57 / 77
57
しおりを挟む「…ユキさん、真尋君は大丈夫でしょうか」
「レイジがついてるから、上手くやってくれてると思うけど…審議の場は避けられないからね」
「そうなんですね…」
真尋はカゲの復讐に加担していたが、そうするしかない状況にあったのなら。妖の世で真尋がどのように過ごしてきたのか春翔には分からないが、春翔や和喜だって真尋と同じ時を過ごし、共に未来を語り合ってきた。きっかけは自分を傷つける事だとしても、春翔にとって真尋は家族のような存在だ。だから真尋も、最後は自分を助けようと動いてくれたのかもしれないと、そう思いたい。
だから真尋が帰って来たら、今度は純粋にバッカスとしての夢を二人が追えるように、今度こそ守ってあげたい。
だけど、もし真尋が帰って来れなかったら、帰りたいと思えなかったら。
「そんな顔すんなって!」
心配と不安に顔を歪めた春翔に、ユキはその額にパチンとデコピンをした。
「真尋は帰って来たい筈だよ。勿論、カゲの復讐に加担した事実は消えないし、真尋自身後ろめたさもあるかもしれないけど、春ちゃんや和喜と一緒に居たいと思わなきゃ、カゲを自ら捕まえに行ったりはしないよ」
ユキは手にしていたグラスを置き、少しだけ表情を曇らせつつ口を開いた。
「そもそも真尋だって、被害者なんだよ」
「その、被害者ってどういう事だよ」
ユキの言葉に、和喜が不可解そうに顔を頻める。
「真尋は、天狗の国の第一王子なんだけど、」
「王子!?あいつが!?」
和喜は驚き、本当かと春翔を振り返ったが、春翔もレイジと真尋が話しているのを聞いて知っていた程度だ、あの時はレイジと真尋が話している中だったので口を挟まなかったが、春翔もずっと気になっていた。
「僕も、聞くタイミングを逃してて…真尋君って、本当に王子なんですか」
「そう…って言っても、俺も気づいたのは割りと最近だけどね。人間じゃないなっていうのは分かっても、種族までは分からなかったし、真尋も隠してたから。でも、レイジは一目見て分かったそうだよ。やっぱり同族っていうと、感じるものがあるのかな」
「真尋君は、自ら事務所に来たって言ってましたよね」
「うん、多分、春ちゃんの側に居る為だろうね。真尋は事務所に来る前から、春ちゃんの中にいるカゲと連絡を取り合ってた筈だよ。多分、春ちゃんが眠ってる間に、カゲは春ちゃんの体を使ってたんだと思う。そして、カゲの力が戻ってきたと知って、真尋はカゲの側でサポートするために、春ちゃんの居るこの寮で過ごす為、事務所所属を申し込んだんだと思う」
それには、和喜が不満そうに顔を頻めた。
「その時点で、何か変だと思わなかったのか?真尋が天狗だって、社長は分かってたんだろ?」
「分かったからこそ、レイジは信じられなかったんだよ」
「なんで」
「天狗の国は、カゲの一族に襲われてるんだ。レイジは、商人達の道案内で森の外に出てたから無事だったけど…他の天狗の民は、助からなかった」
「え…」
助からなかった、その言葉に、春翔は瞳を揺らした。レイジは真尋の事を、唯一の同族だと言った。
それはつまり、そう考えて、春翔はぎゅっと手を握った。
「天狗の国は小さな国で、森の中にあるんだ。森を熟知してる者じゃないと帰り道も迷ってしまう位、森の深くにあってさ、だから国の事を、皆天狗の森って呼んでる。小さくても妖の世では強大な力を持つ種族だって称えられててさ。大きな翼も風格があって、俺達妖狐程じゃないけど、華があってさ」
「そういうとこ、本当譲らないよな」
「美しさも力の内だからね」
ふふん、と胸を張るユキに、和喜は苦々しい顔を浮かべた。
「その点、カゲの一族はその名前の通り、影に潜む一族だから、過去にどんな事があったのか…。
カゲは春ちゃんにしたように妖に取り憑く事も出来るし、建物の中や土の中でも潜り込んで移動が出来る。自分の足元に、まさか敵が潜んでると思わないでしょ?その油断もあったんだと思う。カゲ達は自分達の能力を最大限活かして、妖の中でも力のある天狗の国を落とし、自分達の方が妖として優れてるって、その力を見せつけようとしたんだ」
酷いものだったよと、ユキは悲しげに笑った。
