シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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1 ルーンカレッジ編

040 カレッジへの帰還2

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 馬車の窓から懐かしい学園の建物が見えてくる。ここ最近はロゴスや帝国に行っていたが、しばらくは学園で過ごせるだろう。とくにジルは最近魔法の研究ができていないことに不安を覚えていた。ジルにとって魔法は単なる技術ではなく、生きがいと言っても良い。

 カレッジにつくと、3人はひとまず学園長の部屋へ任務について報告しに行った。

「3人ともご苦労だったな。何か危険なことはなかったか?」

 学園長室にはデミトリオスの他に、ロクサーヌがいた。カレッジの学生が国の任務につくことは異例なことであったため、学園の方も対応に苦慮しているところがある。

「いえ、帝国領ではとくに何もなく、無事任務を果たすことができました」

「そうか。まあバルダニアであればともかく、帝国とはいまとくに対立しているわけではないからな。下手に手出ししてくることもないだろう」

 そう言うロクサーヌ自身はバルダニアの魔導師である。ロクサーヌはバルダニアに所属はしているものの、とりたてて強い忠誠心を持っているわけではない。宮廷にいる間はともかくとして、カレッジのなかで国の政治を優先するつもりはない。

「これでアルネラ姫の誘拐事件から一区切りがついたな。カレッジでの勉学に集中できるようになるだろう」

 ロクサーヌの言葉にジルが頷く。横でガストンが嫌そうな顔をしているのは無視することにした。

 学園長のデミトリオスがようやく口を開く。

「諸君らは、今回の件でシュバルツバルト王国から宮廷魔術師や騎士に叙任されることになった。レミア君の件は本当に残念なことじゃったが、これは非常に異例なことじゃ。諸君らの将来にとっては必ずやプラスになるだろう。この機会を生かして、才能を磨き大成してもらいたい」

 これは決して大げさに言っているわけではない。カレッジを卒業する事自体難しいことではあるが、卒業した後に満足いく仕官先を見つけることは更に至難のことなのである。

 宮廷魔術師は採用の人数が決まっている狭き門であるし、戦士系では各国の騎士団は最難関と言って良い。ジルやサイファーは抜きん出た才能があるので、いずれ自分に見合った地位につくかもしれないが、今以上の地位につくことは通常では不可能だったであろう。

 ただし、ガストンは能力的に宮廷魔術師が務まるか不安が残る。それは本人も自覚しているようで、カレッジを卒業した後、実際には実家を継ぐのではないか、とジルやサイファーはみていた。

 ジルとガストンはサイファーに分かれを告げ、宿舎の前まで帰ってきた。男子用宿舎の入り口では、レニが壁に寄りかかってジルの帰りを待っていた。すぐ近くにいた男子学生によると、もう30分以上そこで待っていたらしい。

「やあ、レニちゃん!」

 ガストンが気安くレニに声をかける。

「ジル先輩! それとガストンさん」

「俺はついでかよ……」

 ガストンは残念なふりをする。ガストンのいつもの茶番だ。

「ガストン、すまんが先に行っててくれないか?」

「ん? ……分かった。早く帰ってこいよ!」

 気を聞かせているのかいないのか、ガストンは先に部屋へ帰っていった。

「レニ、久し振りだね。魔法は上達したか?」

「お久しぶりです、先輩! 先輩が帝国へ行ってまだ5日ですよ。そんなにすぐに変わるはずが……」

「何を言ってるんだ。5日もあれば目に見えて上達してもおかしくはないぞ。ライトの魔法くらいは出来るようになったか?」

「はい、まだ時間はかかりますが、とりあえず呪文を完成させることは出来るようになりました」

「やったじゃないか。それが出来れば、後は要領は大して変わらない。ひたすら練習あるのみだ」

 魔法を詠唱するという作業は、呪文によって実はそう変わるものではない。もちろん高度な魔法ほど詠唱は長くなり、発動に必要な魔力も多くなるが、事前の詠唱体勢の準備や発動までの手続きなどは共通するところが多い。レニは初学者の多くがつまづくポイントを乗り越えることが出来たのである。

「先輩が指導してくれたおかげです。私、本当に感謝しています」

「いや、レニの才能と頑張りの結果だよ。でもそう言ってくれるなら、明日からまた厳しく指導するからな」

「はい! ぜひお願いします」

 レニは満面の笑みを浮かべて頭を下げた。ジルも最近になってレニを指導することが楽しみになってきている。生まれついての魔力はなかなか良いものを持っている。後は技術の磨き方次第だが、将来魔術師として大成する可能性を秘めているようだ。これは自分もうかうかしていられない、そんな気持ちになること自体がジルにとって心地よいことなのであった。
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