52 / 77
52
しおりを挟む川に飛び込んだ時は、選択肢が他にないと思った。カゲを止める為に、命を捨てる覚悟をした。だけど、春翔のしようとしていた事は、皆を悲しませ、傷つける事に繋がっているのだと、あの選択しか出来なかった事を後悔した。
そして、自分は救ってもらったんだという事を改めて実感した。助けてくれる皆がいてくれたお陰で、今、大切なものに触れられる幸せを噛みしめている。
良かった、今、ここに居られて。皆には感謝しかない、心の底からそう思った。
俯く春翔を見て、桜千は頬を緩め二人の手を離した。
「この川で誰かが命を落とせば、スズナリは悲しむ。この二つの世界の境界で、もう争いは起きてはいけない」
桜千は、まるで自分に言い聞かせているように言っていたが、ゼンもその思いを噛みしめるように頷いていた。
過去にどんな争いがあったのだろう、スズナリとはどんな妖だったのだろう。春翔は二人の様子を見て、鈴鳴川に視線を向け、それから胸に手を当てた。
大事に生きないといけない。
それから桜千は、申し訳なさそうに再び春翔を見つめた。
「カゲには罰が下るだろう、牢に入れられ人の世に来る事は無いから安心して欲しい。…こんな目に遭わせて言えた義理じゃないが、どうか妖の全てがカゲのような妖ではないと、信じてほしい」
「…大丈夫ですよ、桜千さん。僕は皆さんの事好きです、だから力になりたかったんです」
顔を上げて微笑む春翔に、桜千はもう一度頭を下げた。
ありがとう、そう言った彼女は、少し泣きそうに頬を緩めていた。
桜千がふわりと門の方へ戻って行くと、レイジと真尋がやって来た。二人の間で話はついたようだ。二人が並ぶと、レイジの方が背は高いが、その背中には同じように大きな翼がある。改めて、二人は人間ではないのだなと、春翔は感じていた。
「リュウが居るから問題ないと思うが、俺は一度こいつを連れて妖の世に行ってくる」
「分かりました…あの、どのくらいで戻ってこれるんですか?」
「さてな、まぁ、連中丸め込んで早々に戻ってくるさ。隼人にも必ず戻ると伝えてくれ」
「分かりました」
「じゃ、春翔はとりあえず、体力が回復するまで仕事は休めよ」
「すみません、ありがとうございます」
「謝んのはこっちの方だ、また戻ったらゆっくり話そう。真尋、行くぞ」
頷き歩き出す真尋に、春翔は慌てて声をかけた。
「和喜と待ってるからね、真尋君!」
真尋は振り返り、唇をぎゅっと結んで深く頭を下げた。そうして、レイジと真尋を連れ、桜千が扉の向こうへ消えると、再び地響きを上げ、門は川の底へ消えていった。
直後、季節外れの桜の花が夜空を舞い、春翔は頬を緩め空を見上げた。
「…キレイだ」
思わず空へ伸ばした手をゼンに握られ、春翔は驚いてゼンへ視線を向けた。ゼンは何も言わず握った春翔の手を見つめ、それからどこか困った様子で目元を緩め、春翔を見つめた。
今日のゼンは表情が豊かで、また春翔の心臓を跳ねさせる。思わず見惚れ、これも命あるからだと思うが、早くも心臓が止まりそうだ。ゼンの意図が分からず、ただ赤くなって戸惑っていれば、向こうからユキとリュウジの呼ぶ声がして、ゼンは立ち上がった。
「帰ろう」
「は、はい」
優しく手を引かれ、春翔は立ち上がった。
「歩けるか?歩けなければ抱えていくが」
「だ、大丈夫です!」
そうか、と、返すゼンの声は、どこか残念そうだ。
ゼンの視線が前を向き、春翔もほっとして顔を上げた。
鈴鳴川に、桜の花びらが落ちていく。その様子を眺め、春翔は胸元を握りしめた。
もうこの体の中にカゲは居ないと分かっているのだが、なんだかまだ少し怖い。それは、頭を過るカゲの記憶のせいだろうか。
不安になって、ゼンの背中を見上げる。銀色の髪はまだ見慣れないが、春翔を気遣いゆっくり歩いてくれているのが分かり、少し胸が温かくなる。
「大丈夫か?」
ふとゼンが振り返り、心配そうに春翔の顔を見つめた。
「は、はい!」
「そうか」
反射的に返事をすると、ゼンは柔らかに微笑むので、春翔は堪らなくなって俯き、繋がれたままの手を少し強く握った。
そっと握り返される手、ゼンの優しい温もりは、春翔をいつだって安心させてくれる。
大丈夫だ、春翔は少しだけ歩幅を詰め、ゼンの背中を追いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー
むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、
ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。
強く、知的で、頼れる大人の男。
その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。
──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。
「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」
そんな言葉には、もう慣れていた。
けれど本当の心は、
守られたい。愛されたい。
そして、可愛いと思われたい。
その本心に気づいてしまった来夢は、
本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。
これは、
愛されることを知った男と、
そのすべてを抱きしめたアイドルの、
とても幸せな恋の話。
独占欲強めな年下アイドル
(櫻井 来夢)
×
愛に飢えた有能マネージャー
(本郷 ルカ)
ーー
完結しました!
来週以降、後日談・番外編を更新予定です。
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる