8 / 10
呪術合戦①
しおりを挟む空が茜色に染まる頃、亜湖と天音は桃乃華病院に到着した。
面会時間が過ぎているので、本来なら、入院病棟に入ることはできない。だが、どういうトリックを使ったのか、天音は堂々と足を踏み入れ、目的の部屋を目指している。
「小津野さん、もたもたしないで、早く来てよ」
亜湖はオドオドしながら、
「どうして病院の人は何も言わないの?」と、天音を追いかける。
「ちょっとした手品のようなものさ。ほら、天狗の〈隠れ蓑〉って知らないか? 今、俺たちも姿は誰にも見えていない」
にわかには信じがたい話だが、誰にも見向きもされぬまま七海の病室まで辿り着いた。幸い、警察官も家族の姿もない。天音と亜湖はスルリと部屋の中に滑りこんだ。
「どうやって、七海たちの意識を取り戻すの?」
「それを行うのは俺じゃない。古津野さんだよ」
「嘘でしょ。私、そんなのできない」
「またまたぁ、御謙遜」
「あ、もしかして、私の中の年配者が、ということ?」
天音は無言で、窓の方を振り向いた。
「思ったより早かったな。小津野さん、後は任せた」
「何よ、それ。天音くん、行っちゃうの?」
「天狗もどきに呪術を解こうとしているのを気づかれた。俺、迎撃してくるからさ。ここは役割分担といこう」
天音はさっさと出ていき、亜湖だけが残された。
呪術を解けるのは亜湖ではなく、亜湖の中にいる年配者である。役小角を思い通りに呼び出せることができるのか?
まぁ、いいか。やるだけやってみよう。亜湖は意外と楽観的だ。試してみたのは九字法。魔物を退散させ、災難を取り除く呪術だった。
亜湖は両手を合わせて拝むように、
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」と、唱えた。
あれ、私、どうして九字法なんて知っているんだろう。そう思いついた時には既に、亜湖の中の小角と心の中で向き合っていた。意識していなくても、両手が高速の手話のように動く。神々の印を結びながら九字を唱え、亜湖は大きな力を得る。
そして、亜湖と小角の心が重なった。
*
天音はイチョウ並木の真ん中で、天狗もどきを待っていた。
おびただしい数の葉っぱを敷きつめた様は、金色の絨毯のようであり、人外のみが出入りできる空間をつくるには最適である。いわゆる、結界と呼ばれるものだ。一般人は今、イチョウ並木に入ることができない。
まもなく、天狗もどきが結界に入ってきた。一般人を巻き込まないのは、ダークサイドで生きるものの不文律だろうか。そんなことを考えながら、天音は距離を詰めていく。近づくにつれて、天狗もどきが毛むくじゃらの顔でないことがわかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる