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2 動乱の始まり編
088 帝国からの離反
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エルンストは、部下にその友人、カルナスという名の男について聞いてみた。部下もカルナスに会ったのはその一度きりで、一夜の宿を貸した後、「自分がいると迷惑になるから」と言って去ったという。カルナスから近況を知らせる手紙が来たということで、半年前の居場所までは突き止められた。
エルンストはそのカルナスという男を訪ね、話を聞いてみようと思った。傷心のエルンストにとっては、生きる原動力となる何かしらの目的が必要だった。彼にとってそれは、娘レミアの死の真相を確かめることだったのである。
カルナスの居場所は、帝国の東の田舎町イェーナであった。エルンストの領地からはかなりの距離になる。エルンストは馬車を2日走らせ、ようやくイェーナの街に到着した。
住所はイェーナの貧民街の中にあり、行ってみるとかなり治安が悪そうな地域だった。通りを歩く者達は、何か悪事に手を染めていそうな雰囲気を漂わせていた。エルンストは比較的穏やかそうな男に金を握らせ、カルナスについて聞いてみた。
幸運なことに、その男はカルナスのことを知っていた。男によれば、カルナスは依然として盗みなどの犯罪をして暮らしていること、そのような男たちでグループを作り、実質的な頭となっていることなどを聞くことができた。そしてカルナスの家の正確な場所も教えてくれた。
カルナスの家に行ってみると、人けが全く感じられなかった。留守にしているのだろうか、そう思いつつエルンストはドアをノックしてみた。やはり反応がない。ドアには鍵がかけられていない。ここまで来て、収穫なしというのは辛いことだ。エルンストは悪いとは思ったが、ドアを開けて中へ入ってみた。
部屋にはおよそ生活感が感じられない。日々の生活に必要な物がほとんど置かれていないのである。部屋にあるのは、ベッドとテーブルと椅子くらいのものである。おそらくカルナスは、この部屋には寝に帰ってくるだけなのだろう。
「そこで何をしている!」
突然エルンストは背後からそう声をかけられた。優れた武人であるエルンストは、油断なく腰の剣を抜きながら素早く入り口の方へと向き直った。
ドアのところには、盗賊風の男が立っていた。状況から言えば、この男こそがカルナスだろう。男は油断なくナイフを構え、エルンストの出方をうかがっていた。
「慌てるな。私は君に危害を加えるつもりはない」
「勝手に家に入った男を信じられると思うか?」
カルナスの正論にエルンストは苦笑せざるを得ない。
「正論だが、本当のことなのだ」
エルンストはカルナスの友人である部下のことについて話した。そして持っていたカルナスからの手紙を見せたことで、ようやくカルナスもエルンストのことを信用したようであった。
「それでかの有名なエルンスト=シュライヒャーが、この俺に何の用だ?」
カルナスはエルンストを椅子に座らせ、自分は入り口のドアにもたれかかって立っていた。これはいつでも逃げ出せる構えである。
「実は、君がかつて所属していたという“黒の手”について教えて欲しいのだ」
男の顔がピクリと動いた。“黒の手”というのは男にとって、かなりの緊張を強いる言葉らしい。
「奴から聞いたんだな。なぜそんなことを知りたがる?」
「君をスカウトしたという“黒の手”の一員の、『頬に三日月形の傷を持つ男』の正体が知りたいのだ。その男がおそらく私の娘を殺した男だからだ」
エルンストは、正直に娘レミア=シュライヒャーが王女誘拐事件に巻き込まれ、「頬に三日月形の傷を持つ男」によって殺害されたことを話した。
エルンストの話を聞いて、カルナスもエルンストの動機に納得し、同情すらしたようであった。
だが――
「この話は俺にとって自分が危うくなる話なんだ。すまんがそう簡単には話せないね」
カルナスはそう言った。もともと平民であったエルンストのこと、貧民の思考についてはよく分かっている。カルナスは情報の代わりに金を要求しているに違いない。エルンストにとってもはや金や領地、名声などどうでも良くなっていた。そんなことよりも真実が知りたかった。
「これで足りるかな? もし足りなければもっと出してやってもいい」
エルンストは懐から大量の金貨の入った袋をテーブルの上に置いた。テーブルに置く時に響いたズシリという音から、かなりの重量であることが分かる。カルナスは喉をゴクリとならし、袋の中を改める。
