドルでデビューを目指すというから、尚更だ。

「そうだ、今日提出の課題はちゃんとやった?」
「え?そんなのあったっけ」
「昨日レッスンの後にやるって言ったじゃない」
「…ヤベー完全に忘れてた」
「先に言っておくけど、見せないからね」
「は!?いいじゃん見せてくれたって…!」
「ダメだよ、毎回人任せなんだから」
真尋まひろのケチ!俺ら友達だろ!」
「勿論。僕は友達の為に心を鬼にして言ってるんだ」

にこりと微笑む真尋に、和喜かずきは負けじと泣きついている。賑やかなのはいつもの事、リュウジとユキも茶々を入れつつ笑っている。その平和な朝の様子を見つめながら、春翔はるとはふと思う。
春翔は、和喜と真尋なら、アイドルとしての素質は十分あると思っている。二人共、夢に向かって頑張っている。注目度が高い事、レイジが立ち上げた事務所からアイドルとしてデビューする事、その意味の大きさを、二人はきっと分かってる。期待に応えられなければ、レイジもSTARSの看板も汚す事になる、膨らませた期待度は冷たい言葉となって和喜と真尋に投げかけられるだろう。そうさせない為にも、マネージャーである自分が二人を守り、その夢へ導く為にもしっかりしなければならない。
だが、高校生らしい二人のやり取りを見ていると、ほっとさせられると同時に、こういう姿が一番いいなと、ふと思った。勿論歌って踊る姿はかっこいいけれど、屈託なく笑う今の姿こそ、一番守らなくてはいけない姿だ。それこそが、春翔のすべき仕事の一つかもしれない。

僕がしっかりしないと。

春翔は改めて気合いを入れ直すと、先ずは朝食の準備に取りかかる為、慌ててリュウジの手伝いに加わった。


STARSの寮の朝食は、誰がキッチンに立つかでご飯かパンか決まる。
高校生組が作る時は確実にパンだ。これは、料理が不得意なりに頑張った結果、毎度トーストしただけのパンで終わってしまうのだが、リュウジがキッチンに立つ時は、決まって和食だ。白米にお味噌汁、焼き魚に納豆に玉子焼き、それから青物。理想的な朝食は、その味も抜群に美味しい。日々忙しくしているのに、栄養も考えながら食事を用意してくれる、当番の日でもないのに。料理が好きという理由があるにしても、春翔にとっては感動だった。
因みに、春翔が料理を作ると、不味くはないが美味しくもないという、残念な結果で終える事が多い。毎回、何かが足りないのだ。

騒ぎながらもダイニングに食事が並んでいけば、皆定位置へ。「いただきます」と手を合わせれば、朝食が始まる。気づけば誰かがつけたテレビには、贔屓の朝の情報番組が流れ、誰ともなく再び会話の花を咲かせていく。

「この前のストリートライブ評判良かったみたいだな、共演した子が見たらしくてさ、良かったって言ってたよ」

リュウジが思い出したように話せば、バッカスの二人は嬉しそうに顔を見合せ、「マジで?」「嬉しいね」と笑みを浮かべた。

「たまたま帰りに見かけたらしくてさ、盛り上がってたから何だろうって思ったら、歌声が良くてつい足を止めたって言ってた。目が合ったって喜んでたよ」
「へぇ、和喜達のファンになっちゃったんじゃない?」
「かもな、次はいつやるんですかって聞かれたよ」
「女の人?」
「残念ながら男だよ。多分、お前らと同年代じゃないかな、俳優なんだ」

「なんだ」と残念そうな和喜に、「貴重な男性ファンじゃない」と、真尋は有り難そうだ。

「それに、若手俳優だとしても業界の人が好きって言ってくれるのは嬉しいな。その俳優さんのファンも僕らに興味持ってくれるかもしれないし、好きな人が好きなものって気になるじゃない」
「まぁ…でも、それってなんか格好つかねぇな」
「そう?いくら良いパフォーマンスしたって知名度がなきゃ何も広がらないよ。口コミで広がるのは良い事でしょ?その為にも、いつどこで誰が見てもいいねって言って貰えるように頑張らないと」

唇を尖らせた和喜に、真尋はにこりと微笑む。

「相変わらずしっかりしてるなー、ちゃっかりか?リュウなんかすぐに追い抜かれちゃうんじゃない?」

からかい口調のユキは、楽しそうに玉子焼きを頬張る。リュウジの玉子焼きは甘さが程よく絶妙だ。

「光栄ですけど、高い壁ですね」
「クラスの女子は、毎日リュウの話聞きにくるけどな」

苦笑いの真尋と不満顔の和喜。春翔は和喜の言葉に、思わず腰を浮かせた。

「和、リュウジ“さん”でしょ?それにおかしな事を話したりしてないよね」
「何も話してないよ、つーかリュウの事なんか何も知らないし」
「さん付けて!」
「いーよ、春。好きに呼んでくれて良いから」
「でも…!」
「そーそー、リュウなんてそんな大事に扱わなくて大丈夫だって。それに、つついたって何も出てこない寂しい男なんだから、心配は不要だよ」
「おい」
「何だよ、事実だろ?」

楽しそうなユキに、リュウジは僅か顔をひきつらせる。リュウジは言い返しても無駄だと分かってるのだろう、小さく溜め息を吐くと、話題を変えるべく口を開いた。



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