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2 動乱の始まり編
100 重大な任務
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ゼノビアとジルは、エルンスト=シュライヒャーの身柄引受人に指定されたことから、大魔導師ユベールに呼ばれた。細かい段取りについて説明があるのだろう。
「ゼノビア殿、ジルフォニア殿、この度はご苦労をおかけする」
王宮の一室に呼ばれたゼノビアとジルは、ユベールからそう労いの言葉をかけられた。
「いえ、これも私の任務のうちです。そもそもの発端がアルネラ様の誘拐事件にあった以上、私にとっても人事ではありません。ただ、彼=ジルはまだ正式に叙任されたわけではありません。今回の任務は危険な役目、私は仮に死んだとしても仕方がないことですが、彼は……」
ゼノビアが言いよどみ、ユベールが後を引き継ぐ。
「君はこの国の正式の魔術師ではない。この任務は、帝国との戦闘に巻き込まれる可能性が高い危険な任務だ。我々は君にやれと強制することはできない。どうする? もし君がこの任務についてくれるなら、成功すればそれなりの褒美を約束しよう」
「やります。エルンスト=シュライヒャーの使者が来た時から、その覚悟を決めていました」
ジルは間髪を入れず即答した。ここまで来て、結果を見ずに手を引くというのはありえない。
ジルが十分な覚悟を持っていることを認め、ユベールが深く頷いた。
「ありがとう。十分に気をつけてくれたまえ。任務が成功した暁には、私からも君の活躍を陛下の耳に入れよう」
その後、二人はユベールや彼の部下から、細かい段取りについて説明された。エルンストの亡命が帝国に感づかれた場合、国境付近まで帝国軍が追いかけて来るかもしれない。そのような場合の対応について打ち合わせをしたのだ。
「断っても良かったのだぞ? わざわざ危険な任務につかなくても良かったのだ」
ユベールと別れた後、ゼノビアがジルの方を振り返って言った。そう言いつつ、ゼノビアは嬉しそうだった。ジルが断っていたら、さぞがっかりしたことだろう。
「いえ、自分で選択したことです。ここまで来て、人任せにすることはできません。それに……」
「ん?」
ゼノビアがジルの目を見つめる。
「それに、ゼノビアさんを一人にはできないじゃないですか」
ジルの言葉に、ゼノビアの心臓が大きく鼓動した。真面目な顔をしようとしても、どうしても表情が緩んでしまう。
「そ、そうか。ありがとう、ジル。嬉しいよ」
**
ゼノビアとジルは装備を整え、王宮を夕方に出発した。エルンストに指定した待ち合わせ場所につく頃には、夜になっているだろう。極秘に王国へと亡命するのだ、時間は目立たない夜の方が良い。
出立にあたり、ゼノビアは革製の鎧に身を包んだ。いつもの白銀の鎧では、音がたって隠密行動に向かないからだ。ジルは魔法の詠唱の邪魔にならぬよう、服の下に鎖帷子を着込んだ。最悪の場合、命を失いかねない任務だ、できる準備は全てしておかなければならない。
「ゼノビアさん、ちょっと待ってください」
ロゴスの街を出たところで、ジルはゼノビアに声をかけた。
「なんだ? 分かっているだろうが、ここでゆっくりする時間はないぞ?」
「ミリエル! いるか?」
ジルは辺りに呼びかけた。すると――
「いるわよ。随分前からね」
何もないところからミリエルが姿を現した。騎士として物事に動じないたちのゼノビアも、これには流石に驚いた。
「エ、エルフ!? 本物?」
「本物ですよ。以前お話した協力者のミリエルです。監視役として送ったのに、見つかって使者になって帰って来た奴です」
「ちょ、ちょっと! 妙な紹介しないでよっ」
ジルの辛辣な言葉に、ミリエルが抗議の声を上げる。
「そ、そうか。例のエルフだな」
ゼノビアは咳払いを一つすると、ミリエルに手を差し出した。
「私は、シュバルツバルト王国近衛騎士団副団長のゼノビアだ。今回は協力ありがとう」
「……」
ミリエルは差し出された手をじっと見つめていた。そして意を決してその手をつかむ。
「礼には及ばないわ。全てはジルのため、エルフのためよ」
「どういうことだ?」
ゼノビアは不審そうにミリエルとジルの二人を見た。
「話すと長くなりますので、その話はまた今度……それよりも今回の任務にはミリエルにも協力してもらいます。ミリエルはエルフの魔法で透明になれますし、フライも使えますから」
ゼノビアは若干戸惑ったようだった。普通の人間にとって、エルフは得体のしれない存在である。会っていきなり信用しろというのが土台無理な話しなのだ。とくに今回の任務は王国の公的な任務だ。しかし――
「分かった。ミリエル、我々と一緒に来て欲しい。王国のために協力を頼む」
「あなたはエルフを信用するの?」
「正直なところ、君一人では信用しなかっただろうな。私はジルを信頼している。そのジルが君を信頼しているから、私も君を信用するのだ」
