53 / 77
53
しおりを挟むそして、ひとまず平穏と呼べる日々が戻ってきた。
鈴鳴神社で起きた火事は、ミオ達の協力もあり拝殿の一部が燃えるに止まりった。火事による怪我人も、近所の建物等への被害もなかったようで一安心だ。
神社に放火した妖含め、鈴鳴川で暴れた妖達は、ひとまず妖狐の国の牢屋に入れられたという。これから審議が順次開かれ、彼らの処分が決まるそうだ。だが人の世では、神社の火事の原因は不審火となっている。放火の疑いがある為注意するようにと、ご近所にはそんなアナウンスが流されていた。
そうなったのも、犯人が妖で、人間に妖を引き渡す訳にはいかないからだ。
勿論、警察も消防もその事実は知らない、もし警察に連行されれば、囚われた妖が何をするか分からない、能力によっては人間ではないとすぐにばれてしまうだろうし、それで暴れられでもしたら、妖の存在が公にされてしまう。人の世でひっそり暮らしてきた妖達も、人の世では生きていけなくなるだろう。なので、近所の人々には不安にさせて申し訳ないが、人の世の妖達を守る為、火事の真相は人々には伏せられる事となった。
その鈴鳴神社だが、暫くは修復工事の為、神社内は立ち入り禁止となった。真斗のカフェも、その間はお休みだ。
それでも火事があった事を心配して、火事のあった翌日には、ご近所さんやユキ目当ての参拝客も多く訪れていた。ご近所さんや参拝客の対応をしているユキ達の姿を見ると、理由は何であれ、愛されている神社なのが伝わってくる。
鈴鳴川で起きた騒動も、結界を巡らせていたお陰で、人間がそれに気づく事はなかったようだ。人の世で暮らす妖達には知られていたが、弱っている所に攻めこもうという妖もない。神社にやって来るのは、人間同様、神社やゼンを心配する妖達ばかり。それは、人の姿だったり、動物の姿だったり様々で、春翔はまるでおとぎ話の世界を覗いているような気分になる。
そして皆、神社やゼンが無事だと聞いてほっとした様子で帰っていく。その様子に、この神社もゼンも、人の世の妖にとって大事な存在なのだと改めて感じ、その度に、春翔の胸には嬉しさが込み上げていた。
そうして、レイジと真尋が妖の世に行ってから、早くも一週間が過ぎていた。
春翔は今、鈴鳴神社の敷地内にある真斗の家、その中庭で、干していた洗濯物を取り込んでいる。
「うん、良く乾いてる」
今日は良く晴れたので、洗濯物もカラッと乾いて気持ちが良い。溜めてしまった分も洗って正解だ。
あの騒動以来、春翔は暫くの間、真斗の家で過ごす事となった。
怪我もあるが、カゲが体から出て行った影響で体調が安定しない為、暫くは医者である真斗の側で様子を見る事となった。妖が関わっているので、普通の医者では対処出来ない症状が出る可能性も考えられたからだ。
洗濯物を取り込みながら、春翔はふと木々の向こうに目を向ける。
トンテンカンと、拝殿の修復工事の音が聞こえ、その合間に、楽しそうな笑い声も漏れ聞こえてくる。
修復工事を行っている業者は妖だ。人の世で人として生きている妖達で、会社も彼らが経営しているらしい。妖が人の世に溶け込んで生きている事は知ってはいたが、レイジ以外にも(レイジの場合は、隼人の功績が大きいが)会社を経営している妖がいるのだと、彼らの人として疑いようもない姿や仕草に、春翔は改めて驚いていた。
彼らが何を話しているのか分からないが、彼らにとっても、この神社には何かしら思い入れがあるようだ。
真斗の家は、神社の敷地内、拝殿の裏手にある。拝殿の裏には森のように木々が生い茂っていて、その木々の手前には結界が張ってあり、拝殿の裏手へ人の意識を向けさせない、人を自然と寄せ付けないようになっている。なので、古くからこの地域に暮らすご近所さんだって、誰も鈴鳴神社に家があると思いもしないだろう。
古い平屋建てのこの家は、スズナリがいた頃はよく妖達が集まっていたという。相談事を持ち込んだり、何か問題が起きれば対策を皆で練ったりと、人の世の妖達の中心の場所だったようだ。
その為この家は、妖からも人からも身を守るに、一番安全な場所でもあった。春翔もカゲに取り憑かれていなければ、ゼンと再会した後、真斗の家に運ばれたのだろうが、ゼンを恨む妖を安全な結界内に入れる訳にいかず、春翔はゼンの家に運ばれたのだという。今、春翔の中には何もいないので、安心して真斗の家に居られる。
それにここには、真斗の他、ユキや、治療を受けているゼンもいる。
春翔はふと、取り込んだゼンの着流しに視線を落とした。
カゲが体の外へ出たあの夜から、少年のゼンの夢も、怖いゼンの夢もぱたりと見なくなった。
人工呼吸の件は省いて夢の事をユキに聞いてみれば、怖いゼンの夢は、恐らく春翔の中のカゲがゼンを悪者に仕立てようとして、意図的に見せていたのだろうという事だった。
少年のゼンの夢は、カゲが復讐を果たす為、春翔とゼンを再会させる必要があったからだろうと。春翔がゼンと出会わなければ、カゲの復讐は果たせない。なので、記憶を失った春翔にゼンを思い出させる為、しまい込ませた記憶の一部を夢として見せていたのかもしれないと。
「………」
そうして夢の中の出来事を思い出し、春翔は思わず頬を熱くさせた。春翔は熱い頬を手で仰ぎ、その熱を誤魔化すように、慌てて干していた白いシーツに手を伸ばした。
夢のチョイスに関しては、カゲの判断なのか、それとも春翔自身の思いが強かった場面だったからなのか、はたまた最後に見たゼンとの記憶だったからなのか。
何にせよ、ゼンの話を聞けば、何か分かるかもしれない。
だけどまだ、ゼンとは話が出来ていなかった。話してくれると言ったから、きっと話してくれるのだろうが、この一週間、ゼンは眠り続け、話せる状況ではなかったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー
むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、
ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。
強く、知的で、頼れる大人の男。
その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。
──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。
「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」
そんな言葉には、もう慣れていた。
けれど本当の心は、
守られたい。愛されたい。
そして、可愛いと思われたい。
その本心に気づいてしまった来夢は、
本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。
これは、
愛されることを知った男と、
そのすべてを抱きしめたアイドルの、
とても幸せな恋の話。
独占欲強めな年下アイドル
(櫻井 来夢)
×
愛に飢えた有能マネージャー
(本郷 ルカ)
ーー
完結しました!
来週以降、後日談・番外編を更新予定です。
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる