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1 ルーンカレッジ編
020 王への謁見
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やがて中年の呼び出し係が3人を呼びに来た。
「ジルフォニア=アンブローズ殿、サイファー=バイロン殿、ガストン=ラル殿、王がお呼びでございます。謁見の間にお進みください」
ジルは一つ息を吐くと、控えの間を出て謁見の間へと入る。やはり初めてのことゆえ、緊張しているようだ。
謁見の間は豪奢な赤の絨毯が玉座へと続いている。両側には居合わせた貴族たちが品定めするかのような視線を送っている。ジルたちはゆっくりと玉座まで歩いていく。
「そこで止まられぃ!」
玉座の方から指示が飛んだ。玉座まではまだ大分距離があるが、王と身分の低いものが謁見するには恐らくその距離なのであろう。
前を見渡すと、玉座には王が、その左隣にアルネラ姫がいる。王の右にいるのは恐らく大魔導師であろう。さらにその左右には近衛騎士が立っており、その内の1人は副団長のゼノビアである。そして玉座の前の両側にも近衛騎士が10人控えており、不測の事態に備えている。
「陛下、ルーンカレッジの学生ジルフォニア=アンブローズ殿、サイファー=バイロン殿、ガストン=ラル殿がお目通りを願っております」
王の側近がよく響く声で言う。
「うむ……。3人ともよく来てくれた。こたび我が娘のアルネラを救ってくれたこと、まさに英雄なる行いじゃ。一人の父としても大変感謝している」
「王は大変感謝なされている。ありがたく思うように」
側近が王の意思を取り次いで答える。
「ははっ、ありがたき幸せにございます」
ジルが代表して答える。
跪き首をたれるジルを見た王は、小首をかしげた。
「もう少し近くに寄るが良い。ここでは諸君らの顔も見えんでな」
(王の指示とはいえ、どうすればよいだろうか)
ジルが迷っていたところ、ゼノビアが助け舟をだす。
「陛下の御意である。玉座の近くまで寄りなさい」
「ははっ」
3人は失礼にならないよう気をつけながら、王に近づく。
「その方、名を何というか? 代表して答えたそちじゃ」
王がジルを指して名を聞く。ジルが側近に向かって名を答えようとしたところ――
「よい、娘を救ってくれた英雄だ、直答を許す」
「はっ、私はルーンカレッジの学生、ジルフォニア=アンブローズと申します、陛下」
ジルは失礼にならないよう細心の注意をして答える。
「ふむ。父親は何をしておるか?」
「はっ、父はこのシュバルツバルトで長く上級魔術師として仕えました。陛下の御記憶にはないかもしれませぬが」
「なに? 我が宮廷に仕えていたのか……。済まぬが覚えておらんわい」
「いえっ、滅相もございません。地位が低かったゆえのことです」
王が覚えていないのも無理は無い。魔導師クラスならともかく、上級魔術師は数多く存在するし、入れ替わりもある。そもそも王の近くに侍る身分でもない。王に記憶が無いのも当然である。
「そうか、そちは我がシュヴァルツヴァルトに縁ある者だったのだな。なにやら見覚えがあったのもそのせいか……。ふむ、残りの者はどうじゃ?」
「はっ、私はサイファー=バイロン。シュバルツバルトの平民の出です。帝国との前線部隊で軍務についた後、ルーンカレッジに入学いたしました」
「私はガストン=ラルと申します。フリギアの出身で、両親は魔法塾を営んでおります」
「ほうほう、2人とも頼もしい若者。此度の活躍はすでに一人前の証じゃ。戦いで亡くなった者のことは聞いておる。我が娘のために大変残念なことをした」
「はっ、陛下にかように仰っていただければ、亡くなったレミアも浮かばれましょう」
「アルネラ、そなたからも礼をせんか」
王が隣のアルネラに促す。
「ジルフォニア殿、ガストン殿、サイファー殿。先日は私の危急を救っていただきありがとうございました。いまここに私の命があるのも、全てあなた方のおかげです。亡くなったご友人のレミア殿について、私からもお悔やみ申しあげます」
「ありがたきお言葉。姫がご無事で何よりでした。全ては姫のせいではないことは分かっております。お気になさらずに」
