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2 動乱の始まり編
102 救出作戦
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「私はエルンスト=シュライヒャー様の家臣、バリオスという。お願い申す、エルンスト様をお助けくだされっ!」
バリオスという男はずっと走って来たのだろう、ハァハァと息を切らせている。ゼノビアとジルが顔を見合わせた。
「どういうことだ? エルンスト殿に何があったのだ?」
バリオスは息を整えるのもそこそこに、事情を説明し始めた。
「エルンスト様が館を出てここに来ようとしていたところ、寸前に帝国の人間がやって来て捕らえられたのです。エルンスト様はリーダーらしき男としばらく話をしていましたが、その男のことをベイロンと呼んでいました」
「ベイロン! 奴か!」
ゼノビアの言葉にジルも頷いた。まさしく「黒の手」の首領に違いない。
「それでエルンスト殿はどうなった?」
「我々も食い止めようとしたのですが、向こうは万全に備えていたとみえ、かなりの人数でした。エルンスト様をみすみす連れ去られてしまいました。私だけはエルンスト様の計らいで、あなた方に事情を知らせるよう裏口から脱出したのです」
「なんてことだっ! エルンスト殿がここに来られないのでは任務失敗ではないか!!」
ゼノビアは厳しい表情で悔しがった。ジルも事態の急な展開に、考えをめぐらせている。
「さっき、バリオス殿は助けてくれとおっしゃいましたね。エルンスト殿が連れて行かれた先に心当たりはありますか?」
ジルの言葉にバリオスは自信を持って深く頷いた。
「ええ。連れて行かれたのは、カッセルという都市に間違いありません」
「なぜそう断言できるんですか?」
「カッセルはシュライヒャー領から一番近い帝国直轄の都市であり、この辺りの行政の中心があるところです。軍も駐留しています。差し当たりここまで主人を連れて行き、態勢を整えてから帝都へと連行するのが常道だからです」
ジルとバリオスの会話を、ゼノビアも腕を組みながら聞いていた。バリオスの言う通り、エルンストを救いに行けば、間違いなく帝国の人間と戦闘になるだろう。まずこの人数で勝ち目あるかどうか。
そしてたとえ勝てるとしても、これは与えられた命令に無い行動である。最悪エルンストを救うことが直接の引き金となって、帝国と戦争になるかもしれないのだ。その決断を自分がしてもよいのか、ゼノビアはそこにためらいがあった。
「それで相手の人数は何人ぐらいだろうか?」
ゼノビアがバリオスに確認する。
「ベイロンを入れて10人ほどです。」
「……思ったより少ないな。どうしてだ?」
「それは極秘に行動する必要あったからではないかと。エルンスト様は帝国の名将で、人望もおありです。領地には騎士や兵もおります。大人数で捕らえに来れば、シュライヒャー領の軍と戦闘になり事が大きくなると考えたのではないですか」
なるほど、とゼノビアはベイロンの説明に納得したようであった。
「ゼノビアさん、どうしましょう? エルンスト殿を救いに行きますか?」
「……ジルはどう思う?」
いまこの場に居るもので、決定権を持つのは自分だ。それなのにジルに責任を転嫁するような質問をしたことにゼノビアは自己嫌悪を覚えた。しかし、彼女はジルの判断力を高く評価している。彼なら過たず決断ができるのではないか、そうも思っているのだ。
「今回の任務は、結局のところ、帝国との戦いにならざるを得ないでしょう。いくら我々に大義名分があるとしても、帝国からすればシュライヒャー領を武力で併合されるわけですから、余程弱腰でない限り対抗措置を取ってくるに違いありません。そしてあの皇帝のことですから、ただ泣き寝入りするようなことはないと思います。であれば、今ここで我々がエルンスト殿を救ったとしても、大局に影響を与えてしまうようなことは無いのではないでしょうか」
「ふむ……なるほどな。このまま見て見ぬふりをするわけにもいかないか……」
