裸のプリンスⅣ【Ｒ１８】

逝けない女⑧

「えっ、もう一度、言ってください。カズがどうしたって仰ったんですか？」

「何か窃盗事件に関わったらしいのよ。警察が重要参考人として話を聞きたいって」

　カズというのは、一年前、僕を罠にはめた後輩コールボーイである。いや、仕事ではカズの方が先輩なのだけど、彼は僕より一つ下だったのだ。

　年下でも『キャッスル』のナンバー１で、なぜか僕を慕ってくれた金髪の美少年だ。バイ・セクシャルを公言していたが、僕との間には一線を引いていた、はずだった。昨年の大晦日おおみそかまでは。

　カズの態度の急変は、僕がレイカさんを抱いていたことを知ったからだ。キャストが彼女を抱けるのは、面接テスト時の一度だけ。なのに、僕はそのルールを破ったのだ。

　それを知ったカズは僕に容赦しなかった。睡眠薬で眠ったところを拘束され、彼のバナナを愛するように求められたのだ。（『裸のプリンス』「溺れる身体」参照）

「カズくんと連絡を取り合ったりしてるの？」

　レイカさんの問いかけで、我に返った。

「いえ、全然です。去年の大晦日から噂を聞いたこともありません」

「そう、よかった。じゃあ、もし警察が何か言ってきても、嘘を吐かなくて済むわね」

「知らぬ存ぜぬを通す、ということですね」

「ふふっ、相変わらず察しがいいわね。カズくんが『キャッスル』に在籍した痕跡は、すべて消しました。痛くない腹をさぐられるのは、君にも迷惑な話でしょ」

「ええ、そうですね」

　カズのことは少し気になるが、イリーガルな仕事をしている以上、警察との関わりはできるだけ避けたい。

　レイカさんによると、業界筋の友人知人に聞いても、カズの行方はわからないという。相当ヤバいことに手を出したのだろう。離れ小島か海外に逃亡したかもしれない。

　元同僚がたった一年で別世界の人間になったわけだ。人生というものは本当にわからない。

「もし、何かあったら連絡して。何も起こらないことを祈っているけど」

　とりあえず、用件は済んだということらしい。

「わざわざ知らせていただいて、ありがとうございます」
「ううん、また何かあったら連絡する。じゃ、元気でね」

　あっさり、通話を切られた。電話を受けた時の高揚感はどこへやら。僕は溜め息を吐くと、夜空を仰いだ。