シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

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2 動乱の始まり編

091 潜入するエルフ2

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 館の中は最低限の装飾品しかなく、質素なものだった。エルンストの部屋を特定するのは容易だった。使用人以外には、館にはエルンストしか居ないからである。ミリエルはエルンストが居ない時を見計らい、その部屋を捜索した。

 エルンストの部屋の中で何かがあるとすれば、本棚か机だった。ただ本棚の本はホコリが積もっていて、長く読まれていないようであった。もし最近取り出した本があれば、ホコリの跡がついて分かるはずだ。続いてミリエルは机の引き出しの中を調べた。そこには幾つかの書簡と日記があった。ミリエルの眼が光る。何か有益な情報が得られるとすればここだろう。

 書簡の束は、地方の貴族とのやりとりであった。ほとんどが2、3人の同じ貴族とのやりとりで、おそらくエルンストと仲の良い貴族なのだろう。内容は時候の挨拶や昔話など他愛のないものが多かった。

 ただそもそもミリエルはエルフであり、人間のこまやかな感情や文章表現を理解するのは難しかった。彼女がもし人間であり注意深く読めば、書簡の中でエルンストが友人に別れを告げていることを不審に思ったに違いない。それは、いずれ遠くないうちに帝国を離れることを意味するかもしれないからだ。

 次にミリエルは日記を開き、ページをめくった。とくにここ半年の日記を集中的に読む。すると約3ヶ月前の日記に気になる記述があった。

「6月25日 今日その男に会いに行った。男はかつて『黒の手』の一員だった男で、娘の仇について知っていた。そう、私の仇は帝国の人間だったのだ。そしてそれ以上に恐ろしい、そして憎むべき事実を知らされた。私の愛するエミールは殺されたのだ、その同じ男に。私はどうすれば良いのだろうか……」

 この日の日記の内容はあまりに不穏なものだった。エルンストは何者かに会いに行き、娘と息子が帝国の男に殺されたことを知ったということだろう。エルンストも帝国の将軍であるのに、なぜ味方の帝国の人間に家族を殺されなければならないのか、ミリエルには分からなかった。エルフは仲間を何よりも大事にし、決して傷つけるようなことはないのだ。人間というのは良くわからない種族だ、ミリエルはそう思った。

 ガタっ!

 部屋の近くで大きな音がして、ミリエルは我に返った。エルンストが帰ってきたのだと直感し慌てた。だが、いぜんインビジブルの魔法がかかっているため、少なくとも姿が見えることはない。ミリエルは無理に逃げようとするのではなく、部屋の片隅で静かにしている道を選んだ。もしかしたら、その方がより有益な情報が得られるかもしれないからだ。
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