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しおりを挟む「おい、真尋?」
リュウジが呼びかけるが、真尋は躊躇っているようで、その場に座ったまま動こうとしない。その様子に春翔は不安を覚えゼンを見上げた。ゼンが小さく頷き春翔の手を離したので、春翔は重い体を持ち上げ、真尋の元へ向かった。そしてその途中、真尋の背中に包帯で巻かれた翼がある事に気づいた。よく見れば真尋はあちこちに傷を負っており、春翔は表情を青ざめさせた。
「真尋君、怪我してるじゃないか!」
「……」
だが、真尋は顔を見せようとしない。
「…こんなになってまで、助けてくれたの?」
春翔はその様子に心配そうに尋ねるが、真尋は首を振る。その手には小さな瓶があり、真尋はただそれを握りしめている。
「でも、真尋君がカゲを捕まえてくれたって聞いたよ?」
「…春さんの中からカゲを追い出したのはゼンさんです。僕は瓶に閉じ込めただけだから」
「…そっか。やっぱり助けてくれたんだね、ありがとう。真尋君のおかげで、」
「お礼なんて言わないでよ!」
俯いていた顔を上げた真尋は、怒った顔で泣いていた。
「真尋君…?」
「僕が何したか知ってる筈だよ!僕は、春さんを復讐に巻き込む為の手助けをした!ゼンさんを手に掛ける手助けをしたんだ!その為に僕は、春さんに近づく為に僕はバッカスをやってた!」
真尋は再び俯き、膝の上で拳を握る。唇を噛みしめ、真尋は背中を震わせ必死に耐えている。自分のしてしまった事への後悔の重さを、その手に握りしめて。
春翔はそんな真尋の様子に瞳を揺らし、震えるその背を撫で優しく抱きしめた。
「でも、今はこうして助けてくれた。真尋君のおかげで、皆無事だったんだ。僕だって、生きていられてる」
「なんで皆、そんな…」
「僕達、家族みたいなものでしょ?だから真尋君だって助けに来てくれたんでしょ?僕はそう思ってるよ。だから、真尋君が抱えてるものに気づいてあげられなかった事が悔しい」
「…そんな事言わないでよ、僕、僕は…」
「うん、だからこれからは、もっと話そう、色んな事。時間はいっぱいあるよ、だから一緒に帰ろう。真尋君がいなきゃ、僕も和喜も寂しいよ」
「そうだな、まだまだ稼いで貰わないと困るしな」
突然真上から聞こえた声に、真尋と春翔が驚いて顔を上げると、そこには立派な翼を広げたレイジがいた。
「社長…」
「酷い有り様だが、命があって何よりだ」
レイジはそう微笑むと、ゼン達の方に顔を向けた。
「ざっとだが確認が取れたんで報告だ、神社の火災による怪我人はなし、火事をゼンの仕業にしようとして小細工を仕込んだ輩も捕まえた」
ぐっと手元の縄を引くと、縄に繋がれた三人の妖が目を回して倒れていた。
「こいつらも妖の世に引き渡す。桜千は無事なんだろ?」
「さっき連絡ついたとこ。向こうも大騒ぎだったみたいだよ」
ユキが答えれば、レイジは困り顔で頭を掻いた。向こうとは、妖の世の事だろう。
「事情はもう知られてんのか?」
「恐らくね。真尋には妖の世に戻るよう連絡行くと思うよ、ゼンも一度帰らないとね」
「え、ゼンさんも?」
春翔が思わず口にすれば、ユキがにやりと笑みを深めたので、春翔は赤くなり真尋の背に隠れた。
「大丈夫だよ、帰ってくるからさ。問題は真尋だね、カゲ側についてたわけだから」
「それなら俺に任せとけ。こいつの保護者は俺だ、真尋は天狗の王子、俺の唯一の同族でもあるしな」
ぽん、と頭を撫でられ、真尋は困惑した様子でレイジを見上げた。
「でも僕は、」
「何より、うちの会社には居てもらわないと困る。我が社は一つの家族だ、そうだよなマネージャー」
レイジのおおらかさは、その存在感も含めて周りを明るく照らすようだ。どんな事があっても、気持ちを前向きにさせてくれる。
「はい!勿論です!」
春翔はレイジの言葉に背中を押され、笑顔で頷いたが、真尋はまだ戸惑うばかりだ。
「大丈夫だ、俺は妖の世でも信用されてる。お前はカゲに利用されていただけだ、実際カゲを捕まえたのは真尋だし、騒動を解決に導いた功労者であると審議会の奴らに認めさせてやるよ」
自信たっぷりに言うレイジに、ユキとリュウジも頷いてる。
「レイジは口だけでその地位に上りつめたようなもんだしね」
「あと顔だな」
「立派な能力だと言ってもらいたいね」
「さぁ、そうと決まればしっかり打ち合わせするぞ」と、ユキとリュウジの軽口には気にも留めず、レイジは真尋の惑いもお構い無しに話を進めていく。少々強引だが、その強引さが今は有難いように思う。
「さて、そろそろかな」
ユキが呟くと、それを合図にリュウジは捕らわれた妖の元へ向かい、ユキは春翔の手を引いてゼンの元へ向かった。いつの間にかゼンは皆から離れ、燃えた桜の木の傍らで、ただ黙って朽ちた桜を見下ろしていた。
「春ちゃんはゼンの傍にいて。あまり木の側には寄っちゃダメだよ」
「どうしてですか?」
「桜が蘇るから、その力にあてられないよう念のため。その後すぐに門が開くから」
ゼンを頼んだよ、と微笑んで、ユキはリュウジの元へ向かった。
春翔はその背を見送り、ゼンに目を向けた。すると、ゼンもこちらへ歩いてくる所だった。春翔が声を掛けようとするが、その間もなく手を取られ、桜の木から距離を取って芝生の上に腰を下ろした。
突然の急接近に、春翔の頭には再び唇の予感が過り、勝手に高鳴る気持ちを誤魔化そうと、また慌てて言葉を探した。
「あの、ゼンさん、体は大丈夫ですか?その傷、」
言いかけて目が合うと、どきりとして、春翔は再び焦ってしまう。
「あ、えっと、僕の事助けて下さってありがとうございました。僕、またゼンさんに迷惑をかけてしまって、」
思わず早口になる。焦れば焦る程、何から話せばいいのか分からない、謝罪も感謝も疑問も沢山ある、けど何より春翔の心を掻き乱すのは、はっきり自覚してしまったゼンへの思いだ。
しかし、そんな春翔の思いを知ってか知らずか、ゼンは春翔の言葉を遮って、春翔の腕を掴み向かい合わせになると、抱きしめるようにその肩に頭を凭れさせた。
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