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しおりを挟むその日は、和喜達と共に近所のスーパーで買い物をして帰った。今日の夕飯は、和喜と真尋が腕を振るってくれるようだ。買い物を終えた帰り道、楽しそうにお喋りをする二人の後ろで、春翔はこっそり溜め息を吐いた。
恋を自覚したら、不安だけがますます膨らんでしまった。
ふと、春翔はユキから貰ったお守りに視線を落とした。皆、真剣に自分の事を考えてくれている、それなのに、自分だけいつまでも部外者のような気分でいる。踏み込もうと思えば、拒絶されたら怖いとか、そんな弱腰ばかり。
そもそも、思いが叶う方がおかしいのだ。
ゼンは妖で、自分は人間で。ゼンが大事に接してくれたのは、自分が守る対象だからで、好きの気持ちはきっとゼンの中にはないのだと。
落ち込んでもしょうがない事なのに。
いや、そもそも本当に恋なのだろうか。毎日悪夢に登場するから、嫌でも考えてしまうから、そんな酷い人じゃないと信じようと、強くゼンを思ってしまうから。もしかしたら、寝不足も重なり混乱して、勘違いしただけかもしれない。
うん、そうだ、そうかもしれない。そう思い直して顔を上げた先、春翔は、この思いはやはり勘違いではないかもしれないと、思わずにいられなかった。
寮の前に、佇む人影が見えた。スラリとしたその姿に目を留めて、春翔の胸はドキリと震えた。
「ゼンさん…?」
「え?」
春翔の呟きに、先を歩いていた和喜と真尋は同時に春翔を振り返り、それから、その視線を辿るように再び前を向いた。
そこに居たのは、ゼンだった。初対面の時のような着物姿ではなく、サマーニットにジーンズという出で立ちで、リュウジやユキの人間離れした美しさに見慣れている春翔でも、思わず目を奪われてしまうのは、恋をしているという贔屓目のせいだけではないだろう。
まさかゼンが居るとは思わなかった事もあり、思わず足を止めて魅入ってしまえば、その視線に気づいたゼンがこちらに顔を向けた。視線が合うと、春翔はまたドキドキして、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。騒がしい胸は、甘い予感しか知らせない。
ゼンは、背を預けていた塀から体を起こすと、片手に持っていた文庫本だろうか、それを閉じ、少々戸惑いを滲ませつつこちらに歩み寄ってきた。
「兄貴の知り合い?」
「え?あ、うん、とてもお世話になった人なんだ、二人も来て」
春翔は和喜に声を掛けられはっとしたように頷くと、慌てて二人を促し、ゼンに駆け寄った。
「ご、ご無沙汰しています、ゼンさん!その節は大変お世話になりました!」
勢いよく頭を下げて顔を上げると、ばっちり目が合い、春翔は条件反射のように胸を震わせ、何か言わなければと挙動不審になる。そんな春翔の様子に、どこか気まずそうだったゼンの表情は僅かに和らぎ、少し肩の力が抜けたようだった。
「…元気そうで良かった」
思いの外柔らかな声色に、春翔はどきりとしながらも、ほっとしていた。あの時と変わらない、優しいゼンだ。会う事が怖いと思っていた筈のに、ゼンを前にすればそんな思いも吹き飛んでしまう。
だってゼンからは、突き放すような雰囲気は感じない。その瞳に自分が映るだけで、春翔は嬉しくなる。
「今日はどうされたんですか?どうぞ上がって下さい」
「いや、顔を見に来ただけだから、突然邪魔しては迷惑だろう」
そう言って、ゼンが春翔の背後に視線を向ける。そこには、早速敵意剥き出しの和喜と、その和喜を宥める真尋の姿がある。
「弟の和喜と、和喜とユニットを組んでいる真尋です。二人共、この方は、小説家の藤浪ゼン先生。僕が倒れた時、とてもお世話になった方だよ」
改めて紹介すれば、和喜は渋々といった様子でゼンとの自己紹介に応じ、真尋は恐縮した様子でゼンと握手を交わした。
「是非よろしければ寄って行って下さい、今日、いつもの要領で食材もいっぱい買ってしまったので、もし良かったら夕飯も」
「いやそれは、」
「いいじゃないですか、僕、先生のお話色々聞いてみたいです!」
ゼンが遠慮すると、真尋は二人の会話を遮り、
「和もそうだよね!」と、和喜の背中をズイと押した。
「は!?俺はそんな事一言も、」
「はいはい、なのでどうぞお上がり下さい!」
「なのでって何だよ!おい!どんな偉い先生だって、俺の兄貴に手ぇ出したらただじゃ、」
「はいはい!春さん僕達ご飯作ってるから!」
「こら、真尋、放せって!」
やんややんやと騒ぎながら、パタンと玄関のドアが締まる。残された春翔とゼンはぽかんとしたまま二人を見送ると、再び視線を合わせ、春翔はどきりとしながらも、申し訳なさそうに頭を下げた。
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