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2 動乱の始まり編
083 帝国の策謀4
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「これは不味いことになったかもしれぬな……」
ヴァルナードがうめくようにつぶやいた。ザービアック、ベイロンが同意して頷く。なぜなら彼らはシュライヒャーを排除しようとしてきたからである。
若き皇帝ヴァルナードにとって、エルンスト=シュライヒャーのような叩き上げの老将軍は扱いにくい人間であった。エルンストは自分の経験を絶対のものと考え、しばしば上層部の指示に反している。
また貴族たちの支持のもと皇帝に即位したヴァルナードは、自らの支持基盤である貴族たちをある程度満足させなければならない。そしてその貴族たちにとって、平民から高位の軍人となったシュライヒャーは目障りな存在だったのである。
大魔導師であるザービアックも、エルンストのような老兵は早く退場するべきだと考えていた。そこでヴァルナードやザービアックは事ある毎にエルンストを冷遇してきたのである。
そして彼らはついにある計画を実行した。エルンストの嫡男エミールを事故に巻き込んで殺害するというものである。当時エミールは若き剣士として帝国の中でも名を上げ始め、エルンストにとって自慢の息子であり後継者であった。
ある時、帝国の「魔獣の森」付近の村で魔獣が出没し、多くの村人が殺害されるという事件が起こった。帝国はすぐに討伐隊を編成し、現地に派遣することを決定した。これは非常に危険な任務である。ザービアックとベイロンは、この討伐隊のメンバーに意図してエミール=シュライヒャーの名を書き加えた。エミールがこの任務で死ねばよし、そうでない時は……。
公式には、討伐隊は全滅したと発表されたが、これは偽りである。エミールはまさに将来英雄になるかもしれない資質を持っていた。討伐隊がみな死に絶え、ただ一人になったエミールは、一騎にて魔獣ワイバーンを倒すことに成功したのである。ところがワイバーンを倒し、息も絶え絶えになったエミールを、ベイロンが背後から襲い殺害したのであった。これがエミール=シュライヒャーの死の真相である。
要するに、彼らはエルンストに憎まれこそすれ、好意をもたれる覚えはないのである。当然エミールの件は、エルンストに秘されている。しかしこれまで彼らがエルンストを冷遇してきたこと、そして娘を殺したのがベイロンだと知れば、エミールの件の真相を探ろうとするかもしれない。そうなればエルンストがどのような態度に出るか予測不能である。最悪の場合、反乱を起こすか、どこかの国に亡命するかもしれない、と彼らは考えていた。
「しかし、そもそもなぜ、あの場にエルンストの娘が居たのだ? そうでなければ何も問題なかったろうに……」
ヴァルナードが計画の破綻がしたことで、無念そうにそう訊ねた。
「あれは全くの偶然のはずです。運命のいたずらとしか……」
ザービアックの調べによれば、レミア=シュライヒャーが王女誘拐事件に巻き込まれたのはやはり偶然でしかない。しかしそのせいで、過去の自分たちの後ろ暗い行いが、明るみに出てしまうかもしれないというのは皮肉なことである。
「いかがいたしましょう、陛下。もはやエルンスト=シュライヒャーを放置は出来ぬかと思いますが」
「まずそなたの意見を聞こう。どうすれば良いと思う?」
「2つの対応が考えられます。第一にエルンスト殿を即座に拘禁し、領内の兵を武装解除させること。一度捕らえてしまえば、後でどのようにでも対応できます。これが最悪の事態を招かないという点においては最上の手かと思います。第二に、さしあたりエルンスト殿を監視し、怪しい動きがあった場合に彼を拘束すること。これは穏当な手ですが、エルンスト殿に叛意があった場合手遅れになる可能性がございます。いかがなさいますか?」
ザービアックはさすがに大魔導師になるだけの男である。対応策をすぐさま提示してきた。おそらく日頃からあらゆるケースを想定して策を練っているのだろう。
「第一の手はエルンストの拘束に失敗した場合、彼をみすみす帝国から離反させてしまう。さらにエルンストはあれで帝国の平民出の軍人の中に信奉者も多い。上手くいったとしても、いらぬ騒ぎを起こしかねないな」
ヴァルナードは策の利点と問題点を冷静に分析していた。彼も皇帝になるまでに多くの策を弄し、兄弟を陥れ帝位の座を射止めた男だ。
「御意。では第二の策をおとりになりますか?」
「そうだな……。ベイロン、そちの黒の手の者を使ってエルンストを探れ。奴に関することはどんな些細なことでも必ず報告させるようにな」
