4 / 77
4
しおりを挟む芸能事務所STARSは、伝説として語り継がれているアイドル、久世レイジが、当時のマネージャーと共に設立した会社だ。レイジは人気絶頂の最中、突如芸能界から引退し姿を消した。だからなのか、今もなお彼のファンは多く、復活を望む声も多い。そんな彼が、リュウジというスターを引き連れて再び芸能界に戻ってきたのだ、話題にならない方がおかしい。元トップアイドルがエンターテイメントの裏側に回り、今度はどんな夢を見せてくれるのか、期待と皮肉が混ざりながらも常にSTARSは注目の的だった。リュウジが若手俳優として人気を集め、実力も申し分ないとなれば、次なるスターは誰だと、その目は自然とデビュー前のバッカスの二人に向けられていた。レイジと同じアイドルでデビューを目指すというから、尚更だ。
「そうだ、今日提出の課題はちゃんとやった?」
「え?そんなのあったっけ」
「昨日レッスンの後にやるって言ったじゃない」
「…ヤベー完全に忘れてた」
「先に言っておくけど、見せないからね」
「は!?いいじゃん見せてくれたって…!」
「ダメだよ、毎回人任せなんだから」
「真尋のケチ!俺ら友達だろ!」
「勿論。僕は友達の為に心を鬼にして言ってるんだ」
にこりと微笑む真尋に、和喜は負けじと泣きついている。賑やかなのはいつもの事、リュウジとユキも茶々を入れつつ笑っている。その平和な朝の様子を見つめながら、春翔はふと思う。
春翔は、和喜と真尋なら、アイドルとしての素質は十分あると思っている。二人共、夢に向かって頑張っている。注目度が高い事、レイジが立ち上げた事務所からアイドルとしてデビューする事、その意味の大きさを、二人はきっと分かってる。期待に応えられなければ、レイジもSTARSの看板も汚す事になる、膨らませた期待度は冷たい言葉となって和喜と真尋に投げかけられるだろう。そうさせない為にも、マネージャーである自分が二人を守り、その夢へ導く為にもしっかりしなければならない。
だが、高校生らしい二人のやり取りを見ていると、ほっとさせられると同時に、こういう姿が一番いいなと、ふと思った。勿論歌って踊る姿はかっこいいけれど、屈託なく笑う今の姿こそ、一番守らなくてはいけない姿だ。それこそが、春翔のすべき仕事の一つかもしれない。
僕がしっかりしないと。
春翔は改めて気合いを入れ直すと、先ずは朝食の準備に取りかかる為、慌ててリュウジの手伝いに加わった。
STARSの寮の朝食は、誰がキッチンに立つかでご飯かパンか決まる。
高校生組が作る時は確実にパンだ。これは、料理が不得意なりに頑張った結果、毎度トーストしただけのパンで終わってしまうのだが、リュウジがキッチンに立つ時は、決まって和食だ。白米にお味噌汁、焼き魚に納豆に玉子焼き、それから青物。理想的な朝食は、その味も抜群に美味しい。日々忙しくしているのに、栄養も考えながら食事を用意してくれる、当番の日でもないのに。料理が好きという理由があるにしても、春翔にとっては感動だった。
因みに、春翔が料理を作ると、不味くはないが美味しくもないという、残念な結果で終える事が多い。毎回、何かが足りないのだ。
騒ぎながらもダイニングに食事が並んでいけば、皆定位置へ。「いただきます」と手を合わせれば、朝食が始まる。気づけば誰かがつけたテレビには、贔屓の朝の情報番組が流れ、誰ともなく再び会話の花を咲かせていく。
「この前のストリートライブ評判良かったみたいだな、共演した子が見たらしくてさ、良かったって言ってたよ」
リュウジが思い出したように話せば、バッカスの二人は嬉しそうに顔を見合せ、「マジで?」「嬉しいね」と笑みを浮かべた。
「たまたま帰りに見かけたらしくてさ、盛り上がってたから何だろうって思ったら、歌声が良くてつい足を止めたって言ってた。目が合ったって喜んでたよ」
「へぇ、和喜達のファンになっちゃったんじゃない?」
「かもな、次はいつやるんですかって聞かれたよ」
「女の人?」
「残念ながら男だよ。多分、お前らと同年代じゃないかな、俳優なんだ」
「なんだ」と残念そうな和喜に、「貴重な男性ファンじゃない」と、真尋は有り難そうだ。
「それに、若手俳優だとしても業界の人が好きって言ってくれるのは嬉しいな。その俳優さんのファンも僕らに興味持ってくれるかもしれないし、好きな人が好きなものって気になるじゃない」
「まぁ…でも、それってなんか格好つかねぇな」
「そう?いくら良いパフォーマンスしたって知名度がなきゃ何も広がらないよ。口コミで広がるのは良い事でしょ?その為にも、いつどこで誰が見てもいいねって言って貰えるように頑張らないと」
唇を尖らせた和喜に、真尋はにこりと微笑む。
「相変わらずしっかりしてるなー、ちゃっかりか?リュウなんかすぐに追い抜かれちゃうんじゃない?」
からかい口調のユキは、楽しそうに玉子焼きを頬張る。リュウジの玉子焼きは甘さが程よく絶妙だ。
「光栄ですけど、高い壁ですね」
「クラスの女子は、毎日リュウの話聞きにくるけどな」
苦笑いの真尋と不満顔の和喜。春翔は和喜の言葉に、思わず腰を浮かせた。
「和、リュウジ“さん”でしょ?それにおかしな事を話したりしてないよね」
「何も話してないよ、つーかリュウの事なんか何も知らないし」
「さん付けて!」
「いーよ、春。好きに呼んでくれて良いから」
「でも…!」
「そーそー、リュウなんてそんな大事に扱わなくて大丈夫だって。それに、つついたって何も出てこない寂しい男なんだから、心配は不要だよ」
「おい」
「何だよ、事実だろ?」
楽しそうなユキに、リュウジは僅か顔をひきつらせる。リュウジは言い返しても無駄だと分かってるのだろう、小さく溜め息を吐くと、話題を変えるべく口を開いた。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる