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第二の謎
血文字と身投げ②
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「さぁな、隣の女房も加代に同じことを訊いたんだが、何も言わなかったそうだ。ただモカヅキと聞こえただけかもしれねぇし、他の言葉だったかもしれねぇって話だ」
モカズキ。謎の血文字とともに、その言葉は貞次郎の脳裏に焼きついた。
「どっちにしろ、あれだけ酷い殺しは女には無理だろう。下っぴきを使って聞き込みをさせているが、当日の晩に怪しい男は見つかっちゃいねぇ。だから、下手人は取立人で決まりよ」
そんな風に亀三が言っているところに、痩せた男が飛び込んできた。
「親分、たった今、吾妻橋で妙な話を……。あれ、貞次郎さん? 御無沙汰をしています」と、ペコリと頭を下げる。貞次郎も笑顔になって、
「おお、熊か。元気そうだな」
三河屋の一件で顔なじみの下っぴきの熊太郎である。
「で、一体なんだ。妙な話ってのは」
「それが親分、前の晩に殺されたはずの加代が、陽が昇ってから吾妻橋を渡っていたって話なんですよ」
「真っ昼間から加代の幽霊が出ただと? そんな戯言をぬかしてるのは、どこのどいつだ」
「それが、吾妻橋の周辺だけでも、2,30人の男女が見ておりやす」
吾妻橋とは通称で、正式には大川橋という。隅田川にかかっている大きな橋で、向島と浅草をつないでいた。ちなみに、吾妻橋は現代でも、ほぼ同じ位置にかかっており、近くには東京スカイツリーがある。
「まだ、殺されたと知らないものだから、皆、声をかけているんですが、加代は逃げるように浅草側を渡っていった。そのうち、浅草側から来た近所の娘からも声をかけられ、こともあろうか、橋の上から身を投げやがった」
「身投げだと?」
「当然、居合わせた連中は大騒ぎでさぁ。一人残らず川面を覗き込んだが、どこにも姿は見当たらず、二度と浮かび上がってこなかった。そこへ俺が顔を出して、加代は夕べ殺されたと教えたものだから、吾妻橋の辺りは今、幽霊話でもちきりですよ」
モカズキ。謎の血文字とともに、その言葉は貞次郎の脳裏に焼きついた。
「どっちにしろ、あれだけ酷い殺しは女には無理だろう。下っぴきを使って聞き込みをさせているが、当日の晩に怪しい男は見つかっちゃいねぇ。だから、下手人は取立人で決まりよ」
そんな風に亀三が言っているところに、痩せた男が飛び込んできた。
「親分、たった今、吾妻橋で妙な話を……。あれ、貞次郎さん? 御無沙汰をしています」と、ペコリと頭を下げる。貞次郎も笑顔になって、
「おお、熊か。元気そうだな」
三河屋の一件で顔なじみの下っぴきの熊太郎である。
「で、一体なんだ。妙な話ってのは」
「それが親分、前の晩に殺されたはずの加代が、陽が昇ってから吾妻橋を渡っていたって話なんですよ」
「真っ昼間から加代の幽霊が出ただと? そんな戯言をぬかしてるのは、どこのどいつだ」
「それが、吾妻橋の周辺だけでも、2,30人の男女が見ておりやす」
吾妻橋とは通称で、正式には大川橋という。隅田川にかかっている大きな橋で、向島と浅草をつないでいた。ちなみに、吾妻橋は現代でも、ほぼ同じ位置にかかっており、近くには東京スカイツリーがある。
「まだ、殺されたと知らないものだから、皆、声をかけているんですが、加代は逃げるように浅草側を渡っていった。そのうち、浅草側から来た近所の娘からも声をかけられ、こともあろうか、橋の上から身を投げやがった」
「身投げだと?」
「当然、居合わせた連中は大騒ぎでさぁ。一人残らず川面を覗き込んだが、どこにも姿は見当たらず、二度と浮かび上がってこなかった。そこへ俺が顔を出して、加代は夕べ殺されたと教えたものだから、吾妻橋の辺りは今、幽霊話でもちきりですよ」
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