「俺はまだ子供だったから分からないけど、天狗と妖狐は友好国だったから。
でも、一番ショックだったのはレイジだ。レイジは王族の護衛隊にいたから、守る事が出来なかった事、ずっと悔やんでた」
天狗の森の外は、深い夜が広がり、森の外も道が分かりにくいという。商人や来客があった時等、レイジはいつも森から離れた通りの道まで送って行くという。そして、商人に別れを告げ森を振り返った時、大きな爆発音と共に森に火の手が上がったという。それを見て、レイジは慌てて森に戻ったというが、間に合わなかった。
天狗の森には妖狐の国等と違い、他の種族は暮らしておらず、天狗の民も元々少ない。王族以外も城を囲うように暮らしていたので、本当に小さな国で、皆で寄り添うように暮らしていた、幸せな国だった。
それが、一瞬にして奪われてしまった。
レイジは、目の前で城が、森が焼け崩れていくのを、ただ見るしかなかったという。
おおらかに笑うレイジの姿を思い出し、春翔は信じられない気持ちでいた。それは和喜も同じだったようで、二人は言葉を失い顔を合わせた。
「城や森の焼け跡からは、息絶えた仲間の姿があって、でも、王子である真尋だけは、いくら探しても見つからなかった。まだ赤子だったから一人で逃げる事も出来ないし、妖狐の国からも応援に行ったけど、見つけられなかったそうだ。
だから、真尋が目の前に現れた時、レイジは驚いたって。生き残った天狗の仲間がいるならそれは、見つけられなかった王子しかいないって。
本当にあの王子なのか、生きていたとして、どうして妖だという事を隠して自分の前に現れたのか、分からなくてレイジも迷ったんだと思う。けれど、人の世の妖を束ねているようなあいつに何も情報が入らないわけないからさ。裏で一部の妖が何か企てているって話を聞いて、真尋がその一派に属しているのが分かった。だから、天狗の森で真尋はカゲに命を取られたんじゃない、カゲに連れ去られてたんだって」
「分かったなら、なんで止めなかったんだよ!」
「ちょっと、和!」
思わず身を乗り出す和喜に、春翔は慌ててその体を止めた。ユキは小さく肩を下げた。
「カゲが暴走しない為だよ、こっちには春ちゃんが人質に取られてる、だから好機を探ってたんだ。ゼンや桜千の話を聞く限り、カゲが力を回復させるにはまだ時間がかかったし、それなら手の内に居てくれた方が、何かあった時に対処しやすい。そう思って、春ちゃんや真尋の様子を見てたんだけど」
ユキは小さく息を吐き、「結局、事前に食い止める事は出来なかった」と、申し訳なく眉を垂れたユキに、春翔は慌てて首を振った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー
むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、
ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。
強く、知的で、頼れる大人の男。
その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。
──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。
「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」
そんな言葉には、もう慣れていた。
けれど本当の心は、
守られたい。愛されたい。
そして、可愛いと思われたい。
その本心に気づいてしまった来夢は、
本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。
これは、
愛されることを知った男と、
そのすべてを抱きしめたアイドルの、
とても幸せな恋の話。
独占欲強めな年下アイドル
(櫻井 来夢)
×
愛に飢えた有能マネージャー
(本郷 ルカ)
ーー
完結しました!
来週以降、後日談・番外編を更新予定です。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる