33 / 64
桜と星と初こいと33
しおりを挟む何が、ごめん、なのか。そんな寂しい顔を残してどこへ行くのか。今、槙じゃなきゃダメだと言ったばかりなのに。
そう思えば、槙の胸は途端に不安に襲われ、嫌な音を立て始める。織人が遠くへ行ってしまいそうで、急に怖くなった。
「待っ、」
その背中を見たくなくて、迫る恐怖に突き動かされるように、槙は腕を伸ばしてベッドから出ようとしたが、急に動こうとしたせいか、視界は途端に真っ暗になり、そのままベッドの上に倒れてしまった。それには、さすがに織人も驚き、慌てて槙の体を支えた。
「おい、何やってんだよ」
「ご、ごめん、平気だから」
「平気じゃないだろ、寝てろよ」
「ごめん、」
「わかったから」
「…ごめん」
体を支えてくれるその指先を捕まえて、槙は俯きながら、きゅっとその指先を握った。そのまま、瞼をぎゅっと閉じて、織人の肩に頭を寄せた。
「ごめん…」
織人は、槙の呟いた「ごめん」に、どんな意味が含まれているか、気づいただろうか。こんな風に身を寄せる自分を、どう思っただろうか。
織人の指先を掴んだ指に力がこもれば、まるで行かないでと訴えているみたいで、槙はどうしようもない自分の行動に、ただ、ごめんと繰り返すしか出来なかった。
そんな織人はといえば、突然寄りかかられた愛しい体温に頬を赤らめ、意味もなく周囲を確認すると、ベッドの傍らに腰を落ち着けた。
それから、ぎゅっと目を閉じた槙の表情を盗み見る。織人からは、槙の顔は辛そうに見え、少しでもその気分が和らげばと思い、空いた手でその頭に触れた。さらりとした髪が手のひらに馴染んで、どれくらいそうしていただろうか、気がつくと、槙からは再び寝息が聞こえてきた。
「…ずるいな、あんた」
優しさに満ちた声は、槙に届いただろうか。優しい織人の温もりの中、槙の表情は次第に和らいでいった。
***
その後、体育祭は無事に終わった。槙が倒れてしまったので、代わりに恋矢が率先して、校庭を駆け回っていたようだ。おかげで、常に恋矢に降り注ぐ教頭の厳しい眼差しも、この日ばかりは幾分和らいだようだ。
槙が次に目を覚ました時、もう傍らに織人の姿はなかった。なんだか少し幸せな夢を見た気がすると、まだどこかぼんやりしたまま仕事に戻れば、流れる汗も爽やかにしかならない恋矢から、織人がリレーのアンカーとして、一番にゴールテープを切ったと聞かされた。
見られなかったのは残念だったなと思い、槙はふと手の平に視線を落とした。まだそこに、織人の温もりが残っているような気がして、そっと手を握りしめた。
生徒の下校が始まる中、午後の部に参加出来なかった分、槙が率先して後片付けに精を出していると、演劇部の面々が顔を見せに来てくれた。
「ごめんな、途中で白けさせたよな」と、槙は申し訳なく謝ったが、部員達はそんな事ないと、心配そうに槙の体を気遣ってくれた。
「それに、演劇部に興味持ってくれた子もいたんだよ!もしかしたら、部員増えるかも!」
部長の折川が気合い十分に言うと、部員達は頷き合い、その明るい様子からは、槙が気にしないよう気遣ってくれている事が伝わってくる。優しい生徒達に、申し訳なさを感じる一方、胸は温かさで満ちていく。今日はお疲れ様会を行うようなので、槙はせめてもの気持ちで費用だけ出させて貰った。ちょっと奮発したので、生徒達も喜んでくれたようだ。
「あまり羽目を外すなよー」と、生徒達を見送りつつ、ふと思う。織人もクラスメイト達に誘われたのだろうか、きっと誘われただろう、何てったって、クラス対抗戦の功労者だ。
「………」
不意に、こうやって自分は、織人の人生から離れていくんだろうなと思った。これから先、織人は沢山の人に出会う、いつまでも進展しない恋なんて追いかけなくても、きっと良い出会いは、この先いくらでもある。
少し眠ったからか、頭の中はどこかすっきりして、追うべき現実がはっきりと見えてくるようだった。槙の向かう道は、やはり織人の元ではないのだと。どんなに心が反発しても、苦しむのは自分だけでたくさんだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
だって、君は210日のポラリス
大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺
モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。
一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、
突然人生の岐路に立たされた。
――立春から210日、夏休みの終わる頃。
それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて――
📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。
エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる