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しおりを挟む「皆、今日の予定はどうなってるんだ?寮で食べるなら夕飯作っておくけど」
「リュウさん出掛けるんですか?それでしたら家事はやっておきますから、リュウさんは自分の時間を優先させて下さい!」
春翔はここぞとばかりに立ち上がり進言した。朝食当番を寝坊ですっぽかした汚名を晴らす好機だ。
「リュウばっかりズリー!」
「リュウさんは普段から休みらしい休みは無いんだし、今日みたいに丸一日のオフくらいゆっくり過ごして貰いたいんだよ!なのに僕は寝坊なんかしてしまう始末で…」
「それはいいんだよ、春だって大して休みないだろ。のんびり過ごすのも性に合わないしさ、家事して動いてんの嫌いじゃないし、今日だって特に用も無いから、撮影の下見に行こうかと思ってさ。だから、時間あるから夕飯作っておこうと思ったんだ」
申し訳なさそうな春翔に、リュウジは「気にすんなよ」と笑いかける。そんな中、「あの」と、真尋が遠慮がちに口を開いた。
「撮影の下見って、あの映画の事ですか?」
真尋の質問に、落ち込んでいた春翔の表情がパッと輝いた。
「それって藤浪ゼン先生の妖冒険譚シリーズですよね!!」
座り直したと思ったら、今度は興奮した様子で立ち上がる春翔に、その眼差しを真正面から受け止めたリュウジは、虚を突かれた様子でたじろいだ。
「そ、そう。そういやお前、好きって言ってたもんな」
「好きどころじゃありませんよ!!妖シリーズは大人から子供まで楽しめる、笑いあり涙ありの痛快冒険浪漫譚です!なかでも僕は、妖桜の下で起きる人と妖との恋愛物語に心打たれました…!あれだけ壮大で迫力ある物語を描きながら、繊細で心豊かな心理描写も描ける!大ベストセラーになるわけですよ!!」
「…そ、そうだな」
「はぁ~なんだか夢みたいです…!」
突然熱く語り始めた春翔に困惑しているリュウジには気づかず、春翔は夢見心地で着席する。その姿に不満を抱くのは、兄の事が大好きな和喜だ。
「夢みたいって、別に兄貴が映画に出るわけじゃねーじゃん」
「そうだけど、こうやって一緒に過ごさせて貰ってるリュウさんが、藤浪先生の作品に出演するんだよ?直接僕が作品に関わる事がなくても、僕としては凄く嬉しくて光栄な事なんだよ!やっぱりリュウさんはさすがです!しかも、主役をやらせるならリュウさんしか居ないって直々のオファーがあったとか!あんな大先生に認められるなんで、やっぱり凄いですよ…!」
その言葉にリュウジは苦笑する。
「そんなんじゃないって、ただ…縁があっただけだ、腐れ縁だな」
「え、」
「ん?」
「腐れ縁って、リュウさん藤浪先生と知り合いだったんですか!?」
再び勢いよく身を乗り出した春翔に、リュウジははっとした様子で目を見開いたが、すぐに気を取り直した様子で頷き、春翔の気持ちを宥めるようにその肩を軽く叩いた。
「あ、あぁ、そうなんだ、言ってなかったか?」
「聞いてないです!まさかリュウさんがあの藤浪先生とお知り合いだったなんて…!」
尊敬と羨望に満ち溢れ、まるで夢心地で着席する春翔。その様子を眺めていたユキは、ふと思い付いたように声をかけた。
「春ちゃんはさ、興味ないの?物語のモデルになった場所とか」
「え?」
「ほら、妖桜の話。あの話の舞台ってさ、鈴鳴川って言うじゃん。うちの神社と所縁のある場所だからさ、あの小説のファンが結構来るんだよね。けど春ちゃんて、神社の方にはあんまり来ないだろ?だからモデルになった場所には興味ないのかなーって」
この寮から鈴鳴神社まで歩いて三十分程だろうか、その先の土手には元成川という川が流れているのだが、その川の一部を、鈴鳴川と地元では呼んでいる。確かに春翔はそちらに足を伸ばす事はなかった、事務所や駅が反対方向というのもあるが、それでも、ファンなら一度は訪ねておきたい聖地ではある。
「そうですね…勿論、舞台となった場所を一目見たいとは思っているんですが、なかなか機会がなくて」
「ふーん」
「…ユキさん?」
何かを探るようにユキにじっと見つめられ、春翔は落ち着かず、どうしたのかと困惑する。すると、すかさず和喜が立ち上がり、「兄貴に何色目使ってるんだよ!」と騒ぎ始め、ユキが悪のりして春翔の肩を抱き寄せれば、春翔は突然のイケメンのスキンシップに硬直し、和喜は更に激昂した。
「お前ら、飯くらい静かに食えないのか!」
リュウジの注意もどこ吹く風、賑やかな朝食は続いていく。そんな中、真尋はのんびりと味噌汁をすすりながら、今日の天気をテレビでチェックしている。
STARS寮の賑やかな一日は、大概こうして幕を開けるのだった。
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