「ほほ、よい若者たちじゃ。娘を救ってくれたのも、さもありなん。――それでじゃ、実はそなたたちに頼みたいことがあってな。ユベール!」
「はは」
ユベールと呼ばれた男が進み出る。右隣にいた大魔導師だ。
「実は貴君らに頼みたいことがある。今回亡くなられたレミア殿の父君は帝国の将軍であるとか。王国として正式にレミア殿のご実家に弔問の使者を送りたいのだが、貴君らにもぜひ随行してもらいたいのだ」
「!?」
「使者はここにいるゼノビア殿だ。レミア殿が亡くなられたその場に居合わせたのだから適任だろう。本人も希望していることだしな」
ゼノビアが深くうなづく。
「レミア殿の遺体は、すでに父君のところに届けてある。この使者は姫の命を救ってくれたことに対して、王国が謝意を示す正式な弔問団である。貴君らには彼女の最期を知る友人として、遺品を実家の父君に送り届けて欲しいのだ」
「そのような御役目、我々で宜しいのでしょうか?」
「なに、むしろこれは君たちでなければ駄目だろう。それに正式な弔問団といっても、なにも外交をしにいくわけではない。気楽に行ってくれ」
ジルはサイファーとガストンの目を見た。どうやら2人にも異存はないようであった。
「……分かりました。我々も亡くなったレミアのために何かしたいと考えていたところです。ご命令に従います」
「それは良かった、重畳重畳。……ところでな、弔問団に加わるということは形式的にでもシュバルツバルトの者でなくては具合が悪いのだ。そこでジル殿とガストン殿は仮の宮廷魔術師、サイファー殿には仮の近衛隊員の身分を与えたいと思うがいかがかな?」
「!?」
ジルたちは大いに驚いた。まさか使者の件からこのような話の展開になるとは予想していなかった。しかしこれは王家が彼らに示す好意の証なのだろうということは分かる。断ってはその好意を無にすることになる。
「ははっ、ご好意深く感謝いたします。必ずや全力で事にあたることをお約束いたします」
「ふぉっふぉ、そう固くならずとも良いぞ。此度の叙任はあくまで仮のものじゃ。将来を保証するものではないでな」
王が機嫌よくこれに応じる。
「それでは皆様には、この後使者の件について細かい打合せに参加していただきます。別室を用意しておりますので移動いただきたい。謁見はこれにて終了とします」
「ジルフォニア=アンブローズ殿、サイファー=バイロン殿、ガストン=ラル殿、王がお呼びでございます。謁見の間にお進みください」
ジルは一つ息を吐くと、控えの間を出て謁見の間へと入る。やはり初めてのことゆえ、緊張しているようだ。
謁見の間は豪奢な赤の絨毯が玉座へと続いている。両側には居合わせた貴族たちが品定めするかのような視線を送っている。ジルたちはゆっくりと玉座まで歩いていく。
「そこで止まられぃ!」
玉座の方から指示が飛んだ。玉座まではまだ大分距離があるが、王と身分の低いものが謁見するには恐らくその距離なのであろう。
前を見渡すと、玉座には王が、その左隣にアルネラ姫がいる。王の右にいるのは恐らく大魔導師であろう。さらにその左右には近衛騎士が立っており、その内の1人は副団長のゼノビアである。そして玉座の前の両側にも近衛騎士が10人控えており、不測の事態に備えている。
「陛下、ルーンカレッジの学生ジルフォニア=アンブローズ殿、サイファー=バイロン殿、ガストン=ラル殿がお目通りを願っております」
王の側近がよく響く声で言う。
「うむ……。3人ともよく来てくれた。こたび我が娘のアルネラを救ってくれたこと、まさに英雄なる行いじゃ。一人の父としても大変感謝している」
「王は大変感謝なされている。ありがたく思うように」
側近が王の意思を取り次いで答える。
「ははっ、ありがたき幸せにございます」
ジルが代表して答える。
跪き首をたれるジルを見た王は、小首をかしげた。
「もう少し近くに寄るが良い。ここでは諸君らの顔も見えんでな」
(王の指示とはいえ、どうすればよいだろうか)
ジルが迷っていたところ、ゼノビアが助け舟をだす。
「陛下の御意である。玉座の近くまで寄りなさい」
「ははっ」
3人は失礼にならないよう気をつけながら、王に近づく。
「その方、名を何というか? 代表して答えたそちじゃ」
王がジルを指して名を聞く。ジルが側近に向かって名を答えようとしたところ――
「よい、娘を救ってくれた英雄だ、直答を許す」
