シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖

文字の大きさ
100 / 107
2 動乱の始まり編

100 重大な任務

しおりを挟む
 ゼノビアとジルは、エルンスト=シュライヒャーの身柄引受人に指定されたことから、大魔導師ユベールに呼ばれた。細かい段取りについて説明があるのだろう。

「ゼノビア殿、ジルフォニア殿、この度はご苦労をおかけする」

 王宮の一室に呼ばれたゼノビアとジルは、ユベールからそう労いの言葉をかけられた。

「いえ、これも私の任務のうちです。そもそもの発端がアルネラ様の誘拐事件にあった以上、私にとっても人事ではありません。ただ、彼=ジルはまだ正式に叙任されたわけではありません。今回の任務は危険な役目、私は仮に死んだとしても仕方がないことですが、彼は……」

 ゼノビアが言いよどみ、ユベールが後を引き継ぐ。

「君はこの国の正式の魔術師ではない。この任務は、帝国との戦闘に巻き込まれる可能性が高い危険な任務だ。我々は君にやれと強制することはできない。どうする? もし君がこの任務についてくれるなら、成功すればそれなりの褒美を約束しよう」

「やります。エルンスト=シュライヒャーの使者が来た時から、その覚悟を決めていました」

 ジルは間髪を入れず即答した。ここまで来て、結果を見ずに手を引くというのはありえない。

 ジルが十分な覚悟を持っていることを認め、ユベールが深く頷いた。

「ありがとう。十分に気をつけてくれたまえ。任務が成功した暁には、私からも君の活躍を陛下の耳に入れよう」

 その後、二人はユベールや彼の部下から、細かい段取りについて説明された。エルンストの亡命が帝国に感づかれた場合、国境付近まで帝国軍が追いかけて来るかもしれない。そのような場合の対応について打ち合わせをしたのだ。

「断っても良かったのだぞ? わざわざ危険な任務につかなくても良かったのだ」

 ユベールと別れた後、ゼノビアがジルの方を振り返って言った。そう言いつつ、ゼノビアは嬉しそうだった。ジルが断っていたら、さぞがっかりしたことだろう。

「いえ、自分で選択したことです。ここまで来て、人任せにすることはできません。それに……」

「ん?」

 ゼノビアがジルの目を見つめる。

「それに、ゼノビアさんを一人にはできないじゃないですか」

 ジルの言葉に、ゼノビアの心臓が大きく鼓動した。真面目な顔をしようとしても、どうしても表情が緩んでしまう。

「そ、そうか。ありがとう、ジル。嬉しいよ」

**

 ゼノビアとジルは装備を整え、王宮を夕方に出発した。エルンストに指定した待ち合わせ場所につく頃には、夜になっているだろう。極秘に王国へと亡命するのだ、時間は目立たない夜の方が良い。

 出立にあたり、ゼノビアは革製の鎧に身を包んだ。いつもの白銀の鎧では、音がたって隠密行動に向かないからだ。ジルは魔法の詠唱の邪魔にならぬよう、服の下に鎖帷子を着込んだ。最悪の場合、命を失いかねない任務だ、できる準備は全てしておかなければならない。

「ゼノビアさん、ちょっと待ってください」

 ロゴスの街を出たところで、ジルはゼノビアに声をかけた。

「なんだ? 分かっているだろうが、ここでゆっくりする時間はないぞ?」

「ミリエル! いるか?」

 ジルは辺りに呼びかけた。すると――

「いるわよ。随分前からね」

 何もないところからミリエルが姿を現した。騎士として物事に動じないたちのゼノビアも、これには流石に驚いた。

「エ、エルフ!? 本物?」

「本物ですよ。以前お話した協力者のミリエルです。監視役として送ったのに、見つかって使者になって帰って来た奴です」

「ちょ、ちょっと! 妙な紹介しないでよっ」

 ジルの辛辣な言葉に、ミリエルが抗議の声を上げる。

「そ、そうか。例のエルフだな」

 ゼノビアは咳払いを一つすると、ミリエルに手を差し出した。

「私は、シュバルツバルト王国近衛騎士団副団長のゼノビアだ。今回は協力ありがとう」

「……」

 ミリエルは差し出された手をじっと見つめていた。そして意を決してその手をつかむ。

「礼には及ばないわ。全てはジルのため、エルフのためよ」

「どういうことだ?」

 ゼノビアは不審そうにミリエルとジルの二人を見た。

「話すと長くなりますので、その話はまた今度……それよりも今回の任務にはミリエルにも協力してもらいます。ミリエルはエルフの魔法で透明になれますし、フライも使えますから」

 ゼノビアは若干戸惑ったようだった。普通の人間にとって、エルフは得体のしれない存在である。会っていきなり信用しろというのが土台無理な話しなのだ。とくに今回の任務は王国の公的な任務だ。しかし――

「分かった。ミリエル、我々と一緒に来て欲しい。王国のために協力を頼む」

「あなたはエルフを信用するの?」

「正直なところ、君一人では信用しなかっただろうな。私はジルを信頼している。そのジルが君を信頼しているから、私も君を信用するのだ」

「なるほどね……まあ、成り行きだからエルンスト=シュライヒャーをここへ連れてくるまでは付き合うわ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...