「なるほどね……まあ、成り行きだからエルンスト=シュライヒャーをここへ連れてくるまでは付き合うわ」
「ゼノビア殿、ジルフォニア殿、この度はご苦労をおかけする」
王宮の一室に呼ばれたゼノビアとジルは、ユベールからそう労いの言葉をかけられた。
「いえ、これも私の任務のうちです。そもそもの発端がアルネラ様の誘拐事件にあった以上、私にとっても人事ではありません。ただ、彼=ジルはまだ正式に叙任されたわけではありません。今回の任務は危険な役目、私は仮に死んだとしても仕方がないことですが、彼は……」
ゼノビアが言いよどみ、ユベールが後を引き継ぐ。
「君はこの国の正式の魔術師ではない。この任務は、帝国との戦闘に巻き込まれる可能性が高い危険な任務だ。我々は君にやれと強制することはできない。どうする? もし君がこの任務についてくれるなら、成功すればそれなりの褒美を約束しよう」
「やります。エルンスト=シュライヒャーの使者が来た時から、その覚悟を決めていました」
ジルは間髪を入れず即答した。ここまで来て、結果を見ずに手を引くというのはありえない。
ジルが十分な覚悟を持っていることを認め、ユベールが深く頷いた。
「ありがとう。十分に気をつけてくれたまえ。任務が成功した暁には、私からも君の活躍を陛下の耳に入れよう」
その後、二人はユベールや彼の部下から、細かい段取りについて説明された。エルンストの亡命が帝国に感づかれた場合、国境付近まで帝国軍が追いかけて来るかもしれない。そのような場合の対応について打ち合わせをしたのだ。
「断っても良かったのだぞ? わざわざ危険な任務につかなくても良かったのだ」
ユベールと別れた後、ゼノビアがジルの方を振り返って言った。そう言いつつ、ゼノビアは嬉しそうだった。ジルが断っていたら、さぞがっかりしたことだろう。
「いえ、自分で選択したことです。ここまで来て、人任せにすることはできません。それに……」
「ん?」
ゼノビアがジルの目を見つめる。
「それに、ゼノビアさんを一人にはできないじゃないですか」
ジルの言葉に、ゼノビアの心臓が大きく鼓動した。真面目な顔をしようとしても、どうしても表情が緩んでしまう。
「そ、そうか。ありがとう、ジル。嬉しいよ」
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ゼノビアとジルは装備を整え、王宮を夕方に出発した。エルンストに指定した待ち合わせ場所につく頃には、夜になっているだろう。極秘に王国へと亡命するのだ、時間は目立たない夜の方が良い。
出立にあたり、ゼノビアは革製の鎧に身を包んだ。いつもの白銀の鎧では、音がたって隠密行動に向かないからだ。ジルは魔法の詠唱の邪魔にならぬよう、服の下に鎖帷子を着込んだ。最悪の場合、命を失いかねない任務だ、できる準備は全てしておかなければならない。
「ゼノビアさん、ちょっと待ってください」
ロゴスの街を出たところで、ジルはゼノビアに声をかけた。
「なんだ? 分かっているだろうが、ここでゆっくりする時間はないぞ?」
「ミリエル! いるか?」
ジルは辺りに呼びかけた。すると――
「いるわよ。随分前からね」
何もないところからミリエルが姿を現した。騎士として物事に動じないたちのゼノビアも、これには流石に驚いた。
「エ、エルフ!? 本物?」
「本物ですよ。以前お話した協力者のミリエルです。監視役として送ったのに、見つかって使者になって帰って来た奴です」
「ちょ、ちょっと! 妙な紹介しないでよっ」
ジルの辛辣な言葉に、ミリエルが抗議の声を上げる。
「そ、そうか。例のエルフだな」
ゼノビアは咳払いを一つすると、ミリエルに手を差し出した。
「私は、シュバルツバルト王国近衛騎士団副団長のゼノビアだ。今回は協力ありがとう」
「……」
ミリエルは差し出された手をじっと見つめていた。そして意を決してその手をつかむ。
「礼には及ばないわ。全てはジルのため、エルフのためよ」
「どういうことだ?」
ゼノビアは不審そうにミリエルとジルの二人を見た。
「話すと長くなりますので、その話はまた今度……それよりも今回の任務にはミリエルにも協力してもらいます。ミリエルはエルフの魔法で透明になれますし、フライも使えますから」
ゼノビアは若干戸惑ったようだった。普通の人間にとって、エルフは得体のしれない存在である。会っていきなり信用しろというのが土台無理な話しなのだ。とくに今回の任務は王国の公的な任務だ。しかし――
「分かった。ミリエル、我々と一緒に来て欲しい。王国のために協力を頼む」
「あなたはエルフを信用するの?」
「正直なところ、君一人では信用しなかっただろうな。私はジルを信頼している。そのジルが君を信頼しているから、私も君を信用するのだ」
「なるほどね……まあ、成り行きだからエルンスト=シュライヒャーをここへ連れてくるまでは付き合うわ」
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