「い、いや十分だ。あんたが本気だってことは分かった。俺の知っていることを教えてやろう」
報酬に大いに満足したカルナスは、「黒の手」と「頬に三日月形の傷を持つ男」について詳しく教えてくれた。
エルンストはそのカルナスという男を訪ね、話を聞いてみようと思った。傷心のエルンストにとっては、生きる原動力となる何かしらの目的が必要だった。彼にとってそれは、娘レミアの死の真相を確かめることだったのである。
カルナスの居場所は、帝国の東の田舎町イェーナであった。エルンストの領地からはかなりの距離になる。エルンストは馬車を2日走らせ、ようやくイェーナの街に到着した。
住所はイェーナの貧民街の中にあり、行ってみるとかなり治安が悪そうな地域だった。通りを歩く者達は、何か悪事に手を染めていそうな雰囲気を漂わせていた。エルンストは比較的穏やかそうな男に金を握らせ、カルナスについて聞いてみた。
幸運なことに、その男はカルナスのことを知っていた。男によれば、カルナスは依然として盗みなどの犯罪をして暮らしていること、そのような男たちでグループを作り、実質的な頭となっていることなどを聞くことができた。そしてカルナスの家の正確な場所も教えてくれた。
カルナスの家に行ってみると、人けが全く感じられなかった。留守にしているのだろうか、そう思いつつエルンストはドアをノックしてみた。やはり反応がない。ドアには鍵がかけられていない。ここまで来て、収穫なしというのは辛いことだ。エルンストは悪いとは思ったが、ドアを開けて中へ入ってみた。
部屋にはおよそ生活感が感じられない。日々の生活に必要な物がほとんど置かれていないのである。部屋にあるのは、ベッドとテーブルと椅子くらいのものである。おそらくカルナスは、この部屋には寝に帰ってくるだけなのだろう。
「そこで何をしている!」
突然エルンストは背後からそう声をかけられた。優れた武人であるエルンストは、油断なく腰の剣を抜きながら素早く入り口の方へと向き直った。
ドアのところには、盗賊風の男が立っていた。状況から言えば、この男こそがカルナスだろう。男は油断なくナイフを構え、エルンストの出方をうかがっていた。
「慌てるな。私は君に危害を加えるつもりはない」
「勝手に家に入った男を信じられると思うか?」
カルナスの正論にエルンストは苦笑せざるを得ない。
「正論だが、本当のことなのだ」
エルンストはカルナスの友人である部下のことについて話した。そして持っていたカルナスからの手紙を見せたことで、ようやくカルナスもエルンストのことを信用したようであった。
「それでかの有名なエルンスト=シュライヒャーが、この俺に何の用だ?」
カルナスはエルンストを椅子に座らせ、自分は入り口のドアにもたれかかって立っていた。これはいつでも逃げ出せる構えである。
「実は、君がかつて所属していたという“黒の手”について教えて欲しいのだ」
男の顔がピクリと動いた。“黒の手”というのは男にとって、かなりの緊張を強いる言葉らしい。
「奴から聞いたんだな。なぜそんなことを知りたがる?」
「君をスカウトしたという“黒の手”の一員の、『頬に三日月形の傷を持つ男』の正体が知りたいのだ。その男がおそらく私の娘を殺した男だからだ」
エルンストは、正直に娘レミア=シュライヒャーが王女誘拐事件に巻き込まれ、「頬に三日月形の傷を持つ男」によって殺害されたことを話した。
エルンストの話を聞いて、カルナスもエルンストの動機に納得し、同情すらしたようであった。
だが――
「この話は俺にとって自分が危うくなる話なんだ。すまんがそう簡単には話せないね」
カルナスはそう言った。もともと平民であったエルンストのこと、貧民の思考についてはよく分かっている。カルナスは情報の代わりに金を要求しているに違いない。エルンストにとってもはや金や領地、名声などどうでも良くなっていた。そんなことよりも真実が知りたかった。
「これで足りるかな? もし足りなければもっと出してやってもいい」
エルンストは懐から大量の金貨の入った袋をテーブルの上に置いた。テーブルに置く時に響いたズシリという音から、かなりの重量であることが分かる。カルナスは喉をゴクリとならし、袋の中を改める。
「い、いや十分だ。あんたが本気だってことは分かった。俺の知っていることを教えてやろう」
報酬に大いに満足したカルナスは、「黒の手」と「頬に三日月形の傷を持つ男」について詳しく教えてくれた。
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