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しおりを挟む「いっちゃん!」
「よぉ、無事か貴子」
やって来たのは、一輝だった。目の前の男は、すぐさま一輝に襲いかかったが、一輝は振りかざされたバットを掴むと、いとも簡単に男の腕を捻り上げてしまった。
「いっ…何だよお前!」
「うちの連れを随分可愛がってくれたみたいだなー兄ちゃん」
「な、元はと言えばこいつが!」
「俺の連れがなんだって?」
「ひ、」
一輝が顔を近づけて凄めば、先程までの意気はどこへやら、バットを手にした男は悲鳴を喉奥に詰まらせ、結局腕を振りほどく事も出来ず、へたりと座り込んでしまった。
「…重井さん、どうして」
男を解放しながら、一輝は匠海の言葉に人の良い笑顔を浮かべた。さすが元ラガーマン、まだまだその力は衰え知らずのようだ。
「いやー、店が酷い事になったって聞いてさ、もしまだ居たら差し入れ持ってこようと思って。来て良かったよ、まさかこんなお客が来てるとはな。お前ら怪我ないか?」
その言葉に、貴子ははっとして匠海の腕を取った。バットを受け止めた匠海の左腕は、真っ赤に腫れ上がっていた。
「大事な腕なのに!どうして飛び出したりしたの!」
「…貴子さんだって、同じじゃないですか」
「私はいいんだよ、別にどうなっても!でも、匠海君は、」
「どうでもいい訳ないだろ!」
貴子は怒ったような匠海の言葉に、驚いて目を瞬かせた。
「いや、その…すみません、驚かせて、でも、」
だが、匠海はすぐに威勢を失って、顔を俯けてしまう。そんな匠海に、貴子は匠海を怒らせてしまったと、あわあわとするばかりだ。一輝はといえば、二人の様子がおかしかったのか、堪えきれないとばかりに声を上げて笑う始末。店の外にまで響くような笑い声に、貴子は一輝を睨み上げた。
「笑わないでよ、いっちゃん!」
「いやぁ、仲が良いな、お前ら」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!救急車!病院行かないと!」
「いや、大丈夫です、そんな重症じゃないから」
「でも!ちゃんと診て貰わないと、こんなに赤くなって…」
貴子が匠海の腕を見て落ち込めば、今度は匠海が戸惑うように瞳を揺らしている。
そんな二人の様子を見て、一輝は一先ず安堵したようで、「ひとまず、警察に連絡。匠海は一応、救急で診て貰おう。頭も打ってるみたいだし、あまり動くなよ」と、匠海の肩に優しく手を置いた。匠海も、一輝の言うことには逆らいがたいのか、それとも、二人に言われては諦めるしかないと思ったのか、今度は匠海も頷いてくれたので、貴子も一つ息を吐いた。
それから、駆けつけた警察官によって男達は連行されていった。匠海はその様子を、ただ黙って見つめていたが、その表情からは、複雑な思いが感じとれた。匠海は、自分を責めているのだろうか、やがて伏せられた瞳は、その腕よりも過去の傷に痛みを覚えているようで、貴子はその傷に触れて良いのか悩み、寄り添う事も躊躇われ、ただその隣に立ち尽くすばかりだった。
***
その後、すぐに病院へ向かったが、匠海の腕は幸い骨に異常はなく、打撲との診断を受けた。その他に、頭も殴られていたが、切り傷や腫れは残るも、それ以上に深刻な症状もないようで、貴子はようやく安堵の息を吐く事が出来た。
だが、暫くは安静だ。店の状況もあるし、匠海にとっては何年振りかの纏まった休みとなった訳だが、本人はすっかり落ち込んでしまっていた。
静かな家に帰ってきて、晩御飯を食べていない事に気づき、買っていたお弁当を温め共に食事をする。何を話して良いのか悩み、ふと箸を運ぶ匠海の手に目が留まり、利き手じゃなくて良かったね、なんて話してみるが、匠海は申し訳なさそうに頷くだけだった。
店を荒らされたのは、匠海を陥れる為だった。こんな時、どんな声を掛ければ良いのか、貴子には分からない。気にするなとか、匠海のせいじゃないとか、災難だったとか、思いつく限り言葉を頭に思い浮かべてみるが、どれも上辺で繕っただけの言葉のようで、匠海にかえって気を遣わせてしまいそうな気がする。
貴子は、そろりと匠海の顔を見やった。匠海はずっと、どこか申し訳なさそうで、それでいて、落ち着かないような表情を浮かべている。その様子からは、貴子をシャットアウトするような感じは受けとれず、もしかしたら、今なら話してくれるかもしれないと、貴子は思いきって口を開いた。
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