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しおりを挟む「ゼ、ゼンさん!?も、もしかして、具合悪いんですか…?」
ドキリと再び胸が震えたが、それも束の間、最悪の予感に不安が押し寄せてくる。顔を覗き込もうとしたが、手をぎゅっと握られ、春翔は固まってしまった。
どうしよう、ドキドキして心臓が壊れてしまいそうだけど、触れ合う温もりが愛しくて、手を離す事なんて出来やしない。
「…もう、ああいうのは、やめてくれ」
ほんの一時がまるで永遠に続くのではと思う程満たされていた中、ゼンがぽつりと呟いた。
「俺の為に犠牲になるとか、もう、そんなお前を見たくはないんだ」
また、守れないかと思った。
ぎゅっと握る手は縋るようで、春翔の胸はツキンと痛んだ。
「…ごめんなさい、僕、ゼンさんを助けたくて、でも、それを言うならゼンさんだって、」
「俺はいいんだ、俺はそれだけの事をしてきた」
「僕はそんな事知りません…!」
思わず声を上げてしまうと、ゼンは驚いたように顔を上げ、目と目が合った。美しい緑の瞳が頼りなく揺れ、春翔は泣きたいのを堪え眉を頻めた。
「ゼンさんは必要なんです!この世界にも、妖の世界にも必要なんです!何も分からない僕だってそれくらい見てれば分かります!ゼンさんが居なくなるなんて、そんなの耐えられる筈ないじゃないですか…!」
言葉を発する度、ぼろぼろと涙が零れていく。
「せっかくまた会えたのに、ゼンさんが居なくなるなんて、僕は嫌です…!」
しゃくり上げながら必死に思いを伝えようとする春翔に、ゼンは暫し呆然としていたが、やがてその手で春翔の涙を拭うと、そっとその胸に春翔を抱き寄せた。
「…そうだな、すまない、俺が悪かった」
抱き寄せられた事に春翔は驚いていたが、ゼンの言葉に、腕から伝わる気持ちに、また胸が苦しくなる。
「そ、そうです、何も話してくれないし」
「ちゃんと話す、だから泣かないでくれ」
それからそっと体を離し、ゼンが春翔の顔を覗き込む。頬に手を添えられ顔を上げれば、ゼンは柔らかく微笑んだ。
「変わらないな。お前には心を乱されてばかりだ」
眉を垂れて言うゼンに、春翔はきょとんとした。
「くるぞ」
どういう事だろうと思って口を開きかけた春翔だが、ゼンの言葉がそれを遮った。
何が、と問う間も無く地面が揺れ、空に花びらが束になって舞い踊り、それらは一目散に朽ちた桜の木に飛びかかる。桜の木を取り囲むと、それは勢いよく空に上り、束になった花びらが空の上で弾け飛ぶ。気がつけば、夜空には無数の桜の花びらが降りかかり、春翔は驚きつつも、その美しさに顔を綻ばせた。朽ちた筈の桜の木は、気づけば見事な桜の花を咲かせており、その手前には桜千の姿があった。
「開門!」と、凛と通る声と同時に、地響きを上げながら川の中から大きな門扉が現れた。扉が開くと、ユキとリュウジは桜千と言葉を交わし、捕らえた妖達を門の中へと連れて行く。ふわりと飛んだ桜千は、春翔とゼンの元へやってきたので、春翔は慌ててゼンと距離を取った。
「お前達、大丈夫か?春翔、体は大事ないか?」
心配そうに尋ねる桜千に、春翔は心配させないように表情を緩めた。
「僕は大丈夫です。桜千さんは大丈夫でしたか?」
「私は何ともないよ、桜の入り口が塞がれて、こちらの世へ来る事が出来なかったんだ」
桜千はそう答えてから、二人の姿を見て、改めてほっとしたようだ。
「すまなかった、我々の考えが甘かった。人の子を守るのも我々の役目なのに、お前にこんな無茶をさせたなんて、スズナリに叱られるな」
桜千はそっと眉を下げて笑み、春翔とゼンの手に手を重ねた。
「二人共、無事で良かった…」
命があって、良かった。
そう言う桜千の心底安堵した様子に、春翔がゼンを見上げると、ゼンも春翔を見つめており、「そうだな」と桜千の言葉に頷いた。
その緑色の瞳が、春翔を優しく見つめている。春翔は、胸の奥が途端に苦しくなって、きゅっと唇を噛みしめた。
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