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1 ルーンカレッジ編
033 エルフの来訪者1
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テラスへ出ると、外は大分寒かった。すでに秋から冬へと変わる季節だ。外套がなければ肌寒いのも当然だろう。吐く息が白くなる。今はそんな冷たい空気が心地よい。王宮からの眺めは良いはずだが、夜の帳が降りて王宮の明かりが照らすところまでしか見ることはできない。ジルはテラスの手すりに腕をのせ、ぼうっと前を見つめていた。
「お疲れかな? 今日はご苦労だったな」
後ろから声をかけてきたのはゼノビアだ。ゼノビアはシャンパンのグラスをもってテラスへやってきた。ジルの姿がないのを気にして探していたようだ。
「こういう事に慣れていないからでしょうね、疲れました」
「ははは、私だってまだ慣れていないさ。もっとも私の場合、こういう場所で何かを期待されることは無いがな」
ゼノビアの本分は近衛騎士である。その職務上、晩餐会、舞踏会、外交の席など、王室の人間の行く所どのような場所にでもついていくが、ゼノビア自身が儀礼や機転のきいた会話などを求められることはほとんど無い。
「君がこれから王国の魔術師としてやっていくなら、こういう事にも慣れておいた方が良いぞ。単なる魔術師ならともかく、君が求めているのはそんなものではないのだろう?」
「どうしてそう思うんです?」
「私だって、これでも近衛の副団長にまでなった人間だぞ? 野心がないわけじゃない。女でここまで来るのは一筋縄じゃなかったさ」
ジルの視線がゼノビアのそれと交錯した。2人はしばし見つめ合った後、ゼノビアは「あまり長居するなよ。外はもう寒いからな」と言い残し、中へと戻っていった。
その後もジルは暫くテラスに居た。今日は多くの人間と会った。その一人一人の顔を思い出し、話した内容を思い出す。貴族であれば全ての人間の顔と名前、爵位を覚えているのだろう。
外の冷たい大気のおかげで頭も大分冷めてきた。ジルはブルっと一度身震いすると、会場へと踵きびすを返そうとした。
「!?」
視線の端を何かがかすめて行く。ジルはそれを見逃さなかった。
「何者だ!」
それは人影だったはずだ。ジルは自分の目の良さに自信を持っていた。
ザザッ
人影はテラス近くの木陰に潜んだようだ
ジルは呼吸を止めて、何ものをも見逃さないよう集中する。あたりは鎮まりかえり、晩餐会の喧騒が漏れ聞こえてくるくらいである。
ガサッ。突然木陰から人が飛び出してきた。そのまま王宮の外へ逃亡するつもりだろう。ジルは予めつぶやくような声で唱えていた呪文の力を開放する。
「スパイダーウェブ!!」
第二位階の魔法である。粘りのある網によって相手の動きを縛り拘束する魔法である。
「!?」
魔法の網は侵入者を空中で捕らえ、そのまま地面に叩きつけた。
「きゃぁ!」
ジルは「浮遊」の呪文を唱え、テラスから賊のいる外の地面へと降り立つ。賊は叩きつけられた痛みに苦しみながら、もがいていた。何をしてくるか分からない、ジルは十分に注意し、少し遠くから賊を観察する。
意外にも賊は女であった。それも金色の美しい髪をした若い女だ。しかしそれでも油断することは出来ない。この世界、外見だけで判断することは危険なのだ。
「何者だ!?」
ジルは意識的に冷たい声で尋問する。その問いかけに対して、賊は顔を背け何も答えようとはしない。
「もう一度訊ねる。お前は何者だ?」
「…………殺すがいい」
女は全てを諦めた様子で、答えようとしない。
「そんなことは聞いていない。お前は何者なのだ。顔を見せろ!」
ジルは充分に注意しながら女に近づき、その顔をこちらへと向けさせる。
「エルフか!!」
ジルにとって驚愕する事実であった。彼はこれまでエルフを見たことはない。いや、人間でエルフを見たことがある者など、ほとんどいないだろう。
エルフは耳がとがっているという外見的特徴があり、一目でそれと分かる。人間よりもやや華奢な体で、戦士としては弓をよく使う。しかしその最大の武器は魔法であり、強大な魔力を持つ魔術師が多い。人間よりもかなりの長命を誇り、多くの知識と経験を身につけている。
