たくみくんと夏

茶野森かのこ

文字の大きさ
11 / 15

11

しおりを挟む


「あ、あなた達、何なんですか!警察呼びますよ!」

匠海を支え毅然と対応したいが、いかんせん金属バットで殴り込みに来た青年に会うのは初めてだ。心臓が恐怖で今にも壊れそうだが、匠海を前に弱音を吐いてなんていられない。自分は彼より年上だし、何より彼はここで、ずっとキヨエを守ってくれていた。

「どうぞどうぞ、警察でも何でも呼んで下さいよ!」

そう言いながら、男の一人がバットで固定電話を叩きつけた。貴子は思わず悲鳴を上げた。こんな暴力にあった事がない。

「お姉さん、僕達はこれでも被害者なんですよ」
「…え?」
「こいつさえ居なきゃ、俺達は警察に捕まる事も無かったんでね!」

言いながらテーブルを蹴り飛ばされ、貴子は悲鳴を上げて頭を抱えた。

「や、やめて下さい!これ以上店を壊さないで!」
「じゃー僕達にそれ相応の事して貰わないとー」
「な、何を」
「慰謝料頂きたいなー。まさか、こんな田舎に居ると思わなかったからさー、探すの苦労したんだよ」
「そ、そんな、彼が何したっていうんですか…!」

一人がしゃがみ、貴子と目線を合わせてくるので、貴子は怯えて身を引いた。

「ずっと仲良しだったのにさー、ばーさんの鞄ひったくった時邪魔しやがってさ」
「え、」
「あれのせいで大変だったんだよねー。金は無いわ警察に捕まるわでさー、匠海君は上手く逃げてたみたいだけどー」

思わず匠海に目を向けると、彼は心当たりがあるのか視線を逸らしたまま、何も言わない。

「だからさー、仲間裏切って一人だけ楽しようとか、ふざけんなって話じゃない?」

にこりと笑って、男は貴子の肩を押し退け、後ろの匠海に腕を伸ばす。

「ま、待って!やめて!」

貴子は咄嗟にその腕を押し退け、匠海の前に体を入れ、匠海を背に庇った。

「邪魔したって事は、匠海君、鞄取ってないんだよね?」

え、と、貴子の背後で匠海が小さく声を上げたのが聞こえたが、貴子は振り返る事なく言葉を続けた。

「匠海君のお陰で、ひったくり失敗したんでしょ?そういうの逆恨みって言うんです!うちの大事な…か、家族に手を出さないで!」

過去に何があろうが、貴子は今の匠海しか知らない。匠海はキヨエの大事な店を守ってくれている、キヨエを側で支えてくれている、それは最早家族も同然だ。

そんな貴子の背中を、匠海は呆然と見つめている。言葉では威勢よく言っているが、貴子の背中は小さく震えていた。必死に恐怖を飲み込んで、それでも貴子は、目の前の男達から目を逸らしはしない。

だが、状況は変わらない。目の前の男達が貴子の発言に怒りを覚えたのは、言うまでもない。

「お姉さーん、今の状況わかってるー?」

床にバットが振り下ろされ、響く金属音に貴子はびくりと震えたが、それでも貴子は匠海の前からどかなかった。

「あ、あなた達こそ、こんな事してどうなるか分かってるんでしょうね!」
「ハッ!あんたに何が出来るって言うんだよ!」

いよいよ自身目掛けて振りかざされるバットに、貴子は覚悟を決めてぎゅっと目を瞑った。

「やめろ!」

しかし、匠海も黙って見ていられる訳がない。すかさず匠海が貴子の前に飛び出すと、貴子ははっとして顔を上げた。

「ダメ!」

ガッと鈍い音がして、貴子の前に立ち塞がった匠海が、バットを左腕で受け止めたのが分かった。貴子はその姿に、顔を青ざめさせた。匠海に怪我を負わせてしまった、自分なんかを庇ったばかりに。貴子は、どうして上手く立ち回れないんだろうと、自分を責めて悔やみ、匠海の優しさに胸が苦しくなる。
だが、バッドは再び振りかざされる。今度こそ、匠海を守らなくてはと、貴子がその体に飛びかかろうとした、その時だ。

「なんだ、お前!」

そんな声が聞こえたと思ったら、どういう訳か、後ろに居た二人の男が、次々に悲鳴を上げて倒れていった。
バットを振り上げた男が何事だと振り返ると、店の入り口に、大柄な男が立ち塞がっていた。貴子はその人物を見留めると、ホッとして表情を緩めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】

naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。 舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。 結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。 失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。 やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。 男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。 これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。 静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。 全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...