「は、かしこまりました。ではすぐ手配いたします」
ヴァルナードがうめくようにつぶやいた。ザービアック、ベイロンが同意して頷く。なぜなら彼らはシュライヒャーを排除しようとしてきたからである。
若き皇帝ヴァルナードにとって、エルンスト=シュライヒャーのような叩き上げの老将軍は扱いにくい人間であった。エルンストは自分の経験を絶対のものと考え、しばしば上層部の指示に反している。
また貴族たちの支持のもと皇帝に即位したヴァルナードは、自らの支持基盤である貴族たちをある程度満足させなければならない。そしてその貴族たちにとって、平民から高位の軍人となったシュライヒャーは目障りな存在だったのである。
大魔導師であるザービアックも、エルンストのような老兵は早く退場するべきだと考えていた。そこでヴァルナードやザービアックは事ある毎にエルンストを冷遇してきたのである。
そして彼らはついにある計画を実行した。エルンストの嫡男エミールを事故に巻き込んで殺害するというものである。当時エミールは若き剣士として帝国の中でも名を上げ始め、エルンストにとって自慢の息子であり後継者であった。
ある時、帝国の「魔獣の森」付近の村で魔獣が出没し、多くの村人が殺害されるという事件が起こった。帝国はすぐに討伐隊を編成し、現地に派遣することを決定した。これは非常に危険な任務である。ザービアックとベイロンは、この討伐隊のメンバーに意図してエミール=シュライヒャーの名を書き加えた。エミールがこの任務で死ねばよし、そうでない時は……。
公式には、討伐隊は全滅したと発表されたが、これは偽りである。エミールはまさに将来英雄になるかもしれない資質を持っていた。討伐隊がみな死に絶え、ただ一人になったエミールは、一騎にて魔獣ワイバーンを倒すことに成功したのである。ところがワイバーンを倒し、息も絶え絶えになったエミールを、ベイロンが背後から襲い殺害したのであった。これがエミール=シュライヒャーの死の真相である。
要するに、彼らはエルンストに憎まれこそすれ、好意をもたれる覚えはないのである。当然エミールの件は、エルンストに秘されている。しかしこれまで彼らがエルンストを冷遇してきたこと、そして娘を殺したのがベイロンだと知れば、エミールの件の真相を探ろうとするかもしれない。そうなればエルンストがどのような態度に出るか予測不能である。最悪の場合、反乱を起こすか、どこかの国に亡命するかもしれない、と彼らは考えていた。
「しかし、そもそもなぜ、あの場にエルンストの娘が居たのだ? そうでなければ何も問題なかったろうに……」
ヴァルナードが計画の破綻がしたことで、無念そうにそう訊ねた。
「あれは全くの偶然のはずです。運命のいたずらとしか……」
ザービアックの調べによれば、レミア=シュライヒャーが王女誘拐事件に巻き込まれたのはやはり偶然でしかない。しかしそのせいで、過去の自分たちの後ろ暗い行いが、明るみに出てしまうかもしれないというのは皮肉なことである。
「いかがいたしましょう、陛下。もはやエルンスト=シュライヒャーを放置は出来ぬかと思いますが」
「まずそなたの意見を聞こう。どうすれば良いと思う?」
「2つの対応が考えられます。第一にエルンスト殿を即座に拘禁し、領内の兵を武装解除させること。一度捕らえてしまえば、後でどのようにでも対応できます。これが最悪の事態を招かないという点においては最上の手かと思います。第二に、さしあたりエルンスト殿を監視し、怪しい動きがあった場合に彼を拘束すること。これは穏当な手ですが、エルンスト殿に叛意があった場合手遅れになる可能性がございます。いかがなさいますか?」
ザービアックはさすがに大魔導師になるだけの男である。対応策をすぐさま提示してきた。おそらく日頃からあらゆるケースを想定して策を練っているのだろう。
「第一の手はエルンストの拘束に失敗した場合、彼をみすみす帝国から離反させてしまう。さらにエルンストはあれで帝国の平民出の軍人の中に信奉者も多い。上手くいったとしても、いらぬ騒ぎを起こしかねないな」
ヴァルナードは策の利点と問題点を冷静に分析していた。彼も皇帝になるまでに多くの策を弄し、兄弟を陥れ帝位の座を射止めた男だ。
「御意。では第二の策をおとりになりますか?」
「そうだな……。ベイロン、そちの黒の手の者を使ってエルンストを探れ。奴に関することはどんな些細なことでも必ず報告させるようにな」
「は、かしこまりました。ではすぐ手配いたします」
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