裸のプリンスⅤ【R18】

坂本 光陽

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リベンジ・ラブ⑨

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 僕は立ち上がり、頭を下げた。

「新人の頃から長い間、本当にお世話になりました。レイカさんから受けた御恩は忘れません」
「……早く行きなさい。気をつけてね」
「失礼します」

 もう振り返らなかった。店員さんの案内で、従業員専用口を抜けて薄暗い裏通りに出る。尾行者の気配はないが、人目を引く行動は慎むべきだろう。

 駆け出したくなる気持ちを抑えて、渋谷駅方面に向かう。深夜にも関わらず、幸い、人通りが多い。駅前に人混みを縫うように進む。

 渋谷駅の次の表参道駅で乗り換えれば、根津駅まで千代田線一本である。しかし……、ふと思いとどまる。

 深く考えずに自宅マンションに帰ろうとしていたが、僕の身元が知られているのなら、そこにも手が回っているのではないか?

 なら、このまま、どこかに高飛びをすべきだろう。慎重には慎重を期すために。しかし、どこに逃げようか?

 ざっくりいって、北か南か? 寒いのは苦手だ。天候に恵まれていて、バカンスのイメージもある、南の方がベターだろう。仕事がらみで行った沖縄は面白かったし、広島や福岡も一度行ってみたかった。

 いや、裏をかいて、北海道や東北地方もありかもしれない。財布の中にキャッシュカードがあるので、費用の問題はない。

 とりあえず、歩きながら、逃亡先について考える。こういう場合、思いつきで選んだ方がよさそうだ。

 例えば、新宿高速バスターミナルに行き、その時点で最も早く出発するバスに乗車する、というような。確か、大阪や京都,名古屋など、全国各地へ向かう便があるはずである。

 タクシーを拾って、新宿駅へと向かう。幸い、渋滞にもつかまらず、10分とかからずに到着した。バスタ新宿の4階に上がる。

 ふと、自分がワクワクしていることに気づく。僕にとって新宿高速バスターミナルは、再出発の港のように思えた。

 しかし、結論から言うと、それは大失敗だったのだ。

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