シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
56 / 107
2 動乱の始まり編

056 進級試験2

しおりを挟む
「どうやって特訓すんのよ、ガストン?」

「ジル! お前毎日朝から魔法の特訓しているよな?」

「ああ……まさか」

 ジルは嫌な予感がした。いや必ずしも嫌というわけではないのだが……。

「ジルとレニちゃんの朝練に俺も参加するんだよ。レニちゃんはいま初級だから、呪文の詠唱の練習が中心だろ? だったら俺も一緒にジルに教えてもらえば上手くなるはずだ!」

 ガストンの考えとやらが予想通りだったので、ジルは一つ溜息をついた。

「別にお前の訓練に付き合うのは吝《やぶさ》かではないんだが、わざわざレニとの訓練で一緒にやることはないだろ?」

「そうよ! せっかくジルと2人で訓練できるのに、レニちゃんが可哀想じゃない」

 イレイユがかなり余計な気を回す。

「い、いや……そういうことではないのだが」

 イレイユは何か誤解しているのではないか、ジルは慌てて言った。

「朝早い時間に練習するのが効率良いからだよ! それにジル、昼間や夜だとお前の研究の時間を奪っちまうことになるんだぜ。それで良いのか?」

「うっ、そうだな……。一回で済むならそれにこしたことはないが……」

「あんた、そんなこと言って、ただレニちゃんに会いたいだけなんじゃないの?」

「ふふん、それは君の心が汚れてるから出てくる言葉だよ、イ・レ・イ・ユ!」

 ガストンがおどけて言う。

 結局ガストンの言うように、レニとの訓練にガストンも参加することになった。この場にいる誰もが、ガストンの言うことを額面通りに受け取ったものはいないのだが……。そしてこの事をレニに話した時、レニが一瞬嫌そうな顔をしたのは言うまでもない。

 それから一週間、朝の訓練にガストンも参加した。当然第一位階のレニとは難易度が異なるわけだが、ジルを前にレニとガストンは並んで魔法発動までの時間を短縮する練習を行った。レニは少なくとも表面的には、ガストンが居ることに不満を表さなかった。ジルが親友の危機を救いたいという考えを尊重したのだろう。

 ガストンは意外にも特訓中は真面目であった。むろんガストンのことだ、たまに軽口を叩くようなことはあるが、ジルに分からないところを問い、そして指摘されたことを真剣に改善しようとした。その熱意にはジルも感心せずにはいられない。さすがに実家の魔法塾を継ぐため、ルーンカレッジの卒業資格は何としても取らねばならないという使命感があるのだろう。

 レニにとってもこれは悪くないことかもしれない。今までジルと2人だけで訓練をしてきたが、レニが今ひとつ訓練に集中しきれていないような雰囲気をジルは感じていた(これはレニの気持ちを察することができないジルに原因があるのだが)。しかし意外にもガストンが熱心に練習に取り組んでいるため、レニも感化されて集中力が増したようだ。

**

 そして一週間後。

「ジル、今までありがとうな。おかげで大分詠唱が速くなった気がするよ」

 ガストンは彼にも似ず、礼儀正しく礼を言った。実際ジルは、なんの見返りもなしに一週間も特訓に付き合っていたわけなので、礼ぐらいは言うべきだろう。

「いや、実際速くなってるよ。訓練でやった通りの力が出せれば、進級試験も問題ないはずだ」

「おう、ありがとな、ジル。それとレニちゃん、一緒に特訓してくれてありがとう!」

「いえ、こちらこそ勉強になりました。一緒に特訓してくれる方がいたほうが早く上達するような気がします」

 レニの言葉は多分に社交辞令であろうが、真の気持ちが含まれていないわけではない。

「じゃあ、これからも朝練に参加しちゃおうかな~?」

「それはやめてください……」

 レニは即座に冷たい声で返してしまった。

 結局上級への進級試験は全員が無事通過した。ジルは余裕で、イレイユとルクシュは充分な成績で、そしてガストンはぎりぎりで合格したのである。ガストンが彼にしては優れた成績をあげたことに、ロクサーヌも驚いていた。

「ガスト~ン、やったじゃない」

 ガストンの背中をパーン! と手で叩いて祝ったのはイレイユである。

「おう、これもジルのおかげだぜ。今日は俺が何でもおごってやるからよ!」

「やったー、今日はガストンのおごりだって~」

 イレイユが便乗しておごりにあずかろうとする。

「おいっ、まて! お前らにはおごらないぞ!」

 かなり慌てた口調でガストンが注意する

「ガストンさん、ありがとうございます」

「ルクシュまで……」

 今日は皆で進級試験通過のお祝いをすることになりそうである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

処理中です...