シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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2 動乱の始まり編

069 ゼノビアからの招待2

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 それから一週間後、ジルはロゴスの王宮を訪れていた。アルネラの護衛を務めることになるので、まずゼノビアから説明を聞かなければならない。ジルはゼノビアの私室に通された。王室を護衛する近衛騎士団の副団長には、王宮内に私室が用意されている。これは不測の事態に備えるためでもあるのだ。

「久しぶりだな、ジル! よく姫の護衛に参加してくれたな」

 ゼノビアは以前と変わらない気さくな態度でジルを出迎えた。

「君が護衛に参加すると聞いて、アルネラさまもいたくお喜びだ。この後会いに行ってくるがいい。だがその前に、今回の事について一通り話しておこう」

「アリア祭ですね。祭りについては大体の事は知っていますが、なぜアルネラさまなのです? わざわざ危険を冒して王女がする必要があるのですか?」

 ジルは思っていた疑問をぶつけてみた。

「まあ、そう思うのも無理は無い。祭りのような多数の人間がいる中で護衛するのは難しいことだからな。だが、これも王国のためなのだ。近年バルダニアとの戦争があり、シュバルツバルトの国政は難しくなりつつあるのだ。だから少しでも民の王室への敬愛の念を強めるため、姫御自身の発案でなされたのだ。我々は姫のその意思を尊重し、御身《おんみ》を守らなければならない」

 ゼノビアの顔が真剣なものとなっていた。ゼノビアとて、本心を言えばアルネラを危ない目には合わせたくないに違いないのだ。

「それで私はどなたの下で動けば良いのでしょうか。ゼノビアさんですか?」

「いや、このような時、王都の警備の責任を負うのは近衛隊長のルーファスだ。私も彼の指揮の下で動くに過ぎん。これからルーファスの所へ行って君を紹介しよう」

 ジルはゼノビアに連れられ、近衛騎士団の詰所に行った。そこではちょうど騎士たちが日頃の訓練をしているところであった。部屋の奥に多数の騎士を従えた男がいた。これが恐らくルーファスだろう、ジルはそう思った。金髪で長身の優男だが、どこか油断ならない雰囲気を漂わせている。

 ジルの予想通り、ゼノビアはその男のところまで足を運びジルを引き合わせた。

「ルーファス、この男がジルフォニア=アンブローズだ。仮だが我が国の宮廷魔術師の地位についている。今回のアルネラさま護衛の任についてもらうことになっている」

「やあ、君が噂のジルフォニア君か。僕はルーファス、近衛騎士団の団長をしている。正規の魔術師でもない君が護衛につくと聞いて、最初は驚いたよ。でも、アルネラさま直々の御希望なら叶《かな》えて差し上げなければね」

 爽やかな笑顔をたたえつつ、ルーファスはジルに右手を差し出した。ジルがその手を握る。

「はじめまして、ルーファスさま。私がジルフォニア=アンブローズです。御高名なルーファスさまにお会いできて光栄です」

 近衛騎士団団長ルーファスの名は、近隣にも「王国の守護者」の二つ名とともに鳴り響いている。剣でも剣聖アルメイダと互角の勝負ができる達人であるが、彼の真価は集団戦闘での指揮にこそある。ルーファスは、戦時には王都ロゴスの防衛を預かる最高指揮官であり、王自身が出陣する際には対外的な戦争にも参加し、王直属部隊の実質的な指揮をとる。

 今から約15年前、現王が王位を継ぎまだその統治が固まっていない頃、地方の有力貴族の反乱があった。反乱軍の勢力は非常に強く、ロゴスは一時反乱軍に包囲されるという深刻な事態を迎えた。この時、まだ副団長であったルーファスは、戦死した団長に変わり王都に侵入した敵兵を巧みな戦術で討ち取り、王都を陥落の危機から救ったのである。その冷静沈着な指揮能力には定評があり、ゼノビアも完全に心服しているようだ。

「君はアルネラさまの“お気に入り”のようだから、常に近くにいて最後の守りとなってもらおう。彼の戦闘能力はどうなのだ?」

 ルーファルがゼノビアに訊ねた。護衛の最高責任者であるルーファスにとってみると、初対面のジルの能力に疑問があるのは仕方のないことである。

「ルーファスも誘拐事件のことは聞いているだろう? 彼は魔法で敵の多くを倒し、アルネラさまの盾となって負傷をしたんだ。能力や忠誠心に疑うべきところはないと思うが?」

「だが剣技はどうだ? 最後敵が詰め寄ってきた時には、魔法は使えない場合が多いだろう。もちろん遠くから敵を発見するために、魔法が有効であるという見方もできる。だからどうだろう、アルネラさまの身辺には、常に戦士としては君に、魔術師としてはジル君にいてもらうというのは。姫としても気心のしれている2人に居てもらった方が落ち着けるだろう」

 ルーファスの提案はゼノビアにとっても異論ないものであった。もし何者かが姫を襲撃するとすれば、魔法を使って攻撃されることもありうるのだ。戦士だけでは対応できないことも考えられる。それにジルとともに居られることは、ゼノビアにとっても嬉しいことであった。
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