シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
69 / 107
2 動乱の始まり編

069 ゼノビアからの招待2

しおりを挟む
 それから一週間後、ジルはロゴスの王宮を訪れていた。アルネラの護衛を務めることになるので、まずゼノビアから説明を聞かなければならない。ジルはゼノビアの私室に通された。王室を護衛する近衛騎士団の副団長には、王宮内に私室が用意されている。これは不測の事態に備えるためでもあるのだ。

「久しぶりだな、ジル! よく姫の護衛に参加してくれたな」

 ゼノビアは以前と変わらない気さくな態度でジルを出迎えた。

「君が護衛に参加すると聞いて、アルネラさまもいたくお喜びだ。この後会いに行ってくるがいい。だがその前に、今回の事について一通り話しておこう」

「アリア祭ですね。祭りについては大体の事は知っていますが、なぜアルネラさまなのです? わざわざ危険を冒して王女がする必要があるのですか?」

 ジルは思っていた疑問をぶつけてみた。

「まあ、そう思うのも無理は無い。祭りのような多数の人間がいる中で護衛するのは難しいことだからな。だが、これも王国のためなのだ。近年バルダニアとの戦争があり、シュバルツバルトの国政は難しくなりつつあるのだ。だから少しでも民の王室への敬愛の念を強めるため、姫御自身の発案でなされたのだ。我々は姫のその意思を尊重し、御身《おんみ》を守らなければならない」

 ゼノビアの顔が真剣なものとなっていた。ゼノビアとて、本心を言えばアルネラを危ない目には合わせたくないに違いないのだ。

「それで私はどなたの下で動けば良いのでしょうか。ゼノビアさんですか?」

「いや、このような時、王都の警備の責任を負うのは近衛隊長のルーファスだ。私も彼の指揮の下で動くに過ぎん。これからルーファスの所へ行って君を紹介しよう」

 ジルはゼノビアに連れられ、近衛騎士団の詰所に行った。そこではちょうど騎士たちが日頃の訓練をしているところであった。部屋の奥に多数の騎士を従えた男がいた。これが恐らくルーファスだろう、ジルはそう思った。金髪で長身の優男だが、どこか油断ならない雰囲気を漂わせている。

 ジルの予想通り、ゼノビアはその男のところまで足を運びジルを引き合わせた。

「ルーファス、この男がジルフォニア=アンブローズだ。仮だが我が国の宮廷魔術師の地位についている。今回のアルネラさま護衛の任についてもらうことになっている」

「やあ、君が噂のジルフォニア君か。僕はルーファス、近衛騎士団の団長をしている。正規の魔術師でもない君が護衛につくと聞いて、最初は驚いたよ。でも、アルネラさま直々の御希望なら叶《かな》えて差し上げなければね」

 爽やかな笑顔をたたえつつ、ルーファスはジルに右手を差し出した。ジルがその手を握る。

「はじめまして、ルーファスさま。私がジルフォニア=アンブローズです。御高名なルーファスさまにお会いできて光栄です」

 近衛騎士団団長ルーファスの名は、近隣にも「王国の守護者」の二つ名とともに鳴り響いている。剣でも剣聖アルメイダと互角の勝負ができる達人であるが、彼の真価は集団戦闘での指揮にこそある。ルーファスは、戦時には王都ロゴスの防衛を預かる最高指揮官であり、王自身が出陣する際には対外的な戦争にも参加し、王直属部隊の実質的な指揮をとる。

 今から約15年前、現王が王位を継ぎまだその統治が固まっていない頃、地方の有力貴族の反乱があった。反乱軍の勢力は非常に強く、ロゴスは一時反乱軍に包囲されるという深刻な事態を迎えた。この時、まだ副団長であったルーファスは、戦死した団長に変わり王都に侵入した敵兵を巧みな戦術で討ち取り、王都を陥落の危機から救ったのである。その冷静沈着な指揮能力には定評があり、ゼノビアも完全に心服しているようだ。

「君はアルネラさまの“お気に入り”のようだから、常に近くにいて最後の守りとなってもらおう。彼の戦闘能力はどうなのだ?」

 ルーファルがゼノビアに訊ねた。護衛の最高責任者であるルーファスにとってみると、初対面のジルの能力に疑問があるのは仕方のないことである。

「ルーファスも誘拐事件のことは聞いているだろう? 彼は魔法で敵の多くを倒し、アルネラさまの盾となって負傷をしたんだ。能力や忠誠心に疑うべきところはないと思うが?」

「だが剣技はどうだ? 最後敵が詰め寄ってきた時には、魔法は使えない場合が多いだろう。もちろん遠くから敵を発見するために、魔法が有効であるという見方もできる。だからどうだろう、アルネラさまの身辺には、常に戦士としては君に、魔術師としてはジル君にいてもらうというのは。姫としても気心のしれている2人に居てもらった方が落ち着けるだろう」

 ルーファスの提案はゼノビアにとっても異論ないものであった。もし何者かが姫を襲撃するとすれば、魔法を使って攻撃されることもありうるのだ。戦士だけでは対応できないことも考えられる。それにジルとともに居られることは、ゼノビアにとっても嬉しいことであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

処理中です...