ただエルフは繁殖力が弱く、人間より数は遥かに少ない。エルフから見れば、人間は野蛮な種族であり、それゆえ人間に対して無関心である。通常彼らの世界である「エルフの森」より出てくることは無いはずなのだが……。
「お疲れかな? 今日はご苦労だったな」
後ろから声をかけてきたのはゼノビアだ。ゼノビアはシャンパンのグラスをもってテラスへやってきた。ジルの姿がないのを気にして探していたようだ。
「こういう事に慣れていないからでしょうね、疲れました」
「ははは、私だってまだ慣れていないさ。もっとも私の場合、こういう場所で何かを期待されることは無いがな」
ゼノビアの本分は近衛騎士である。その職務上、晩餐会、舞踏会、外交の席など、王室の人間の行く所どのような場所にでもついていくが、ゼノビア自身が儀礼や機転のきいた会話などを求められることはほとんど無い。
「君がこれから王国の魔術師としてやっていくなら、こういう事にも慣れておいた方が良いぞ。単なる魔術師ならともかく、君が求めているのはそんなものではないのだろう?」
「どうしてそう思うんです?」
「私だって、これでも近衛の副団長にまでなった人間だぞ? 野心がないわけじゃない。女でここまで来るのは一筋縄じゃなかったさ」
ジルの視線がゼノビアのそれと交錯した。2人はしばし見つめ合った後、ゼノビアは「あまり長居するなよ。外はもう寒いからな」と言い残し、中へと戻っていった。
その後もジルは暫くテラスに居た。今日は多くの人間と会った。その一人一人の顔を思い出し、話した内容を思い出す。貴族であれば全ての人間の顔と名前、爵位を覚えているのだろう。
外の冷たい大気のおかげで頭も大分冷めてきた。ジルはブルっと一度身震いすると、会場へと踵きびすを返そうとした。
「!?」
視線の端を何かがかすめて行く。ジルはそれを見逃さなかった。
「何者だ!」
それは人影だったはずだ。ジルは自分の目の良さに自信を持っていた。
ザザッ
人影はテラス近くの木陰に潜んだようだ
ジルは呼吸を止めて、何ものをも見逃さないよう集中する。あたりは鎮まりかえり、晩餐会の喧騒が漏れ聞こえてくるくらいである。
ガサッ。突然木陰から人が飛び出してきた。そのまま王宮の外へ逃亡するつもりだろう。ジルは予めつぶやくような声で唱えていた呪文の力を開放する。
「スパイダーウェブ!!」
第二位階の魔法である。粘りのある網によって相手の動きを縛り拘束する魔法である。
「!?」
魔法の網は侵入者を空中で捕らえ、そのまま地面に叩きつけた。
「きゃぁ!」
ジルは「浮遊」の呪文を唱え、テラスから賊のいる外の地面へと降り立つ。賊は叩きつけられた痛みに苦しみながら、もがいていた。何をしてくるか分からない、ジルは十分に注意し、少し遠くから賊を観察する。
意外にも賊は女であった。それも金色の美しい髪をした若い女だ。しかしそれでも油断することは出来ない。この世界、外見だけで判断することは危険なのだ。
「何者だ!?」
ジルは意識的に冷たい声で尋問する。その問いかけに対して、賊は顔を背け何も答えようとはしない。
「もう一度訊ねる。お前は何者だ?」
「…………殺すがいい」
女は全てを諦めた様子で、答えようとしない。
「そんなことは聞いていない。お前は何者なのだ。顔を見せろ!」
ジルは充分に注意しながら女に近づき、その顔をこちらへと向けさせる。
「エルフか!!」
ジルにとって驚愕する事実であった。彼はこれまでエルフを見たことはない。いや、人間でエルフを見たことがある者など、ほとんどいないだろう。
エルフは耳がとがっているという外見的特徴があり、一目でそれと分かる。人間よりもやや華奢な体で、戦士としては弓をよく使う。しかしその最大の武器は魔法であり、強大な魔力を持つ魔術師が多い。人間よりもかなりの長命を誇り、多くの知識と経験を身につけている。
ただエルフは繁殖力が弱く、人間より数は遥かに少ない。エルフから見れば、人間は野蛮な種族であり、それゆえ人間に対して無関心である。通常彼らの世界である「エルフの森」より出てくることは無いはずなのだが……。
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