純情 パッションフルーツ

坂本 光陽

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 現金なもので、難題が一掃されたので気分爽快だ。もやもやの残りかすも吐き出すことにしよう。
 帰宅後、Tシャツと短パンに着替えて、近所の土手をひたすら走った。周辺には高い建物はなく、夕陽をさえぎるものはない。強烈な西日にさらされるので、野球帽を目深にかぶって対応する。

 残照が川面に反射してキラキラと輝いていた。
 心が軽ければ、身も軽い。僕は走る。晴れ晴れとした気分でひたすら走る。
 さて、この辺りでいいか。僕は道路から外れて、川の方へ近づいていく。ポケットから例の調査資料を取り出し、歩きながら破っていく。細切れにするのは意外と手間がかかる。

 A4サイズで8ページ。こんな薄っぺらな資料で、エリさんの人格を否定できるものか。
「バッカヤローっ」
 僕は叫びながら、思い切り右腕を振った。不ぞろいの紙吹雪は風にのって宙を舞い、ほどなく川面に消えた。
 

 マンションに戻って、シャワーで汗を洗い流した。これで、心身ともにリフレッシュ。気がつくと、腹がペコペコだ。
 今日は僕が炊事当番だ。エリさんはもうすぐ帰ってくるだろう。

 冷蔵庫の中を確認して、しばしメニューを考える。鶏の唐揚げとソーセージが残っていた。キャベツともやしは傷む前に使い切ってしまいたい。ニンジンと大根の切れ端もあった。

 焼きソバと味噌汁にするか。焼きソバはよく作っている。我が家では肉野菜を炒めた後で、ソバ玉を加える。その際、火は弱めて、水は加えない。パリっとした食感を出すためだ。ソバがフライパンにくっつきそうになったら、ゴマ油を落とす。

 並行して、味噌汁もつくる。我が家では赤味噌を使い、スープがわりなので具は少なめだ。最後に味噌を加えたら、煮立てように注意する。
 味噌汁の味見がすんだところで、チャイムが鳴った。
ジャストタイミング。僕はタオルで手を拭きながら、玄関に向かう。

「おかえり、エリさん」

 でも、ドアの前に立っていたのは、エリさんではなかった。

「こんばんは、駿介くん」魅子さんは僕に紙袋を差し出した。「これはお土産よ。食後のデザートにして」
 仔犬のような愛くるしい笑顔に、僕は心をキュッと捕まれる。

「ありがとうございます」
「おじゃましてもいい?」
「ええ、もちろん、どうぞ。でも、エリさんはまだですよ」
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