大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽

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魔除けと土左衛門④

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「日本橋の話は何か、浅草の人死にと神田の火事が合わさった風だね」

「ああ、日本橋の話は妙に細かい。浅草と神田の話は言っちゃ何だか大雑把おおざっぱだ。『大勢死ぬ』だから何人死ぬのか言っちゃいねぇ。神田の話も『大火事』だろう。何軒焼けるのか、何人死ぬのかわからねぇ」

「そうか、日本橋の話は『三人死ぬ』って人数をはっきりさせている。妙に細かいってそういうことだね。でも、それって、どうして?」

「わからねぇか? てめぇの頭で考えてみなよ」
「マレさん、じらさないで教えてよ」

「俺の考えはこうだ。浅草と神田の話を作った奴と、日本橋の話を作った奴は別人なのさ。日本橋の話は、浅草と神田のそれを真似て作られた。言ってみれば、話の盗人だな」

「ちょっと待った。今、『作った』って言ったよね。化け物の話は作られたの? 本当にあったことじゃなくて、嘘なの?」

「ああ、絵草紙えぞうし滑稽本こっけいぼんと同じだ。嘘は作り事だが、本来は人を楽しませるためにある。化け物の話だって江戸っ子の大好物だから流行るのさ。まぁ、罪のない嘘だな」

 子供相手に実も蓋もない言い方だが、希之介の言葉には真実を語る力強さに満ちていた。

「だが、一方では嘘を悪用して、金儲けをしようとする連中もいる。ほら、見世物小屋の河童を見たサブなら、よくわかるだろう。あれは、罪のない嘘とは言えねぇ」

「うん、それはよくわかる」サブは大きく頷いた。

「日本橋の話にも後ろ暗い嘘が関わっている。死人が出るくらいだからな。連中も相当やばい橋を渡っているのさ」

 そう言って、希之介は大きく溜め息をついた。

「どうするの、源八親分に言うの?」

「さて、どうしたもんかな。下手人の正体に関しては、何一つわかっちゃいねぇんだ」希之介は指先でこめかみを叩き、「証拠は、俺の頭の中だけ。これじゃ、鼻で笑われるのがオチだぜ」

 その時は納得したサブだったが、後に嘘をつかれていたことを知る。
 希之介は既に、下手人の正体を掴んでいた。ただ、サブを巻き込まないために、嘘をついていたのである。
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