ゼノビアは決断した。現場の指揮官として、不測の事態に対応しなければならない。エルンストを亡命者として迎えることが任務であるとすれば、なんとかして彼を王都まで連れて帰ることもまた任務だろう。
バリオスという男はずっと走って来たのだろう、ハァハァと息を切らせている。ゼノビアとジルが顔を見合わせた。
「どういうことだ? エルンスト殿に何があったのだ?」
バリオスは息を整えるのもそこそこに、事情を説明し始めた。
「エルンスト様が館を出てここに来ようとしていたところ、寸前に帝国の人間がやって来て捕らえられたのです。エルンスト様はリーダーらしき男としばらく話をしていましたが、その男のことをベイロンと呼んでいました」
「ベイロン! 奴か!」
ゼノビアの言葉にジルも頷いた。まさしく「黒の手」の首領に違いない。
「それでエルンスト殿はどうなった?」
「我々も食い止めようとしたのですが、向こうは万全に備えていたとみえ、かなりの人数でした。エルンスト様をみすみす連れ去られてしまいました。私だけはエルンスト様の計らいで、あなた方に事情を知らせるよう裏口から脱出したのです」
「なんてことだっ! エルンスト殿がここに来られないのでは任務失敗ではないか!!」
ゼノビアは厳しい表情で悔しがった。ジルも事態の急な展開に、考えをめぐらせている。
「さっき、バリオス殿は助けてくれとおっしゃいましたね。エルンスト殿が連れて行かれた先に心当たりはありますか?」
ジルの言葉にバリオスは自信を持って深く頷いた。
「ええ。連れて行かれたのは、カッセルという都市に間違いありません」
「なぜそう断言できるんですか?」
「カッセルはシュライヒャー領から一番近い帝国直轄の都市であり、この辺りの行政の中心があるところです。軍も駐留しています。差し当たりここまで主人を連れて行き、態勢を整えてから帝都へと連行するのが常道だからです」
ジルとバリオスの会話を、ゼノビアも腕を組みながら聞いていた。バリオスの言う通り、エルンストを救いに行けば、間違いなく帝国の人間と戦闘になるだろう。まずこの人数で勝ち目あるかどうか。
そしてたとえ勝てるとしても、これは与えられた命令に無い行動である。最悪エルンストを救うことが直接の引き金となって、帝国と戦争になるかもしれないのだ。その決断を自分がしてもよいのか、ゼノビアはそこにためらいがあった。
「それで相手の人数は何人ぐらいだろうか?」
ゼノビアがバリオスに確認する。
「ベイロンを入れて10人ほどです。」
「……思ったより少ないな。どうしてだ?」
「それは極秘に行動する必要あったからではないかと。エルンスト様は帝国の名将で、人望もおありです。領地には騎士や兵もおります。大人数で捕らえに来れば、シュライヒャー領の軍と戦闘になり事が大きくなると考えたのではないですか」
なるほど、とゼノビアはベイロンの説明に納得したようであった。
「ゼノビアさん、どうしましょう? エルンスト殿を救いに行きますか?」
「……ジルはどう思う?」
いまこの場に居るもので、決定権を持つのは自分だ。それなのにジルに責任を転嫁するような質問をしたことにゼノビアは自己嫌悪を覚えた。しかし、彼女はジルの判断力を高く評価している。彼なら過たず決断ができるのではないか、そうも思っているのだ。
「今回の任務は、結局のところ、帝国との戦いにならざるを得ないでしょう。いくら我々に大義名分があるとしても、帝国からすればシュライヒャー領を武力で併合されるわけですから、余程弱腰でない限り対抗措置を取ってくるに違いありません。そしてあの皇帝のことですから、ただ泣き寝入りするようなことはないと思います。であれば、今ここで我々がエルンスト殿を救ったとしても、大局に影響を与えてしまうようなことは無いのではないでしょうか」
「ふむ……なるほどな。このまま見て見ぬふりをするわけにもいかないか……」
ゼノビアは決断した。現場の指揮官として、不測の事態に対応しなければならない。エルンストを亡命者として迎えることが任務であるとすれば、なんとかして彼を王都まで連れて帰ることもまた任務だろう。
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