鈴鳴川で恋をして

茶野森かのこ

文字の大きさ
72 / 77

72

しおりを挟む


「もう一度会いたいと思った。スズナリの意志を受け継いで、この境界を守る守番を引き継ぐと決心した。ここに居れば、お前にも会える。二度も争いに巻き込んでいるのに勝手な話だが…俺は、お前にきっと救われていた。何も知らないくせに勝手にくっついてきて、俺に怖がる素振りも見せず笑ってるお前に救われていたんだ。だから、お前の居る世界なら、生きていけると思った」

ゼンの少しかさついた指先が春翔はるとの頬を辿り、垂れた髪をそっと耳に掛けられる。甘く揺れる瞳に胸が強く鳴り響いて、春翔は緊張で固まってしまう。


境界が再び開き、ゼン達は春翔に会おうと町中を探したという。
ただ一目その姿を確認したかった。怖くて会えないというなら、遠目から元気な姿を見れたらそれで良かった、それだけで、ゼンがこの世界で生きる価値がある。
けれど、春翔はどこにもいなかった。まだ通院してるかもと病院にも行った、学校や、春翔の話に出てきた場所を必死に思い出し、毎日駆け回ったが、春翔を見つける事が出来なかった。
それもその筈だ、記憶を失ったまま、春翔はこの町から引っ越してしまっていた。
でも、それでもいつかを夢見て、ゼンは毎日この鈴鳴川すずなりがわで春翔を待っていた。


「ただ、一目会いたかっただけだったんだ。だが、再びカゲが動いている事を知って、お前を見つける為に俺は小説家になった」

待つだけでは守れない、鈴鳴川や妖という言葉が話題になれば、春翔の耳にさえ届けば、会えるのではと。本を読んでさえくれれば、こちらからの訴えを感じ取ってくれるのではと、春翔が何らかのアクションを起こしてくれるのを願っていた。
だが、春翔が神社や川原にやって来る事はなく、何の情報も得られない。それでより人目に触れさせる為に、リュウジが役者になり、情報を広く発信させようとした。

「だが結局お前を見つけたのは、レイジだったな」

その言葉に、春翔はふと頭に疑問が沸き口を開いた。

「じゃあ、僕が社長に声を掛けられたのはゼンさん達の事情を知ってたからですか…?」

少し戸惑いを含んだ問いに、ゼンは少し困り顔で微笑んだ。

「いや、レイジは勿論俺達の目的を知っていたが、春翔の顔までは分からない。お前に声を掛けたのは、妖に取り憑かれている事を見抜いたからだ」

それで、側に置いた方が安全だと考え、レイジは春翔に声を掛けたようだ。仕事をさせたのは二の次だったが、会社にとっても春翔は真面目に働いてくれるので、隼人達には歓迎されたようだ。

「その話を聞いたユキが、お前を春翔だと判断した。あれだけ探しても見つからなかったお前を、レイジが見つけてくれたっていうのにな…」

そこで言葉を切ったゼンからは、春翔を見つけてからの二年間の思いが感じとれた。
春翔をようやく見つける事が出来た、カゲが目覚めるカウントダウンは始まっているのに、それでも会いに行く事が出来なかった。
それを不甲斐ないと思っているかもしれない、でも、春翔を思っての行動であった事も間違いではない筈だ。
春翔は忘れてしまったのか、それは何故か。何度考えても答えは一つ、春翔が過去を思い出したくないからだと、ゼンはそう考えていた。ゼンが会いに行けば、再び恐怖を思い出させてしまうかもしれない。
そんな事ゼンには出来なかった、春翔に否定される程、怖いものはないからだ。

春翔は、後悔に見えるその横顔を、再びその手を握る事で上げさせた。

「僕、ゼンさんが僕を思ってしてくれた事って分かってます。探してくれていた事も、会わずにいてくれた事も、僕の事を、全て忘れてしまった僕の事を考えてくれて、嬉しいです。だから、だからこそ、今こうして再会出来た事が嬉しいです。こうして話してくれたことも。僕、ずっと怖かったんです、失った記憶に何があるのか。それを知る事ができて良かった。…ゼンさんの事も」

照れくさそうに笑んだ春翔だが、でも、と続けながら困ったように笑った。

「まさか、大ファンの藤波先生とこんなご縁があったとは思いもしませんでした…!それに、スズナリ様とも会っていたなんて。遠い昔の神様だとばかり」
「生きながらに長い事、神として祀られていたな。妖と人との境界を治めたスズナリを、二つの世の平和のシンボルとしようと、当時の人々や妖が神社を建てたそうだ。
今でこそ神社らしくあろうと、ユキが催事と称して舞を舞ってるが、本来の目的は、妖と妖を知る人間達が秘密を守り受け継ぎ、情報を共有する為だ。あの神社には、元々祀る神などない、見かけ倒しの神社で、催事も偽物だ。
だが、今は見守ってくれている気がする」

あの神社で、この川原で、きっとスズナリは見守ってくれている。
スズナリが守る鈴鳴川、そよそよと風に揺れる水面は穏やかで、争いが起きた事など、到底信じられない。ましてやここが、妖の世の入り口だなんて。

「…この川原で、僕は何度も命を助けて貰いました。鈴鳴神社の正体も、鈴鳴川の由来も、お化け桜の正体も、僕は全部知っていたんですね…」

それから春翔はゼンを見つめていた目を伏せ、照れくさそうに笑んだ。

    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

Please,Call My Name

叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。 何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。 しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。 大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。 眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。

【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。 幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。 『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』 僕があの時の約束を破ったから? でも確かに突き放されたはずなのに… なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと? そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは―― 「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」 本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。 幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない―― 無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか? 「俺を好きになれ」 拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!! 不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。 アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。 第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!! ※完結したので感想欄開いてます~~^^ ●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。 ●物語は全て一人称で進んでいきます。 ●基本的に攻めの愛が重いです。 ●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。

Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー

むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、 ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。 強く、知的で、頼れる大人の男。 その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。 ──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。 「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」 そんな言葉には、もう慣れていた。 けれど本当の心は、 守られたい。愛されたい。 そして、可愛いと思われたい。 その本心に気づいてしまった来夢は、 本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。 これは、 愛されることを知った男と、 そのすべてを抱きしめたアイドルの、 とても幸せな恋の話。 独占欲強めな年下アイドル (櫻井 来夢)   × 愛に飢えた有能マネージャー (本郷 ルカ) ーー 完結しました! 来週以降、後日談・番外編を更新予定です。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

処理中です...