「はっ、私はルーンカレッジの学生、ジルフォニア=アンブローズと申します、陛下」
ジルは失礼にならないよう細心の注意をして答える。
「ふむ。父親は何をしておるか?」
「はっ、父はこのシュバルツバルトで長く上級魔術師として仕えました。陛下の御記憶にはないかもしれませぬが」
「なに? 我が宮廷に仕えていたのか……。済まぬが覚えておらんわい」
「いえっ、滅相もございません。地位が低かったゆえのことです」
王が覚えていないのも無理は無い。魔導師クラスならともかく、上級魔術師は数多く存在するし、入れ替わりもある。そもそも王の近くに侍る身分でもない。王に記憶が無いのも当然である。
「そうか、そちは我がシュヴァルツヴァルトに縁ある者だったのだな。なにやら見覚えがあったのもそのせいか……。ふむ、残りの者はどうじゃ?」
「はっ、私はサイファー=バイロン。シュバルツバルトの平民の出です。帝国との前線部隊で軍務についた後、ルーンカレッジに入学いたしました」
「私はガストン=ラルと申します。フリギアの出身で、両親は魔法塾を営んでおります」
「ほうほう、2人とも頼もしい若者。此度の活躍はすでに一人前の証じゃ。戦いで亡くなった者のことは聞いておる。我が娘のために大変残念なことをした」
「はっ、陛下にかように仰っていただければ、亡くなったレミアも浮かばれましょう」
「アルネラ、そなたからも礼をせんか」
王が隣のアルネラに促す。
「ジルフォニア殿、ガストン殿、サイファー殿。先日は私の危急を救っていただきありがとうございました。いまここに私の命があるのも、全てあなた方のおかげです。亡くなったご友人のレミア殿について、私からもお悔やみ申しあげます」
「ありがたきお言葉。姫がご無事で何よりでした。全ては姫のせいではないことは分かっております。お気になさらずに」
「ほほ、よい若者たちじゃ。娘を救ってくれたのも、さもありなん。――それでじゃ、実はそなたたちに頼みたいことがあってな。ユベール!」
「はは」
ユベールと呼ばれた男が進み出る。右隣にいた大魔導師だ。
「実は貴君らに頼みたいことがある。今回亡くなられたレミア殿の父君は帝国の将軍であるとか。王国として正式にレミア殿のご実家に弔問の使者を送りたいのだが、貴君らにもぜひ随行してもらいたいのだ」
「!?」
「使者はここにいるゼノビア殿だ。レミア殿が亡くなられたその場に居合わせたのだから適任だろう。本人も希望していることだしな」
ゼノビアが深くうなづく。
「レミア殿の遺体は、すでに父君のところに届けてある。この使者は姫の命を救ってくれたことに対して、王国が謝意を示す正式な弔問団である。貴君らには彼女の最期を知る友人として、遺品を実家の父君に送り届けて欲しいのだ」
「そのような御役目、我々で宜しいのでしょうか?」
「なに、むしろこれは君たちでなければ駄目だろう。それに正式な弔問団といっても、なにも外交をしにいくわけではない。気楽に行ってくれ」
ジルはサイファーとガストンの目を見た。どうやら2人にも異存はないようであった。
「……分かりました。我々も亡くなったレミアのために何かしたいと考えていたところです。ご命令に従います」
「それは良かった、重畳重畳。……ところでな、弔問団に加わるということは形式的にでもシュバルツバルトの者でなくては具合が悪いのだ。そこでジル殿とガストン殿は仮の宮廷魔術師、サイファー殿には仮の近衛隊員の身分を与えたいと思うがいかがかな?」
「!?」
ジルたちは大いに驚いた。まさか使者の件からこのような話の展開になるとは予想していなかった。しかしこれは王家が彼らに示す好意の証なのだろうということは分かる。断ってはその好意を無にすることになる。
「ははっ、ご好意深く感謝いたします。必ずや全力で事にあたることをお約束いたします」
「ふぉっふぉ、そう固くならずとも良いぞ。此度の叙任はあくまで仮のものじゃ。将来を保証するものではないでな」
王が機嫌よくこれに応じる。
「それでは皆様には、この後使者の件について細かい打合せに参加していただきます。別室を用意しておりますので移動いただきたい。謁見はこれにて終了とします」
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