もののけ学園 ~天狗隠しのJK~

坂本 光陽

文字の大きさ
2 / 10

天狗隠し事件と転校生①

しおりを挟む
 桃乃華もものか市の名産品は寒天である。冬場の昼夜の寒暖差が美味しい寒天をつくるのだ。名物と呼べるものは、もう一つある。

 それは、妖怪である。岩手県遠野市と同じぐらい、妖怪の伝説が多いのだ。鬼や天狗、河童などの民話が数多く残されており、かつては「もののけ村」と呼ばれていたらしい

 小津野亜湖おづのあこは、そんな桃乃華で生まれ育った。桃乃華の高齢者は、怪しげな事件が起こると、すぐに妖怪の仕業だと口にする。説明のつかない出来事に説明をつけるための道具として、妖怪を使うのである。

 亜湖は幼い頃から、妖怪の話を身近に感じていた。何を隠そう、亜湖は天狗隠しにあったことがある。桃乃華では、神隠しのことを天狗隠しという。天狗に連れ去られて行方不明になった、というわけである。

 亜湖が3歳の時で、場所は山間部にあるいかづち神社だった。亜湖が境内で仔犬を見つけて遊んでいただけなのに、いつのまにか3日間が過ぎていたのだ。幼い娘が突然消えたのだから、周囲は大騒ぎだった。

 17歳になった亜湖は今、雷神社の境内に立っていた。同じクラスの七海が天狗隠しにあい、いてもたってもいられなかったのだ。雷神社に来れば七海が見つかる、とまでは思わないが、何か手掛かりはないかと考えたのだ。

 雷神社に神職はいない。拝殿もなく、古びた本殿がポツンとあるだけだ。本殿は神様だけの建物であるため、本来は神主でも入ることができない。でも、七海たちがいないかどうか、中を覗いて確認することぐらいは構わないだろう。

 亜湖は本殿に歩み寄った。近づくにつれて、産毛うぶげが逆立つような気配を感じた。本殿の周りは空気が濁って、重く沈んでいるようだった。

 その時、背後から強い視線を感じた。ねっとりと熱のこもった視線だ。境内は鬱蒼うっそうたる森に囲まれていて薄暗いのだが、亜湖には視線の主の位置がわかった。

 右後方を振り向くと、男子学生が佇んでいた。見知らぬ学ランを着ているので、他校の生徒だろう。近づいてくる気はなさそうだが、視線が合っても目をそらさない。太い幹に背中を預けて、亜湖の顔を眺めている。

 静寂を引き裂くように、紅葉に色づいた森の奥で大きな音がした。大木が倒れたような音である。亜湖がそちらに気を取られた隙に、美少年の姿は消えていた。夢でも見たのだろうか?

 今の音は「天狗倒し」だったのかもしれない。大木が倒れた音がしたのに、どこを探してもそんな木が見つからないことがある。そんな原因不明の音のことを昔から「天狗倒し」と呼んでいる。

 まさか、さっきの美少年は天狗だったのだろうか?
 そんな、まさかね、と思いながら神社を後にした。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

まばたき怪談

坂本 光陽
ホラー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎるホラー小説をまとめました。ラスト一行の恐怖。ラスト一行の地獄。ラスト一行で明かされる凄惨な事実。一話140字なので、別名「X(旧ツイッター)・ホラー」。ショートショートよりも短い「まばたき怪談」を公開します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...